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聖夜に [経済]

 このところの寒波が少し緩み、風がなく日向がぽかぽかと暖かい天候が昨日から続いている。弱々しい景況感ながらも、街の中はさすがにクリスマス一色。私の勤務先のオフィスがある丸の内一帯は、今年もライトアップが盛んである。
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 見かけはそうだが、21世紀の今もなお、日本にはキリスト教が根付いていない。1億2千万人の人口の中で、キリスト教徒は1%ほどだという。明治になってミッション系の女学校が幾つも開校し、そこに通った数多くの良家の子女が良妻賢母として次世代を育てていった、それでも僅か1%なのである。

 時として天変地異に見舞われながらも、四季折々の美しい自然に囲まれて一万年の縄文時代を過ごしてきた日本人の心のDNAは、やはり「多神多仏」であり、たった一人の全知全能の神がこの世の全てを創造したとする一神教の世界には、どこかついて行けないところがあるのだろう。だから日本のクリスマスは(信者の方々は別として)本質的には宗教と無縁であり、ごちそうを食べて人に贈り物をする年中行事の一つでしかないようだ。

 だからといって、それを単純に卑下すべきものでもないだろう。外来の物をありがたがって取り入れながらも、魂まで染まってしまうことはしないのが日本の伝統なのだ。芥川龍之介が『神々の微笑』という短編の中で鮮やかに描き出したように、この国の民は「破壊する力」ではなく「造り変える力」によって、外来の物を自分自身の中に取り込んできたのである。

 だが、外来の物をありがたがる背景には、自分の文明への自信のなさがつきまとう。飛鳥・奈良時代の日本が「シルクロードの終着駅」であったのと本質的には同じメンタリティーを、世界第二位のGDP規模を誇る今もなお、日本人は抱え続けているかのようだ。それも、先進国に対してだけでなく、最近では新興国の追い上げに対しても自信を失いつつあるのが気掛かりである。

 日本が抱える自信のなさは、「自分は世界の中心にはいない」という意識から来るのだろう。だから、仮に自分が世界の先頭に立てる、或いはもう既に先頭に立っているような分野でも、自分を世界の中心にするような枠組みやデファクト・スタンダードをちゃっかりと作ってしまうことが苦手である。一方で、日本の中では細々としたところまで顧客の要求が厳しいので、日本の中だけでしか通用しないような「こだわり」にカネと時間を使い、その結果がいわゆる「ガラパゴス化」である。

 最近は世界中でブームといわれる日本食も、それを大きなビジネスとして成功させているのは、決して日本企業ではない。日本人は「本当の日本食」にこだわるが、世界の需要の中心は、日本人ではない消費者が美味しいと認める「日本食的なもの」なのである。「そんなのは日本食じゃない!」と我々が言ってみたところで、美味しいかどうか、お金を払って消費する価値があるかどうかを判断するのはその国の人々であり、その国でのビジネスの目線はそこに持って行くべきなのだろう。しかし、それだって自分(日本の文化)に自信がなかったら出来ないことだ。

 クリスマス・イブの今日、朝からそんなことを考えていたら、日経新聞の中ほどに、「日本創造会議」というシリーズ企画があった。GMやポルシェで腕をふるった工業デザイナーの奥山清行氏(50)の示唆に富む言葉が並んでいる。忘れないように、この日記にも書きとめておきたい。

 「日本は技術がよければ、いい商品ができると過信しているフシがある。だが間違いだ。技術は食に例えれば単なる食材。(中略)料理人の腕がなければ価値は生み出せない。」

 「イタリアといえばフェラーリにグッチ、プラダ。みな地方の中小企業だが、向いているのは世界ということ。首都ローマを経由してビジネスを考えたことなどは一度もない。」

 「その意味では、日本の地方にも可能性がある。ネタになる技術は豊富だし、職人さんも多い。だがイタリアと違い、ブランド化に成功した例が少ないのはなぜか。」
 
 「恐らく、国内に広くいえることだ。日本の中小企業は下請け専門の会社が多い。言われるがままにものをつくってきたから、大企業経由のビジネスしか考えることができなくなっている。まず自分のブランドで製品をもつべきだ。そしてリスクを取り、イタリアみたいに世界に直接売り込みに行ったらどうだろう。」

 「中国やインドの時代になった。(中略)だが、気押しされる必要はない。日本は日本の道をもっと高い次元で実現すればいい。」
 
「中国もインドも30年したら成熟期を迎え、日本のようになる。その時は文化的な豊かさを重視するだろう。日本はそんな『底上げされた世界』をにらみ、今から付加価値の高い産業を構築していくべきだ。」
 
自分自身も含めて、まだまだ日本は頑張れるのだと、心から思いたい。
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