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電気自動車の時代 [経済]

 今月の初め、或る証券会社が主催するセミナーに出て、電気自動車(EV)に関する知識を得る機会があった。慶大の先生で、30年かけてコツコツとEVの開発を続けてきた清水浩教授が講師であった。それも、セミナーの後に清水教授を囲む夕食会付きのものだった。その時のことを書き留めておきたい。

 清水教授の最新作は、航続距離300kmで最高時速370kmという驚くべき性能を持った「エリーカ」という8輪車である。デモ・ビデオを見せてもらったが、スタートから僅か100mを走った所で、F1レーサーが運転するポルシェ911を追い抜かしてしまう。ギア・チェンジが必要な内燃機関と違って、EVは直線的に加速するのである。
エリーカ.jpg
 無論、時速370kmなどというスピードは実社会では必要のないものだが、ガソリン車を上回る性能をEVが持っていることを示す上で、最も解りやすい指標として最高速度にこだわったのだという。搭載するリチウムイオン電池は、30分の充電で70%まで回復するが、これは5年前のモデルであり、最新の電池は、同じ70%まで回復するために要する充電時間が僅か5分だそうだ。コストを別にすれば、電池の性能はもうここまで来ている。

 清水教授の解説は、なかなか巨視的である。
 
 今の世の中でCO2を最も排出する”御三家”は、自動車と製鉄と発電だ。その三つが各々抱えている「内燃機関」「高炉法・転炉法」「火力発電」は、いずれも19世紀に発明され、20世紀になってから広く普及した技術である。しかし、いずれも化石燃料を大量に消費するため、排出するCO2による地球温暖化効果が今や無視し得ないレベルに達している。

 一方、21世紀になってから開発が進められた太陽電池リチウムイオン電池ネオジウム鉄磁石といった新しい技術は、それぞれがスマートグリッドEV水素製鉄への応用が可能であり、化石燃料を消費しない社会を作ることが可能だという。こうした21世紀型の技術を社会の中に取り入れることにより、CO2を発生させることなく、全世界が豊かさを享受することが出来る・・・東北人特有の訥々とした語り口ながら、清水教授は明るい未来を熱く語ってくれた。
 
 内燃機関に比べて構造が圧倒的に簡単で部品数も少なく、床がフラットで車内が広く、走行性能や乗り心地も遜色ないEV。しかし、現状ではリチウムイオン電池が余りに高過ぎるし(三菱自動車が発売を始めた「i-miEV(アイミーブ)」は、車体価格100万円に対して電池の価格が300万円)、各地で充電スポットが整備されないと普及しないのではないか、といったハードルを誰しもが感じてしまいがちだ。

 この点について、清水教授の解説には一段と熱がこもる。商品の普及速度を決めるのは、メーカーではなくてユーザーなのだと。
 
 20世紀において、自動車やエアコンという、それ以前には存在しなかった新たしい製品は、その登場から普及までに20年ほどの年月を要した。一方、レコード → CD、スチールカメラ → デジカメ、固定電話 → 携帯電話、ブラウン管TV → 液晶TV などのように、既に認知されている製品について新技術が登場した場合は、その発売から普及までは僅か7年だった。しかも、新技術は旧技術をほぼ完全に駆逐してしまったのである。だからEVについても、ユーザーが「これは使える!」という納得感を持ち、どこかの時点で一定レベル以上の量産が始まったら、そこから先は直線的でなく、爆発的に市場が拡大する・・・。

 その起爆点について清水教授は、電池が年産10万台のレベルに達した時だという。何故ならば、これまでの経験値として、工業製品は生産量が10倍になると価格が半分になり、100倍になると価格は四分の一になる。アイミーブが年産1,000台の今、リチウムイオン電池が300万円なら、年産10万台になれば電池は四分の一の75万円になる。車体を含めて価格が200万円以下のEVが量産されれば、これは今のガソリン車を駆逐する充分な商品になるという。
 
 以上は自家用車の話だが、一つの電池が6,000回まで充電可能で、一回の充電で300km走れるとすると、累計180万kmの走行が可能なEVは、ディーゼル車に比べて走行コストが桁違いに安く、しかも車内を広く造れるから、トラックやバスなど運輸業においても急速な普及が見込まれる、と清水教授は語る。

 そのEVが年産10万台を越えるのはいつ頃か。今、その準備を始めた電池メーカーが10万台を生産可能になるのは、最速で2013年頃だという。とすれば、その7年後の2020年にはEVが広く普及している可能性がある。今から僅か10年後の世界なのだ。現在のハイブリッド・カーはあくまでもモーターの補助が付いたガソリン・カーという過渡的な姿であり、最終的には純粋なEVによって置き換わるのだという。
 
 そこでまた、不安がつきまとう。そうした量産の世界になると、結局は労働力の安い中国やインドとの競争になってしまうのではないかと。それについては、

 「世界で売れるEVの8割は大衆向けの低価格車で、残りの2割が付加価値の高い高級車。日本は前者で血まみれのコスト競争をする必要はなく、後者で戦えばいい。高級車の8割は日本のメーカーが押さえられる筈だ。」

と、清水教授は力強く答えていた。確かに、既存の大手自動車メーカー、電池メーカーでEV対応が進んでいるのは今のところ圧倒的に日本であるようだ。
 
 このところ、日本を巡る話題には明るいものがない。少子高齢化、年金問題、財政赤字の拡大、東京株式市場の一人負け・・・。そんな中で、この夜は久し振りにわくわくするような話を聞き、夕食会に集まった機関投資家の面々もみな笑顔だった。

 日本の社会は、将来について悲観的なポーズを取ることを好み、ダメだダメだと言ってる割には対策を立てようともしないことが多い。確かな未来が約束されている時代などある筈がないのだから、本当に必要なことは、自信を持って前に進むことではないだろうか。この日はいつになく、その思いを強くした。



 


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