収穫祭のない秋 [ワイン]
9月はブドウの季節だ。街にはよく熟れたブドウがたくさん出回っている。最近は「種なし巨峰」まであるのだから驚きである。
私は若い頃よりも中年になってからの方がブドウが好きになった。それは、その頃からワインに親しむようになったことが大きいのだろうと思う。もっとも、高級ワインにはいつまでたっても縁がない。普段着用のワインばかりである。
私がメール会員になっている山梨県のワイナリーでは過去27年、9月に収穫祭のイベントを行ってきた。日本のワイナリーの中でも、なかなか規模の大きい収穫祭で有名だった。今年はいつになるのかなと思っていたら、8月の終わり頃に届いたメールはその開催の案内ではなく、逆に今年はその開催を見送るという内容のものだった。
「・・・契約農家様と話し合い、天候不順によるブドウ被害のため、その対策に専念させていただくことになりました。・・・」
文面は淡々としているが、それがかえって事態の深刻さをにじませているようでもある。メールを受け取った頃はまだ猛暑の最中であったから、「天候不順によるブドウ被害」とはこの猛暑のことだろうかと、素人の私は思っていたのだが、最近改めてネットで関連ニュースを検索してみると、どうやらそういうことではなさそうだ。
甲州市 べと病深刻 畑の7割 ワイン、減産の恐れ
ブドウの結実不良を起こす病気「べと病」の被害が、産地の峡東地域で深刻化している。JAフルーツ山梨の調査で、管内全域の被害面積は栽培面積の約3割に当たる約74ヘクタールに上り、甲州市内だけでは7割地区の畑で病気の発生が確認されたという。今後収穫が本格化する欧州系品種で目立ち、大幅な収量減が予想される。欧州で人気が出始めた甲州種ワインの原料となる甲州種の被害も少なくなく、ワイナリーは「減産を強いられるかもしれない」と衝撃を受けている。(以下省略)
(山梨日日新聞Web版 2010年9月14日)
べと病というのは、ミズカビの類の病原菌によって引き起こされる植物の病気で、ブドウの他にも瓜類やタマネギ、ダイコン、キャベツなどの野菜が被害を受けるという。ブドウの場合は、葉に斑点が現れて裏面に白いカビが生え、初秋になると葉が落ちて果実が育たなくなってしまうのだそうである。いずれも梅雨時などの湿度の高い時期に蔓延しやすい病害とされる。
地元紙はその後も勝沼のブドウ農家を取材して、記事をアップしていた。
ブドウ全滅 「畑行くのが嫌に・・・」 勝沼の農家 担い手不足も影響
(中略) べと病の原因として、5月から6月にかけての開花期、長雨の影響で十分な消毒ができなかったことが挙げられる。ただ、雨の中でも消毒やかさかけをした農家では、比較的被害が少なかったところもあったという。 (中略)
(同紙 2010年9月21日)
気象庁のHPから勝沼の降水量を調べてみると、確かに今年は春先から7月まで、平年をかなり上回る降水量が毎月観測されたことがわかる。(平年とは、1971~2000年の30年平均である。) ブドウ畑は湿度の高い状態が続き、消毒作業も雨によって妨げられたということなのだろう。夏の暑さが強烈だったために、私たちはそれ以前のことをもう忘れてしまっているが、確かに今年の春はいつまでも肌寒く、雨が多かったのである。
更に今朝のNHKニュースでは、ぶどうの種別で見ると、べと病の被害が食用の「甲斐路」とワイン用の「甲州」に最も多いことが報じられていた。この甲州種から作る白ワインは、すっきりとしていて日本の風土や食材との相性がいいことから、山梨のワイナリーの主力商品になっている。それだけに、今回のべと病被害は極めて深刻な問題なのである。
ここ数年、勝沼のワイナリーが企画するイベントに家内と一緒に参加させていただいたことが何度かあった。昨年の7月には勝沼の「菱山畑」や「鳥居平(とりいびら)畑」で醸造用のブドウが栽培されている様子を見学し、また今年4月には韮崎郊外の明野町にある畑で、新たに甲州種の苗木を植える体験をさせていただいた。ブドウの栽培に従事するスタッフの方々から直接お話を聞かせていただいたりもしたので、べと病被害のニュースには私にとって何とも胸の痛む思いである。何とか応援をしてあげたいものだ。
今年4月のイベントでは、帰りにブドウの「穂木」をお土産にいただいた。長さ20センチほどのものだ。穂木とは接ぎ木をする時に台木の上に挿す木のことで、日本国内で欧州種のブドウを植える時には、日本の土壌に適した日本原種のブドウを台木にして、その上に欧州種の穂木を挿すのである。
「水を入れたコップの中に立てておいて、5月の連休の頃になったら土に挿してみてください。」
そう教えられてその通りにしてみたら、6月になってカベルネ・ソーヴィニョン種の穂木から小さな若葉が出て、それがひと夏をかけてそれなりに立派な枝ぶりになった。
(2010年6月2日撮影)
(2010年9月7日撮影)
特に肥料を与えることもなく、土が乾いたら少量の水を与えるだけなのだが、若葉が出たと思ったら枝が伸びていき、次々と新しい葉をつけていった。最初はただの枯れ枝にしか見えなかった穂木からこんなに緑が甦るとは、何とも不思議なことである。そのカベルネ君は、今ではすっかり我家のベランダの一員になって、毎日太陽の光を浴び、その様子が私たちの目を楽しませてくれる。
ベランダの植物への水やりは、毎朝食事前の私の仕事だ。そしてカベルネ君の元気な姿を見るたびに、勝沼のあのブドウ畑の様子が目に浮かぶ。山梨のブドウ農家とワイナリーがこの危機を乗り越えて行かれることを、心からお祈りしたい。
(9月の勝沼)
私は若い頃よりも中年になってからの方がブドウが好きになった。それは、その頃からワインに親しむようになったことが大きいのだろうと思う。もっとも、高級ワインにはいつまでたっても縁がない。普段着用のワインばかりである。
私がメール会員になっている山梨県のワイナリーでは過去27年、9月に収穫祭のイベントを行ってきた。日本のワイナリーの中でも、なかなか規模の大きい収穫祭で有名だった。今年はいつになるのかなと思っていたら、8月の終わり頃に届いたメールはその開催の案内ではなく、逆に今年はその開催を見送るという内容のものだった。
「・・・契約農家様と話し合い、天候不順によるブドウ被害のため、その対策に専念させていただくことになりました。・・・」
文面は淡々としているが、それがかえって事態の深刻さをにじませているようでもある。メールを受け取った頃はまだ猛暑の最中であったから、「天候不順によるブドウ被害」とはこの猛暑のことだろうかと、素人の私は思っていたのだが、最近改めてネットで関連ニュースを検索してみると、どうやらそういうことではなさそうだ。
甲州市 べと病深刻 畑の7割 ワイン、減産の恐れ
ブドウの結実不良を起こす病気「べと病」の被害が、産地の峡東地域で深刻化している。JAフルーツ山梨の調査で、管内全域の被害面積は栽培面積の約3割に当たる約74ヘクタールに上り、甲州市内だけでは7割地区の畑で病気の発生が確認されたという。今後収穫が本格化する欧州系品種で目立ち、大幅な収量減が予想される。欧州で人気が出始めた甲州種ワインの原料となる甲州種の被害も少なくなく、ワイナリーは「減産を強いられるかもしれない」と衝撃を受けている。(以下省略)
(山梨日日新聞Web版 2010年9月14日)
べと病というのは、ミズカビの類の病原菌によって引き起こされる植物の病気で、ブドウの他にも瓜類やタマネギ、ダイコン、キャベツなどの野菜が被害を受けるという。ブドウの場合は、葉に斑点が現れて裏面に白いカビが生え、初秋になると葉が落ちて果実が育たなくなってしまうのだそうである。いずれも梅雨時などの湿度の高い時期に蔓延しやすい病害とされる。
地元紙はその後も勝沼のブドウ農家を取材して、記事をアップしていた。
ブドウ全滅 「畑行くのが嫌に・・・」 勝沼の農家 担い手不足も影響
(中略) べと病の原因として、5月から6月にかけての開花期、長雨の影響で十分な消毒ができなかったことが挙げられる。ただ、雨の中でも消毒やかさかけをした農家では、比較的被害が少なかったところもあったという。 (中略)
(同紙 2010年9月21日)
気象庁のHPから勝沼の降水量を調べてみると、確かに今年は春先から7月まで、平年をかなり上回る降水量が毎月観測されたことがわかる。(平年とは、1971~2000年の30年平均である。) ブドウ畑は湿度の高い状態が続き、消毒作業も雨によって妨げられたということなのだろう。夏の暑さが強烈だったために、私たちはそれ以前のことをもう忘れてしまっているが、確かに今年の春はいつまでも肌寒く、雨が多かったのである。
更に今朝のNHKニュースでは、ぶどうの種別で見ると、べと病の被害が食用の「甲斐路」とワイン用の「甲州」に最も多いことが報じられていた。この甲州種から作る白ワインは、すっきりとしていて日本の風土や食材との相性がいいことから、山梨のワイナリーの主力商品になっている。それだけに、今回のべと病被害は極めて深刻な問題なのである。
ここ数年、勝沼のワイナリーが企画するイベントに家内と一緒に参加させていただいたことが何度かあった。昨年の7月には勝沼の「菱山畑」や「鳥居平(とりいびら)畑」で醸造用のブドウが栽培されている様子を見学し、また今年4月には韮崎郊外の明野町にある畑で、新たに甲州種の苗木を植える体験をさせていただいた。ブドウの栽培に従事するスタッフの方々から直接お話を聞かせていただいたりもしたので、べと病被害のニュースには私にとって何とも胸の痛む思いである。何とか応援をしてあげたいものだ。
今年4月のイベントでは、帰りにブドウの「穂木」をお土産にいただいた。長さ20センチほどのものだ。穂木とは接ぎ木をする時に台木の上に挿す木のことで、日本国内で欧州種のブドウを植える時には、日本の土壌に適した日本原種のブドウを台木にして、その上に欧州種の穂木を挿すのである。
「水を入れたコップの中に立てておいて、5月の連休の頃になったら土に挿してみてください。」
そう教えられてその通りにしてみたら、6月になってカベルネ・ソーヴィニョン種の穂木から小さな若葉が出て、それがひと夏をかけてそれなりに立派な枝ぶりになった。
(2010年6月2日撮影)
(2010年9月7日撮影)
特に肥料を与えることもなく、土が乾いたら少量の水を与えるだけなのだが、若葉が出たと思ったら枝が伸びていき、次々と新しい葉をつけていった。最初はただの枯れ枝にしか見えなかった穂木からこんなに緑が甦るとは、何とも不思議なことである。そのカベルネ君は、今ではすっかり我家のベランダの一員になって、毎日太陽の光を浴び、その様子が私たちの目を楽しませてくれる。
ベランダの植物への水やりは、毎朝食事前の私の仕事だ。そしてカベルネ君の元気な姿を見るたびに、勝沼のあのブドウ畑の様子が目に浮かぶ。山梨のブドウ農家とワイナリーがこの危機を乗り越えて行かれることを、心からお祈りしたい。
(9月の勝沼)
2010-09-29 21:09
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