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リンゴとミカン (2) [スポーツ]

 “baseball”という言葉が米国の文献に初めて登場したのは、18世紀の終わり頃であるそうだ。英国で中世から行われてきた遊びが、移民によって新大陸にもたらされ、次第に現在の野球の原型のようなルールが出来ていったらしい。

 北部を中心にしたスポーツだったのが、南北戦争(1861~65年)を契機に南部も広まることになった。その戦争が終わった4年後の1869年には、シンシナティ・レッドストッキングスという世界初のプロ球団が誕生していたというから、今も昔も米国は新たなビジネスの開拓に貪欲なお国柄である。

本場・米国でもリンゴとミカンは別物

 その翌々年には、世界初のプロ野球リーグが発足。これは一度失敗するのだが、それを引き継ぐ形で1876(明治9)年にナショナル・リーグが設立され、早くも「メジャー・リーグ」を名乗った。そして、現在のMLBを構成するもう一方のリーグであるアメリカン・リーグが始まったのは、これより四半世紀も後の1901年のことだ。以来、リンゴ村とミカン村の2リーグ制のプロ野球がずっと続いている。公式戦はそれぞれのリーグ内だけで行われ、両リーグの優勝チーム同士によるワールド・シリーズだけが接点だった。

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 四半世紀も歴史が長いだけあって、米国では伝統的にナ・リーグの方が人気を集めていた。それを何とかして挽回したいいア・リーグ。そこで1973年に導入されたのが、打撃戦となりやすい「指名打者制」だ。(日本でも、不人気に喘いでいたパ・リーグが、ア・リーグに倣って1975年からこの制度を取り入れている。) 以来、ナ・リーグとア・リーグは異なる野球をすることになった。

 だが、「リンゴはリンゴ、ミカンはミカン」とも言っていられなくなったのが、1994年から翌年にかけてのMLB選手会のストライキによる深刻なファン離れだった。事態を受け止めたMLBは、新企画としてインターリーグ(交流戦)を1997年のシーズンから開始。同地区内の顔合わせが中心ではあるが、ともかくもヤンキース対メッツ、ホワイトソックス対カブス、エンゼルス対ドジャースのようなリンゴとミカンの対決を、公式戦の一環として楽しめることになった。

こうするしかないMLBのプレーオフ

 日本よりも球団数がずっと多いMLB。しかも広い国土で、東西の時差が3時間もある。球団数が20を超えた1969年に、両リーグがそれぞれ東西二地区制を導入し、更にチーム数が増えた1990年代からは中地区を加えた三地区制になった。現在は両リーグを合わせて30球団。ヒューストン・アストロズがナ・リーグ中地区からア・リーグ西地区へと鞍替えしたことで、2013年のシーズンから両リーグともに15球団、それぞれ東・中・西地区に5球団ずつ、という体制になっている。
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 レギュラー・シーズンは、各チームが年間162試合。この内、自分が所属する地区の4球団と各19試合ずつ対戦するので、これだけで76試合。リーグ内の他地区の球団(5×2=10球団)との対戦が計66試合。そしてインターリーグが20試合だ。同じリーグの同一地区内では同じ相手と19回も当たるのに、他の地区とは一球団あたり6~7回しか当たらない。つまり、同一リーグ内でも完璧な「総当たり」では全然ないのだ。インターリーグに至っては、15球団の内の6球団と3~4回対戦するだけである。(但し、全体を通じてホーム81試合、アウェイ81試合となるように調整されているようだ。)

 それでは公平じゃない、という声もあるのだろうが、あの広い国土で完璧な「総当たり」を目指すのも現実的ではないのだろう。だからこそ、各リーグで三地区の各優勝チームとワイルド・カード(優勝チームを除いた残りの中で最高勝率のチーム)によるプレーオフを行う意味があるのだ。同じリンゴ村の中でも畑によって出来が違うから、村のチャンピオンを決めるには、それぞれの畑の代表同士で白黒つけてもらわねばならない。

過剰感を拭えない日本のCS

 それとは対照的に、セ・パ両リーグが各6球団の日本のプロ野球では、年間144試合のレギュラー・シーズン自体が、リーグ戦も交流戦も完璧な「総当たり」だ。同じリーグ内の5球団と24回ずつ対戦し、交流戦でも別リーグの全6球団と4回ずつ当たる。2004年からパ・リーグが先行して始め、2007年からセ・リーグも追随する形になったクライマックス・シリーズ、つまり日本版のプレーオフ制度にどこか疑問が残る理由が、ここにある。

 これが消化試合を減らすための方策であったことは言うまでもないのだが、各リーグ6球団のうち3球団がプレーオフに進むことの過剰感もさることながら、MLBとは違ってレギュラー・シーズンが既に完璧な総当たりなのだから、リンゴ村とミカン村のそれぞれの中ではもう白黒ついているじゃないか、という点である。それだから、42.195kmのマラソンで順位が決まった後に100m走で本当の勝者を決めようとしているような印象を拭えないのだ。

 これに対して、現在の日本プロ野球の2リーグ制自体にも踏み込む形での改革案を唱える向きもあると聞く。それは、セ・パという現在のリーグを取り払い(=リンゴとミカンの区別をなくし)、12球団を何らかの形で4球団ずつ三つのグループに分けて、12球団の間で総当たり戦を行い、最後に4チームでプレーオフを行うというものだ。

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 便宜的に、セ・パ12球団を2012年のレギュラー・シーズンの勝率で順番に並べてみよう。それを、例えば順位の合計が3グループ間で同数になるように、グループA・B・Cに分ける。そして12球団で総当たりの試合を行う。各球団が他の11球団と各13回対戦すれば、各球団の年間試合数は143だから、現在のレギュラー・シーズンと殆ど同じだ。

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 その結果、各球団の勝率が例えば2013年のレギュラー・シーズンの勝率だったとすると、グループ優勝はジャイアンツ、タイガース、ライオンズ。そして残り9球団の中での最高勝率がイーグルスとなるので、この四者の間でプレーオフを行うことになる。

 このグループ分けは固定的なものではなく、前年の各球団の成績によって、同じロジックで翌年のグループ分けをすればいい。MLBのような地区割りではないから、「東地区にいる限り、ヤンキースを上回らないと優勝できない」ということにはならない。

 運・不運があるとすれば、上表でいうグループAのイーグルスのように、12球団全体を通じて勝率が2位でも、勝率1位の球団と同じグループにいればワイルド・カードになってしまうことだ。極端な例を挙げれば、各球団の勝率がグループA: 1~4位、グループB:5~8位、グループC:9~12位という結果になった場合には、プレーオフに進むのは1位、2位(ワイルド・カード)、5位、9位の各球団ということになる。まあ、そんなことが起きる確率は極めて低いのだろうけれど。

 確かにこれは究極の総当たり制で、理路整然としている。今のCS制度よりはスッキリしているだろう。そうなのだが、だからこそ根本的な問題に立ち戻ることになる。12球団で完璧な総当たりを行うなら、もはやリンゴとミカンの区別なく、どこが強かったのかはレギュラー・シーズンでこれ以上ないほど明確になる。ならば、4球団でプレーオフを行う意味は何なのか。あるとしたら、やはり消化試合を減らすためのインセンティブということしかないのだろう。

 (このあたり、現在18チームによるリーグ戦のサッカーJ1なども同じ問題を抱えているようだ。今は1シーズン制、ホーム&アウェイ方式による2回戦総当たりが全てなのだが、再来年(2015年)からは2シーズン制に戻し、前期1位と後期2位、前期2位と後期1位によるプレーオフを行い、その勝者が年間勝ち点一位のチームとのチャンピオンシップで年間優勝を争うことになるという。)

 新チームの加盟問題を巡って当時の日本野球連盟が分裂し、1950(昭和25)年のシーズンから2リーグ制が続いてきた日本のプロ野球。だが、年間試合数の5/6は同一リーグ内の5球団相手という、何とも「閉じた」世界だ。日本人選手がMLBに挑戦することも珍しくなくなった今、「リンゴとミカン」へのこだわりから脱却し、大胆な改革に挑戦すべき時期に来ているのではないだろうか。

 ともあれ、この秋もリンゴとミカンの頂上対決が始まった。

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