SSブログ

鷹と猛牛 [スポーツ]

 10月2日(木)、仕事を終えて私が帰宅したのは、20時を少し過ぎた頃だった。着替えをするのももどかしく、NHKのBS1を選局すると、プロ野球(NPB)のナイトゲームが6回表に入っていた。

 今夜は福岡ソフトバンクホークス対オリックスバファローズの最終戦だ。ホークスにとっては144試合目、つまり今年のレギュラー・シーズンの最終戦でもあり、なおかつ地元福岡での最終戦である。赤色のレプリカ・ユニフォームを身に着けた観客で満員のヤフオク・ドーム。その異様な熱気と張り詰めた緊張感がテレビの画面からも伝わって来そうだ。

 夏のオールスターゲーム後から首位を走ってきたホークスだが、9月に入ってから急失速し、今日が最終戦だというのにまだマジックナンバーが出ていない。二位バファローズとのゲーム差はゼロだ。この試合に勝てばホークスは優勝。逆に敗れればバファローズが首位に立ち、残り二試合のどちらか一つを勝つか引き分ければ優勝だ。パ・リーグのレギュラー・シーズンのまさに大詰めの試合なのである。

 ゲームは2回の裏に2本の安打で三塁に進んだ走者を犠牲フライで返し、ホークスが先制。1対0のまま6回表を迎えるという、痺れる展開になっていた。ホークスの先発は左腕の大隣憲司。黄色靭帯骨化症という難病を克服して今年7月に一軍に復帰。同27日には422日ぶりに勝利投手になったのだが、その時の対戦相手もバファローズだったから、彼にとってはゲンのいい相手なのかもしれない。

 剣ヶ峰の最終決戦にもかからず、マウンド上の大隣は実に落ち着いている。難病と戦うことでどこか腹が据わったとでも言えばいいのか、この大舞台でも淡々と、しかし細心に自分の役目を果たしている。簡単に二死を取ったあと、シーズン首位打者当確の糸井嘉男に右越えの二塁打を打たれたが、続く四番のW.M.ペーニャを見事な外角球で見逃し三振に仕留めた。場内に沸く大歓声。これは見応えのある好ゲームになりそうだ。
super game 01.jpg

 3月28日(金)に開幕したNPBのレギュラー・シーズン。5月20日(火)のセ・パ交流戦が始まる前までに42試合ほどが組まれているから、年間144試合の内29%がそこまでに消化されることになる。競馬で言えば第一コーナーを回ったところだが、今期のパ・リーグはその時点で既にシーズンの原型がほぼ出来上がっていた。奇妙なことに、それは前年のAクラスとBクラスが丸っきり入れ替わった形だった。
pacific league 2014-01.jpg

 田中マー君がMLBへと抜けた、その穴ばかりが問題ではなかったのだろうが、昨年の覇者楽天イーグルスは、開幕からいい所なく5位に低迷。昨年二位の埼玉西武ライオンズはもっと惨憺たる有様で最下位街道を突っ走り、6月4日には開幕から僅か53試合で伊原監督が休養、そしてほどなく辞任。昨年三位の千葉ロッテマリーンズは、良くて勝率5割、基本は借金生活を続けていた。

 それに対して、昨年Bクラスだったバファローズとホークスが開幕から快調に突っ走る。とりわけ春先のバファローズの進撃は凄まじく、4月末までに早くも11の貯金を積み上げ、ホークスと鍔迫り合いを続けながら、夏のオールスター戦までの間、パ・リーグの首位に立ち続けた。

 開幕ダッシュが印象的だったバファローズに対して、夏場に底力を見せたのがホークスだった。オールスター戦直後の10試合を7勝3敗で首位に立つと、8月2日からは9連勝をマーク。ピーク時には貯金27を積み上げ、2位バファローズに5ゲーム差をつけていた。これはもう、ペナントレースの行方も決まったようなものだと、誰しもが思ったことだろう。
pacific league 2014-02.jpg

 ところが、人間の所作というのは不思議なものだ。9月に入るとホークスは三連戦での負け越しが続くようになった。バファローズとのゲーム差も少しずつ縮まり始め、マジックナンバーがなかなか点灯しない。それどころか、9月14日からの10試合はよもやの1勝9敗という結果になり、とうとう今夜の試合を残すのみとなってしまったのだ。

 試合は7回表。好投の先発・大隣はお役御免となり、秋山ホークスは方程式通りの継投に入る。マウンドには森唯斗。社会人出身の新人だが、今年は中継ぎに大車輪の活躍で57試合に登板し、24のホールド・ポイントを挙げている。今夜もダイナミックなフォームで目一杯を投げ込んだが、先頭の坂口智隆が左前打で出塁。送りバントで二進の後、代打・原拓也の右前打で生還し、試合は1対1で振り出しに戻った。
super game 02.jpg

 7回裏、ホークスは四球を足がかりにチャンスを作るが、バファローズ四人目の佐藤達也にかわされて無得点。8回表はホークス五十嵐亮太、8回裏は再びバファローズ佐藤達也が、それぞれ走者を出すものの最後は踏ん張って点を与えない。そして9回表はホークスの切り札D・サファテ、9回裏はバファローズの守護神・平野佳寿がそれぞれ登場。共に圧巻の投球で出塁を許さず、博多の最終決戦はとうとう延長に入った。両軍譲らず、まさに互角の戦いだ。この緊張感がたまらない。

 ボール・ゲームは何でもそうだが、勝つためには得点数を伸ばし、失点数を抑えなければならない。野球の場合はそれが(守備も含めた)投打のバランスということになる。その結果、得失点差の大きいチームほど一般的には勝ち越し数が多くなる。

 NPB全体では本日(10月5日)時点でまだ2~3試合が残っているが、今シーズンの12球団の打撃、投手、守備の主な指標について、それぞれの首位、二位、三位を色分けしてみると、色が最も多く着くのがバファローズとホークス、そして既にセ・リーグ優勝を決めたジャイアンツの三チームなのである。
reqular season 2014.jpg

 解りやすいのが投手部門の指標で、失点数、チーム防御率、中継ぎ投手のHP(ホールド・ポイント)、クローザーのセーブ数、失策の少なさを合わせて眺めると、いわゆる勝利の方程式が最も確立しているのがこの三チームなのだ。(とりわけ今年のバファローズの投手部門の数字は素晴らしく、個人タイトルもバファローズの投手が総なめにしている。)

 一方、バファローズとホークスを分けるものは打撃部門の数字だ。チーム打率.280は12球団随一で、本塁打は少ないのに12球団で3位の得点を叩き出している。実際に、パ・リーグの打率ベストテンにはホークスの打者5人が3~7位に並んでおり、他を圧倒している。

 投打のバランスとはよく言ったもので、セ・リーグの東京ヤクルトスワローズは12球団随一の得点数を誇っているが、失点数が12球団ワーストであるために、借金も12球団ワーストの21だ。その次に得点数が多いのは広島東洋カープだが、ここも失点数が12球団で5番目に多い。その結果、首位ジャイアンツが得失点差42で20の貯金を挙げているのに対し、カープは得失点差41でも貯金は7しかない。このあたり、試合運びの巧拙にジャイアンツとは差があるように見える。(その点、バファローズの得失点差は115点で12球団随一だが、貯金は17で、得失点差85のホークスが貯金18であることと比べると、バファローズは勝てた試合がもっとあったのではないだろうか。)

 そして、こうしたデータを比較した限りでは、ホークスとバファローズの力は本当に拮抗している。今夜の試合の結果がどうであれ、この二チームはクライマックス・シリーズで再び好ゲームを展開してくれそうだ。

 さて、延長10回の表。2イニング目のサファテはややコントロールを乱し、一四球と一安打。それに糸井に死球を与えてしまい、二死満塁のピンチに立たされた。ここで打席には、この試合再三チャンスにも凡退続きだったペーニャ。手に汗握る場内。そして、サファテが内角に投げ込んだ初球に手を出したペーニャの打球は高く上がり、ヤフオク・ドームの天井に当たって落下。三塁側のファール・グラウンドでそれをホークス遊撃手の今宮健太がキャッチしてこの回は終わった。後から思えば、バファローズに傾きかけた試合の流れを変えたのは、このファール・フライであったかもしれない。
super game 03.jpg

 その裏。バファローズは平野佳寿が続投せず、A・マエストリがマウンドに上がる。だが、重圧のせいかコントロールが定まらず、敬遠を含めた三つの四球で一死満塁のピンチに。10回の表とよく似た展開になった。次の打者はホークス選手会長の松田宣浩。ここで投手交代が告げられ、サイドスローの比嘉幹貴がマウンドに上る。今シーズンは既に60試合に登板し、防御率が0.81という素晴らしい投手だ。

 初球ボールから入り、二つのファウルでカウントは1ボール2ストライク。比嘉はスライダーが武器だが、走者満塁の状況では無用なボール球は投げられず、一つ間違えれば死球になるようなエグいインコースも難しい。打者の松田はバットを短く持ち、スライダーにも左足を踏み込むことが出来た。

 そして、運命の四球目。松田がバットをコンパクトに振り抜くと、打球はバックホーム体制のレフトの頭上をあっという間にに越えて、左中間を転々と跳ねていく。
super game 04.jpg

 打球の行方を確認してからスタートを切った三塁走者の柳田が本塁を踏んで、ガッツポーズと共に飛び跳ねる。試合を決めた松田は一二塁間でもみくちゃになっている。ベンチから飛び出して駆け寄った選手たちの輪。そこに向かって歩み寄る秋山幸二監督は目に涙。何というドラマティックな幕切れだろうか。テレビの画面に釘付けになりながら、「やったーっ!」という言葉以外に、私にも反応できることがない。
super game 05.jpg

 福岡ソフトバンクホークス、2014年レギュラー・シーズンの優勝を決めた一戦が、こうして終わった。球史に残る名勝負だった。シーズン最終戦をサヨナラ勝ちして優勝を決めたというのは、NPB史上でも珍しいのではないだろうか。

 私が学生の頃、パ・リーグの試合がテレビに登場することなど、まずなかった。今から41年前、つまり1973年の秋。その年から二シーズン制を始めたパ・リーグのプレーオフは、前期優勝・南海ホークスと後期優勝・阪急ブレーブスの対戦だった。この日のために、あの手この手の作戦を練ってきたノムさん率いるホークスが、3勝2敗で何とかプレーオフを征するのだが、その試合の様子も放送されることはなかった。ラジオの短波放送を探すのが精一杯だ。当時、パ・リーグのファンにはそうした苦労と悲哀があったのである。

 それに比べれば、今はこうしてNHKのBS1で試合が終わるまで全てを観戦出来るし、その後はMXテレビに切り替えれば選手たちのビールかけの様子も見ることが出来る。それはもう、殆ど夢のようなことだ。そして、そんな試合の経過を、スマホを通じて帰りの電車の中でフォローしていたらしく、仕事を終えた息子が缶ビールを幾つか買って帰って来た。さあ、これから我家も祝杯を上げることにしよう!
super game 06.jpg

 ところで、このレギュラー・シーズン、MVPは誰になるのだろう。バファローズが優勝チームなら、最多勝・防御率1位・奪三振王の三冠に輝く金子千尋が間違いなくMVPだったのだろうが、「チームの優勝に最も貢献した選手」という要素が強い近年の傾向を踏まえると、他に三冠王(或いは昨年本塁打記録を塗り替えたW・バレンティンのような選手)でもいない限り、ホークスの中からMVPが選ばれることになる。

 投手なら37セーブのサファテか。しかし、今年のホークスの強さを象徴するものは、先ほど各種指標で見た通り打撃部門だ。とすれば、打率ベストテンに入った5人の打者から誰を選ぶのか。各指標を眺めてみると、総合的に誰が最も活躍したのかが、それなりに見えてくる。
top 10 sluggers 2014.jpg

 打率・安打数共にパ・リーグの第3位。全試合に出場し、チーム内では打率1位、安打数3位、本塁打3位、打点2位、四死球1位、盗塁1位(33個)、出塁率1位、長打率2位、そして得点圏打率2位。今年のホークスで塁上を最も賑わした選手となると、「ギータ」こと柳田悠岐の姿が浮かんで来るのだが、果たしてどうであろうか。

(怪我で夏場を欠場したために規定打席に達しなかった松田は惜しいことをした。今の記録のペースであと40試合出場していたら、彼が間違いなくMPVに選ばれたことだろう。)

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。