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北の晩夏 - 下北半島・函館の旅 (4) [自分史]


函館へ

 大間港を定刻の14:10に出航した函館行きのフェリー船・大函丸は、波の静かな津軽海峡を黙々と北上していた。今日は曇り空で遠望が利かず、海の上からも北海道側の陸地は定かには見えない。津軽海峡に面した北海道側で本州に最も近い函館市戸井町の汐首岬でさえ、見えていない。
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 私たちが先ほどまでいた大間崎からその汐首岬までは、僅か17.5kmの距離だそうである。それは津軽半島の竜飛岬と北海道の白神岬との間(19.5km)、つまり青函トンネルが走っている区間よりも海の幅が短い。だから、戦前には下北から大間まで鉄道、大間から戸井までは船、そして戸井から函館までは再び鉄道という形で交通手段を整備する計画があったのだが、戦況の悪化と共にその計画は潰え、鉄道の大間線と戸井線は共に未成線のまま草葉に埋もれてしまった。

 そして、戦後になって青函トンネルの建設構想が練られた時、この大間・戸井ルートが再び選択肢の一つに上ったものの、距離は若干長くても海底の浅い竜飛岬ルートが最終的に選ばれることになったそうだ。(もし大間・戸井ルートだったとすると、青森駅の周辺を経由する場合には非常に大回りになり、しかも列車が方向転換をしなければならない。そのこともネックになったのではないだろうか。)

 揺れも殆どない船内で缶ビールを飲んだ後、私たちは船室で横になると、ついウトウト。目が覚めた時には、船はもう函館山を右手に見ながらフェリーターミナルに近づきつつあった。

 大間からちょうど1時間半。定刻に着いた函館は下北半島と同じような曇り空だが、天気予報ではこれから徐々に天気が回復し、明日は青空が広がるという。函館山の山頂には多少ガスがかかっているが、あと何時間かして街の夜景が広がる頃には、そのガスも晴れてくれるのではないだろうか。
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 フェリー・ターミナルでタクシーを拾って五稜郭へ。4kmほどの距離だからすぐに着いてしまう。この広大な城郭跡の中を歩き回っている時間はないので、タワーに上がって周辺を一望。函館らしい眺めをしばし楽しむことにした。
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 展望台の中には明治の初年の「函館戦争」に関するディスプレーがあって、これがなかなかよく出来ている。

 明治元年10月20日、江戸を脱走した榎本艦隊が函館の背後にあたる噴火湾沿いの鷲の木に上陸し、40kmの距離を南下して10月26日に五稜郭を占領。これに対して艦船を整えた新政府軍は翌年4月9日に日本海側の江差付近に上陸して松前を制圧し、陸路函館を目指す。そして5月11日の函館総攻撃で大勢が決した。この時に決め手となった作戦の一つが、新政府軍の別働隊が函館山の裏側に上陸したことだという。

 五稜郭を主な舞台とした函館戦争については、今までは漠然とした知識しか持っていなかったのだが、今日、海を渡って函館にやって来た身には、その戦の経緯が意味するところの具体的な距離感や地形の険しさといったようなことについて、僅かながらも肌感覚を持てたように思う。

 時刻が16:30を回ったところで、私たちはちょっと早めに軽く食べておくことにして、先ほど乗ったタクシーの運転手に教えてもらった寿司屋へと直行。函館ならではの新鮮で豊富なメニューをしばし楽しませてもらった。(地元の人々もよく利用するお店のようで、私たちが入店したすぐ後からみるみる席が埋まっていった。危ないところだった。)

 そして、五稜郭公園前の電停から市電に乗って函館駅前に向かい、JR函館駅のまさに駅前にあるホテルに18:00ちょうどにチェックイン。フロントに尋ねると、駅前から18:20に函館山山頂行きのバスが出るという。函館に到着以来、色々なことがとんとん拍子に進んで来たが、この流れに乗って夜景見物も済ませてしまおう。

 駅前から路線バスに揺られて30分。土曜日の夕方、日もとっぷり暮れてちょうど夜景が始まり出した時刻ともあって、函館山の山頂は大変な賑わいだ。それも、見たところ半数以上は中国人の観光客ではないだろうか。賑やかなことこの上ないが、北海道の各地は中国でも人気の場所のようだから、札幌や富良野でも今はこんな感じなのだろうか。

 ともかくも、函館のきれいな夜景が眼下に広がった。気温も18度前後で実に爽やかだ。
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 それにしても山頂は大賑わいだ。下りのロープウェイの乗り場にも長い列が出来ていたから、それならば行きと同じバスで下ればいいのではないか。バス乗り場に戻ると、ちょうど山を下るバスの乗車が始まったところで、私たちは何とか乗ることができた。山麓まで降りたら途中下車して、後は好きな所を散策することにしよう。

 ロープウェイの山麓駅の近くでバスを降り、少し歩けば教会が並ぶ地区に出る。私たちはライトアップされた色々な教会の姿を眺めながら、夜の函館を歩いた。
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(函館ハリストス正教会)

 家内も私も、函館が初めてだった訳ではない。家内は学生時代、私は社会人になってから、それぞれ訪れたことがあるのだが、いずれもグループ行動だったから、一通りの観光をしただけであまり印象に残っていない。それだけに、好きな場所を二人でゆっくりと歩くのはやはりいいものだ。加えて、素朴な下北半島経由でやって来たから、夜の函館には一段と「都会」を感じるものがある。
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 ライトアップを楽しみながら、一時間半近くも歩き続けただろうか。私たちはホテルに戻り、部屋でワインのボトルをゆっくり傾けることにした。
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旅の終わりに

 8月30日(日)、私はまたしても朝早く目が覚めた。ホテルの部屋からはJR函館駅が正面に見えている。ここから出る列車は函館本線、江差線共に一時間に1~3本だからのんびりしたものだが、そののんびり感が悪くない。
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 函館滞在も今日の午前中一杯だ。ホテルで朝食をとった後、私たちはすぐ近くの「函館朝市」の周辺を見て回り、家族への買い物をまず済ませることにした。

 海産物を売る店、海鮮丼の食堂などがひしめき、これだけ多数の店が同じ全く同じスタイルのビジネスをして、よく共倒れしないものだと感心してしまう。そして、ここでも今や主役は中国人の観光客だ。朝から食事や買い物目当ての彼らの集中ぶりは、昨夜の函館山の展望台を超えているといってもいいだろう。「爆買い」をしているのかどうかはともかく、お店の人たちも一生懸命中国語で対応していた。

 昨夜の散歩が楽しかったから、私たちは買い物を済ませた後の空き時間を使って、もう一度函館山の麓のあたりへ散策に出かけた。教会や洋館が並ぶエリアには、ライトアップされた夜の姿とはまた違う味わいがあって、なかなかいい。
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(元町教会)

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(旧函館区公会堂)

 家内も私も、自分の足で歩き、肌感覚を確かめるようにして未知の土地を訪れる旅が好きだ。そういう意味では、この函館の街歩きはとても楽しかった。
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(元町公園)

 さて、時計の針も11:40を回った。私たちはホテルをチェックアウトして目の前のJR函館駅へ。一番海寄りのホームに向かうと、12:04発の新青森行き特急「スーパー白鳥24号」が待っていた。
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 青函トンネルを通るこのルート、一般に「津軽海峡線」と呼ばれているが、実際には函館本線(函館-五稜郭)、江差線(五稜郭-木古内)、海峡線(木古内-新中小国信号場)、津軽線(新中小国信号場-青森)の四つの路線への乗り入れである。(更には、青森-新青森間は奥羽本線なのだが。)
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 五稜郭駅で函館本線と別れた江差線は単線だ。左手に海を見ながら走り続けて12:48に木古内駅に停車。右手には来年3月の開業に向けてもう試験走行も始まった北海道新幹線の高架と駅舎が、すぐ隣に出来ている。ここまで走ってきた江差線は、本来はここから渡島半島を横断して日本海側の江差までの路線だったのが、2014年5月に木古内・江差間を廃止。もはや江差には行かないのに、名前だけは江差線のままだ。

 木古内を出ると列車は海から離れて内陸へ。いよいよ青函トンネルへと向かう。このあたりはスーパー白鳥の車内でも表示が微に入り細に入りという感じだ。
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 12:57 ほぼダイヤ通りに青函トンネルに進入。そして、全長53.85km(内、海底部分は23.30km)のこのトンネル通過の所要時間は26分だ。この間、缶ビールでも飲んでいるしかないのだが、13:23に青森側で外に出た後も大小のトンネルが続き、地上に出た気分はしない。外の景色を眺め続けることができるのは、新中小国信号場を経て列車が津軽線に入ってからである。

 13:43 蟹田駅に停車。ここからしばらく列車は海沿いを走る。後方には下北半島が波の向こうに見えている。一昨日から二泊三日の短い旅だったが、この眺めは何だか妙に名残惜しい。
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 14:09に到着した青森駅で9分間の停車。その間に列車の進行方向が逆になり、14:23に新青森駅に到着。15分の接続で、今度は東北新幹線の「はやぶさ24号」に乗換えだ。

 JRの「大人の休日倶楽部」のツアーだから、旅の行き帰りが鉄道利用なのは当たり前なのだが、今回は12:04に函館を出て18:04に東京駅着だから、新青森で15分の接続時間を含めてちょうど6時間の列車の旅である。距離にして878km、表定速度は146.3km/hということになる(この内、新幹線部分は207.9km/h)。

 今はスーパー白鳥が単線の木古内線や津軽線を走るために、対向列車との交換待ちで時間を取られるのだが、来年3月に北海道新幹線が開業すると、東京・新函館北斗(新駅)間は最速で4時間10分で結ばれるという。かつて青函連絡船だけで3時間50分をかけていた時代は、遠い昔になろうとしている。

 家内と二人だけの泊りがけ、という点では28年ぶりに実現した旅行。二泊三日の行程だから駆け足になってしまった部分もあるが、その道中を家内も楽しんでくれたようで何よりだ。夏の終わりに下北半島と函館を仲良く旅したことを、これからも二人の間で大切な思い出にしていこう。
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 窓の外には、再び北国の晩夏の風景が広がっていた。

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コメント 2

H氏

28年ぶりの新婚旅行、楽しめたようですね。
函館は本当にきれいな町だと思います。
私は中国人のアテンドで行ったので
あまり楽しめなかったので
また行きたくなりました。
これからは山に行かない時は家族旅行ですね。
by H氏 (2015-09-06 22:49) 

RK

ありがとうございます。
もうちょっと青空が広がっていたら、記事のタイトルは「津軽海峡夏景色」にしてたんだろうと思いますが、おかげさまで傘は全然要らない天気だったので、雨続きの東京にいるよりは良かったかな。
訪れたのが恐山と函館山だったので、今回も「山へ行ってた」と言えなくもないのですが。
by RK (2015-09-07 14:13) 

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