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神仏のご加護 - 箱根・明神ヶ岳 [山歩き]


 6月4日(土)の朝8時過ぎ。小田原で特急ロマンスカーを降りる。

 エスカレーターを上がって改札を出ると、駅の南口へと向かう広い通路があり、土曜日の朝も案外と人通りが多い。そしてJR東海道線の改札を過ぎるあたりまでは、どこのターミナル駅とも同じような現代風の造りなのだが、一番南の地上階にある伊豆箱根鉄道・大雄山線の乗り場に向かうと、一転してそこには昭和の匂いが残っていた。
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 天狗のお面を象った大きなディスプレイと、クラシックなホームに佇む三両連結の電車。自動改札にこそなっているが、この駅の様子は大正時代の終わりに開業した時とさほど変わっていないのではないだろうか。

 そんなレトロな空間に私たち5人の山仲間が集合。8時48分発の電車に乗ると、9時過ぎには終点の大雄山駅に到着。ちょうどいいタイミングで駅前から路線バスが出たので、9時半前には大雄山最乗寺の入口に着いた。このお寺の境内の奥にある登山口から歩き始めて明神ヶ岳(1169m)に登り、箱根の宮城野へと下るコースは、私にとっては3回目。だが、過去2回はそれぞれ1月中旬と3月中旬という時期で、幹の太い老杉に囲まれた最乗寺もまだ冬の装いだったから、今回初めて眺めることになった初夏の境内は若い緑に溢れ、厳かな雰囲気の中にも杉の森は実に明るい。
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 大雄山最乗寺は天狗信仰の山である。天狗というのは、元々は中国で凶事の予兆である流星のことを意味するものだったそうだ。天を駆ける狗(いぬ)というぐらいだから、流星といってもそれは火球のまま大地に衝突して大音響を発する隕石のことだったのだろう。日本でも舒明天皇の時代の出来事として、そういう隕石を天狗と呼んだ旨の記載が日本書紀に残されているそうである。

 ところが、そういう意味での「天狗」はその後の日本には定着せず、長いブランクを経て平安時代の末期になると、いつの間にか妖怪として登場するようになった。山伏の装束で赤い顔と長い鼻の異形という、私たちが普段イメージするあの天狗の姿である。それには中国伝来の密教や、日本古来の山岳信仰などの影響があるのだろう。しかも単なる妖怪としてだけではなく、天狗は山の神様の一種として崇められることにもなった。

 そもそも山は霊的な場所で、そこに入ると起きる不思議なことの数々は神仏の成せる業だ、というのが私たちの祖先の素朴な考え方だったようだ。だから、神社でもないのに、大雄山最乗寺の境内に入ると大きな杉の木に注連縄が張られている。ここから先の山の中は神域ということなのだろうか。
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 ともかくも私たちは拝殿の前に立ち、賽銭を投げて今日の登山の無事をお願いする。曹洞宗の寺だからご本尊は釈迦牟尼仏のはずなのだが、私たちが頭を下げた相手は山の神様の方であったに違いない。
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09:45 明神ヶ岳登山道入口 → 10:35 見晴小屋(10分休憩) → 11:08 神明水

 境内の南の端に大きな赤い下駄のディスプレイがあり、明神ヶ岳への登山道がその奥から始まる。今日の5人パーティーの先頭を歩くことになった私にとって、三週間半ほど前に突然の激しい目眩に襲われ、救急車で病院に搬送されて以来、今日が初回の山歩きである。あれから幸いにして目眩の再発はなく、普段通りに暮らしているが、果たして今日の山歩きにも神仏のご加護があるだろうか。
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 今週は木曜日と金曜日が快晴で、湿度が低くて風が爽やかな、本当に素晴らしい天気が丸二日続いた。その好天をもたらした高気圧が東に去り、今日は西からゆっくり天気は下り坂。関東地方が雨になることはないはずだが、朝の青空は次第に高曇りとなり、やがて低い雲が山々を覆っていくことになるだろう。確かに早朝の新宿は抜けるような青空だったが、午前10時近くになると、頭の上の空には薄雲が広がり始めている。

 日本の南岸には停滞前線が長々と横たわっており、今朝の天気予報によれば明日の日曜日には関東甲信地方も梅雨入りになりそうだという。とすれば、今日は梅雨入り前の最後の山歩きということになる。
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 深い杉の森の中を登り続け、登山口から約50分で見晴小屋に到着。丹沢の蛭ヶ岳周辺の山々が木々の間から見えている。そこで小休止を取った後、もう一登りで右手の森の中にリフトの設備が朽ち果てている場所に到着。かつて、或る観光会社が最乗寺から明神ヶ岳を経て箱根の宮城野まで、我々がまさに今日歩こうとしているルートに観光リフトを建設する構想があったそうだ。そして、途中まで建設されたところで計画が頓挫。そのまま放置された設備は赤錆だらけの姿を今も晒している。

 不思議なのは、打ち捨てられたリフト設備のワイヤーが木の幹を貫通している、そんな木があることだ。ワイヤーが貫通しているというよりも、後から生育してきた木がワイヤーにぶつかるようになり、やがてそれを呑み込んで成長を続けたというべきなのだろう。樹木の生命力は何とも逞しいものである。
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 そこから先は山道が森の中を出て一旦傾斜が緩くなり、見晴らしが良くなる。そのあたりの地形が冬の間は草木もなく広々としていて、まるで防火帯のようだったのだが、今回は鬱蒼と草木が茂り、だいぶ異なる様相だ。それがまた、この時期の山の味わいでもあるのだろう。

 緩やかな登りを続けて11:08に「神明水」という湧水に到着。ここも冬と違って深い緑の中だ。湧水には適度な冷たさがあった。
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11:10 神明水 → 12:20 明神ヶ岳

 神明水からは一旦登りが急になるが、その分だけ遠くの展望が開ける。このあたりの眺めはいつも楽しみなのだが、今回も相模湾の海岸線や丹沢の大山がよく見えていた。
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 防火帯のような地形はなおも続き、右手にはマメザクラの木が並ぶ。よく見るとマメザクラなりのサクランボが実っている。どれも直径が5~6ミリの小さなものだが、口に入れてみると渋みはなく、とても爽やかな酸味が広がった。
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 ここまでの山道、緑は豊かでも、花といえばごく僅かにアザミが咲いている程度だったが、ある程度の標高になるとヤマツツジが山麓に彩りを添えるようになった。
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 基本的には南西方向に山の尾根を登って来た登山道が、南に山を回りこむようになると、明神ヶ岳のピークも近い。最後の短い急登を頑張ると、俄かに風が強くなり、箱根外輪山の尾根に飛び出す。そして、目の前には箱根の神山(1438m)と大涌谷の展望が一気に広がる。このコースのまさにハイライト部分である。
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 天気はゆっくりと下り坂。標高1169mの明神ヶ岳はまだ雲の下だが、もっと高い神山の頂上は雲の中。不思議なことに、明神ヶ岳とあまり標高が変わらない金時山(1212m)もピークはガスに覆われている。本来ならばその金時山の後方に見えているはずの富士山の眺めは残念ながらないが、今日のような気圧配置ではそれは仕方のないことだろう。
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 いつ訪れても風の強い明神ヶ岳の山頂。私たちは生い茂るササを風除けにして昼食をとることにした。

13:00 明神ヶ岳 → 13:30 宮城野への分岐 → 14:30 勘太郎の湯

 明神ヶ岳からの下りは、右手に神山と強羅あたりの町並みを眺めながらの楽しい山道である。そして、左手の展望が広がる所では、相模湾の海岸線を眺め下ろすことができる。天気は下り坂といいながらも海がちゃんと見えているのだから、今日の私たちは恵まれているというべきだろう。
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 明星ヶ岳の方に向かって降りていくこの稜線上で、この季節らしい彩りを見せてくれるのがニシキウツギだ。ハコネウツギという名前の方をよく聞くが、植物図鑑によると、ハコネウツギは関東~東海地方の沿海地に自生するが箱根には少なく、山地に自生するのはニシキ(二色)ウツギなのだそうだ。確かに白と赤紫の二色の花を楽しませてくれている。
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 両側の展望と花を眺めながらの稜線歩きも30分ほど。明星ヶ岳から先の山々が見えるようになると、宮城野への下山道との分岐も近い。
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 分岐を過ぎると、山道はトントン拍子に高度を下げていく。下界が近くなる分、蒸し暑さも増して来る。頭の中は下山後の温泉とビールのことばかりが占めるようになるのがこのあたりだ。そして、分岐から30分も下れば別荘地の最上部に出るのだが、そこから別荘地の南端を下りていく山道が結構辛い。これなら、多少遠回りでも別荘地の中に入ってしまって、舗装された道を歩いた方がよっぽど楽かとも思う。

 その辛い山道も終わり、舗装道路に出ると、後は道標に従って近道を選んで行けば宮城野の日帰り温泉「勘太郎の湯」まで15分ほどだ。先ほど明神ヶ岳の山頂からほぼ真横に眺めていた箱根の神山は、もう随分上に仰ぐようになった。
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 既に記したように、三週間半前に急病を発した後、再開第一号となった今回の山歩き。幸いにして目眩の症状が再発することもなく、梅雨入り直前の山を楽しむことができた。それはきっと、山の神様のおかげなのだ。その意味では、パワースポットの大雄山最乗寺を登山口とする今回のコースを選んだのは正解であったのかもしれない。そして、T君をはじめ私の体調を気遣ってくれた山仲間の皆にも、もう一度お礼を申し上げたい。

 宮ノ下駅から乗った登山電車の両側に咲き乱れるアジサイの花を眺めながら、春夏秋冬があり山には神々がおわすこの国の風土と共にに生まれ育ったことの幸せを、改めて思っていた。


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コメント 4

H氏

先週の高尾行きを復活山行に、と計画したのですが予定が合わず、今回は私がご一緒できず残念でした。しかし先ずは様子見の山歩き、無事下山されたようで良かったです。
暫くはソロは控えてご一緒できれば、と思っていますが梅雨に入りましたし今月の土日、以外にドタバタしており次回ご一緒できるのは7月以降かも知れません。
また計画あればお声をかけてください。こちらもご連絡します。
檜洞も待っています(西丹沢には蛭、いないようです)。
by H氏 (2016-06-07 01:03) 

TT

体調回復されて何よりです(^^)
しばしご無理されませぬよう
by TT (2016-06-07 19:57) 

RK

H氏殿
コメントありがとうございました。
これから梅雨明けまでの間は山の計画も立てにくい時期ですが、天気予報を眺めつつ、チャンスがあったら速攻で出かけましょう。

by RK (2016-06-08 08:47) 

RK

TT様
お気遣いありがとうございます。
しばらくは、転がり落ちそうな所はやめておきます。
by RK (2016-06-08 08:49) 

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