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束の間の夏富士 - 三ツ峠山 [山歩き]


 週末の早朝、JR新宿駅から中央特快に乗って山を目指す。中央線の眺めも案外久しぶりだなと思って調べてみたら、この方面に出かけたのは4月の下旬に生藤山~陣馬山へ行って以来、2ヶ月と3日ぶりのことだった。

 山の緑が日々甦る、あの素晴らしい春先の時期から季節は巡り、今は夏至を過ぎて梅雨の真っ只中。それでも、たまには今日のように梅雨の晴れ間もやって来るもので、電車の窓からは丹沢の向こうに残雪の殆どない富士山がくっきりと見えている。

 立川で普通列車の大月行きに乗り換え、八王子で今日の山仲間7人全員が揃った。梅雨の晴れ間に三ツ峠山(1,785m)から夏富士を眺めてみよう。一週間前にそんな内容の声掛けをして始まった今日の山行。途中で当日の天気予報に傘マークが付いたりして気を揉んでいたのだが、結果的には晴天に巡り会えることになった。メンバー皆の日頃の行いの良さに、まずは感謝である。

 小仏トンネルを越えて、しばらくぶりに眺める沿線の山々。梁川駅と鳥沢駅の間で一箇所だけ、近くの山の稜線の向こうに三ツ峠山のピークが見える箇所があって、大きなアンテナが立つその特異な形の山頂が、今朝も一瞬だけ姿を見せた。私たちが目指すあたりも天気は上々のようだ。

 7時48分、終点の大月駅に到着。富士急行線への接続がわずか3分なので今までは慌しかったのだが、昨年からSuicaが富士急にも導入されたので、そこは随分と楽になった。河口湖行き電車の発車前に、側線に停車中の新しくなったフジサン特急の写真を撮ることも出来たほどだ。国鉄時代の「パノラマエクスプレス・アルプス」を利用した初代車両の後継車として2014年から運用が始まった、かつての小田急ロマンスカー20000系(RSE)電車である。
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 季節の良い頃ならば、日曜日の朝のこの電車は登山客で賑わうのだが、梅雨の最中の今日はそれも少なく、代わりに洋の東西を問わず外国人の観光客が多い。6月の下旬ともなれば海外では学校も夏休みに入っているから、これからが旅行シーズンだ。そんな彼らにとってお目当ての富士山が、下吉田を過ぎるといよいよ大きな姿になった。

 富士山駅で進行方向が変わり、08:43河口湖駅に到着。反対側のホームには、この4月にデビューしたばかりの「富士山ビュー特急」が停まっていた。JR東海の371系を譲り受け、あの水戸岡鋭治氏のデザインによって改造を加えた車両である。
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 先ほど大月で見た小田急の20000系も、この371系も、かつては小田急線から御殿場線に乗り入れる特急「あさぎり」として運用されていた車両である。御殿場線で富士山の南側を走っていた両者が、今度は富士山の北側を走る富士急行線で再び顔を揃えたのだから、これは奇妙な縁というべきだろう。

 河口湖駅の構内踏切からは、富士の高嶺が大きく見えている。朝早くはこんな風なのだが、これから気温が上がるにつれてその周辺にムクムクと雲が湧き出すことになる。私たちが山の上に辿り着く時刻まで、あの夏富士は姿を見せていてくれるだろうか。
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 駅からはタクシーに分乗。標高約1,300mの三ツ峠登山口駐車場まで運んでくれるので、三ツ峠山の頂上まで上りの標高差は485mほど。ゆっくり歩いても1時間半程度である。マイカーならばこのルートの往復になるのだが、今日の私たちは三ツ峠山を越えて西桂町側へ、下りの長いルートを歩くことにしている。

9:20 三ツ峠登山口駐車場 → 10:30 四季楽園 → 10:45 三ツ峠山(開運山)

 三ツ峠登山口駐車場からの登山道はジープが走るような道で、いつものことながら面白みに欠ける。それを淡々と登り続け、ベンチを過ぎてもう一登りすると山道が左に向かい、傾斜が緩くなる。秋の晴れた日などには南アルプスの峰々が見えるのだが、その方角には早くも雲が湧いている。今日は暑くなりそうだが、私たちの頭上も夏空が適度に雲に遮られていて直射日光が当たらないのは幸いだ。
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 途中、左手の草むらでアヤメが鮮やかな色の花を見せている。
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 「花びらの基の部分の模様が網目状なのがアヤメ、白いのがカキツバタ。」とT君が説明してくれる。(因みに、それが黄色なら花菖蒲。) なるほど、そう言われてみれば、尾形光琳が残した有名な屏風絵は、あれは確かにアヤメではなくてカキツバタだ。
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(尾形光琳 作 「燕子花図屏風」)

 やがて山道が二つに分かれるので左の方を進むと、三ツ峠山荘を通らずに四季楽園の前に直接出るので少しショートカットだ。そこから三ツ峠山への最後の登りに取りかかるところで、足元にオダマキがひっそりと咲いていた。
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 そして、お目当ての富士は見えるには見えているが、その山頂が雲に隠れてしまうのはもう時間の問題だった。この季節は、公共交通機関を使って山へ行くと、上に着く時刻には大体こういう展開になるものだ。
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 ザラザラで滑りやすい急斜面を登ることしばし。10:45に三ツ峠山(開運山)の頂上に着いた。この斜面を登っている間に、やはり富士山頂には雲がかかってしまったが、それでも開運山からの展望は広い。黒岳や釈迦ヶ岳をはじめとする御坂山地が長々と横たわり、本栖湖の湖面らしき輝きも見えている。まだ一時間半ほどしか歩いていないが、私たちは予定通りこの山頂で少しゆっくりと昼食をとることにした。
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 この山頂から広闊な富士の裾野を眺めていると、今から5百万年前にそこが海の中だったなどとは、およそ想像も着かないことだ。だがその時にも、御坂山地と丹沢の核心部は古い山脈として海の上に姿を見せていたという。

 やがて70~20万年前になると愛鷹火山小御岳火山が噴火活動を始め、土地が隆起して海が南へと後退。そして約8万年前には両火山の間で古富士火山が活動を始め、両火山を埋めるようにして高い山になる。その頃、古富士火山と御坂山地の間には大きな湖が出来ていたが、約1.1万年前に始まった新富士火山の噴火の溶岩流によってその湖が寸断され、現在の富士五湖が形成されていったそうだ。

 その後も富士山は活発な噴火活動を続けた。現在は広大な樹海が有名な青木ヶ原も、864年に富士北麓で発生した大噴火(いわゆる貞観大噴火)によって大量の溶岩が流れ出た場所だ。富士山の噴火がそんな風に活発であった時代に今のようなライブカメラがここに設置されていたら、この世のものとは思えない激しい噴火の様子が大迫力で映し出されたことだろう。そんな自然のスケールの大きさと比べれば、私たち人間の活動などは実に微々たるものという他はない。
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 (富士山生成の歴史については、このサイトがわかりやすい。)
 http://www.fujigoko.tv/mtfuji/vol1/fjhis01.html

11:20 三ツ峠山 → 12:23 八十八大師 → 13:10 股のぞき → 13:45 達磨石 → 14:30 三ツ峠グリーンセンター

 山を下る。

 三ツ峠山から四季楽園の前まで戻り、階段を下って屏風岩の下へ。梅雨の晴れ間の今日は、やはりクライマー達の数も多い。私も若い頃には岩登りの真似事をしたことがなくもないので、岩に取り付いている彼らの姿に一抹の郷愁を感じるのが正直なところだ。まあ、今では体も重くなってしまったから、こんな芸当はもう無理なのだろうけれど。
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 屏風岩を過ぎた頃に見かけたのがサラサドウダン。ツツジ科の一種で、山の岩地に育つ木なのだそうだ。今がちょうど花の見頃で、フウリンツツジという別名があるように、その花の形と赤紫色のアクセントが印象的な花である。
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 下り始めて1時間ほどの八十八大師にあるベンチで軽く休憩。私たちが下っているこのコースは、山頂からゴールの三ツ峠山グリーンセンターまでの標高差が1,200mを少し超える。タクシーで標高1,300mの地点まで連れて行ってくれた上りのルートとは対照的で、とにかく下りが長いのだ。それを下るだけでもやや飽きて来るのに、このルートを登って来る登山者が少なくないことには、頭が下がる。
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(八十八大師の石仏群)

 八十八大師から樹林の中をなおも下り続け、二股になった木の幹の間から晴れていれば富士山が見える「股のぞき」に到着。その富士の高嶺は完全に姿を隠してしまったが、あたりのヤマボウシの清楚な白が今は本当に綺麗だ。
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 更に下り続けて舗装林道に出ると、直ぐに再び森の中を行く山道が始まり、程なく達磨石に到着。そこからは舗装道をひたすら下る。下界では終わりかけているアジサイの花も、このあたりではなかなか見事な咲きっぷりだ。
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 その道路歩きも漸く終わり、予定より少し早い14:30に三ツ峠グリーンセンターに到着。振り向けば三ツ峠山の奇怪なピークが彼方に聳えていて、あんな所から降りてきたと思うと何だか不思議だ。
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 ともあれ、汗をたっぷりかいた私たちは今回も、風呂+生ビール+おつまみ3品+送迎バス=1,600円の「登山パック」のお世話になることにした。
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 6月26日というと、夏至を迎えてから5日後になる。富士急の三つ峠駅からホリデー快速を利用して新宿に18時過ぎに着いても、外はまだまだ明るい。一年で最も日の長い季節が雨の季節でもあるのはちょっと残念ではあるが、色々と工夫しながら、この時期を上手に楽しみたいものである。

 束の間の夏富士に、もう一度乾杯!

 (この山行を終えた翌日から一週間は浮世が多忙を極めてしまい、記事のアップが一週間遅れてしまった。仕事の方も、もっと能率を上げていかねばならない。)

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