SSブログ

会津・上越 各駅停車 (3) [鉄道]


 会津若松を朝6時に出る只見線の始発列車に乗り、2時間と4分をかけて会津川口までやって来た、今日の乗り鉄の旅。ここからいよいよ核心部へと入って行く。会津盆地で降っていた軽い雨はいつしか止んで、只見川の深い渓谷の中にある会津川口では、曇り空ではあるものの薄日も射してきた。

代行バス423便 (08:15 会津川口 → 09:05 只見)

 会津川口駅の小さな駅舎の改札を出ると、駅前に一台のマイクロバスが待っていた。
tadami-line-301.jpg

 只見線の会津川口・只見間は田子倉ダムの建設のために敷設され、1957(昭和32)年から1961(昭和36)年までの間、電源開発㈱専用の貨物線として使われていた。そしてダムの完成後に路線の改良工事が行われ、1963(昭和38)年から国鉄・会津線の一部になったという戦後の歴史を持っている。

 ところが、2011(平成23)年7月の新潟・福島豪雨では、特にこの区間が甚大な被害を受けて今もなお不通が続いており、マイクロバスが同区間の旅客輸送を代行しているのだ。今朝の乗客は地元のお年寄りが一人の他は、私ともう一人の乗り鉄の計3名だけ。結構しっかりとしていて綺麗な車両で、何だか申し訳ない感じだ。しかも、そのお年寄りはわりと直ぐに降りてしまった。

 女性ドライバーの運転で、只見線に並行する国道252号線を走り出した代行バス。会津川口を出てわりと直ぐに、鉄橋の一部が落ちたままの只見線・第5只見川橋梁が右手の窓の外に見えた。続いて本名ダムを渡るところで、同様に第6只見川橋梁が途中から崩落している姿が左下に現われる。
tadami-line-302.jpg

 東北の大震災があった年の7月下旬、例年なら梅雨明けの声も聞こえてくる頃に梅雨前線が新潟県付近に停滞し、日本海から雨雲が次々に流れ込んで、新潟・福島両県の境になる山間部では記録的な大雨となった。7月28日には只見で一日に134ミリ、会津川口を含む金山で204ミリ、続く29日には只見で実に439ミリの雨が降ったのだ。只見川の最も上流でこれだけの豪雨になれば、下流に大きな影響が出るのは必然というものだろう。只見線では3つの橋梁が流失し、多くの箇所で路盤が流出することになった。
tadami-line-303.jpg

 「河川法で川砂利の採取が厳しくなってから、只見川の川底が浅くなり、大雨が降ると川の水位が上がりやすくなっていました。そこへあの豪雨ですからねえ。」
 「あの時は上流のダムが満水になってしまい、それでなくても水位が上がっていた川に放水せざるを得なくなりました。他にどうしようもなかったんでしょうけれど、それが水害の一因になったという思いが、地元にはありますね。」

 ドライバーが語ってくれる当事の様子は、目の前の車窓風景からはなかなか想像がつかない。
tadami-line-304.jpg
(第8只見川橋梁。川を渡るのではなく川と平行に架けられた珍しい橋梁だ。)

 JR東日本はこれまでの復旧費用と崩落した橋桁の撤去に28億円を既に投じたとしており、不通区間27.6kmを「仮に復旧するならば更に85億円の費用と約4年の工期が必要」との数字を2016年6月に示している。しかも、そうした費用を投じて鉄道を復旧させたとしても、列車運行のための直接的な経費が年間2.8億円、固定資産税や減価償却費を加えると年間3.35億円の経費になるのに対して、この区間で得られる運賃収入は年間僅か5百万円に過ぎず、毎年3.3億円の赤字が積み上がって行くという。

 従って同社は、復旧費とその後の運営費について、「鉄道復旧のためには、『上下分離方式』も含めた負担のあり方の検討が必要」という論旨のペーパーを、福島県主催の「只見線復興推進会議検討会」に提出している。とはいうものの、今後一層の過疎化と高齢化が目に見えている中で、地元自治体としてもこんな金額規模の復旧費と毎年の運営費を負担していくことは現実的ではないだろう。
http://www.jreast.co.jp/railway/pdf/20160618tadami-1.pdf

 それでも、JRが赤字ローカル線を存続させることの大義名分として、「冬場の積雪で代替の交通手段がない場合」という理屈がこれまでにはあった。豪雪地帯の道路の除雪は大変だが、ラッセル車などの設備を持つ鉄道は比較的雪に強いとされていたのだった。

 「今は真逆なんですよ。道路は昔より整備されてトンネルもあり、除雪車も頻繁に来るようになりました。大雪になると、今は只見線が運休になることの方が多いんです。」

 ドライバーの話を聞きながら、国道252号線の沿線風景と、その中に細々と残る、列車が走らなくなって久しい只見線の築堤や高架橋などを眺めていると、この区間の鉄道の復活には限りなく高いハードルがあると考えざるを得ない。現に今日だって、この代行バスに終点まで乗っているのは私も含めて二人の物好きだけなのだ。
tadami-line-305.jpg

 会津川口から30km弱の道程を走り、9時過ぎに只見駅前に到着。ここで9:30発の小出行きの列車を待つ。それが出てしまうと次は6時間後というのもなかなかのものだ。何しろ一日3往復の列車しかない只見・小出間。浅田次郎の小説『鉄道員(ぽっぽや)』に出て来る「幌舞線」が、確か一日3往復という設定だった。北海道・石勝線の夕張支線(南夕張⇔夕張)だって一日5往復なのだ。これは「超」が二つぐらい付くローカル線という他はない。
tadami-line-306.jpg
(只見駅の時刻表。上りはなく、下り列車が一日3本だけ。)

2423D (09:30 只見 → 10:43 小出)

 町の北側に迫る山の縁(へり)に設けられた只見駅のホーム。一本だけの島式で簡素なことこの上ない。いかにも秘境という感じの駅だ。
tadami-line-307.jpg
tadami-line-308.jpg
(信号機の向こうは草が生い茂る不通区間)

 二両連結のキハには、合わせて10人ほども乗っていただろうか。定刻にホームを離れると、程なく田子倉トンネルに入った。

 これから列車が走るルートは、ここまでの会津側とは全く別の歴史を持って建設されて来た。まず、1942(昭和17)年に小出・大白川間が只見線として開業。これは軍事上の要請で、耐火煉瓦の原料となる硅石を大白川から運ぶための鉄道であったそうだ。それが、戦後になって田子倉ダムの完成後に只見と大白川を結ぶ約6.4kmの長大な六十里越トンネルが建設され、1971(昭和46)年に会津側の会津線と鉄路が繋がることになる。その時から会津若松・小出間の全線が只見線と呼ばれるようになった。
tadami-line-309.jpg

 列車が田子倉トンネルを出て六十里越トンネルに入るまでのごく短い時間だが、左側の窓から田子倉ダムを眺めることが出来る。
tadami-line-310.jpg

 そしてまた直ぐに闇の中へ。六十里越トンネルが貫く山の尾根は福島・新潟両県の県境であり、阿賀野川水系と信濃川水系との分水嶺にもなっている。その長い闇を抜けると、左の窓の下を流れる沢は列車の進行方向、即ち越後側に流れていて、分水嶺を越えたことを実感する。

 それにしても・・・と改めて考える。1922(大正11)年制定の改正鉄道敷設法において、「福島県会津柳津ヨリ只見ヲ経テ新潟県小出ニ至ル鉄道」が確かに予定線の一つに定められていた。けれども、長さ6.4kmに及ぶ六十里越トンネルを建設しない限り、これは実現しなかったルートだ。この新潟・福島県境の山を越える交通ルートを作ることは、実際にどれほどのニーズに基づくものだったのだろう。「六十里越」という言葉の通りに、人々は昔から長い山道を越えて行き交っていたのだろうか。

 それぞれ別々の目的と歴史を持って建設されてきた会津若松・只見間と小出・大白川間の鉄道。長大な六十里越トンネルの完成によって1971(昭和46)年に両者が繋がった時、皮肉なことに福島県側でも新潟県側でも人や物資の輸送ニーズはピークを過ぎていた。既に1966(昭和41)年から赤字決算を続けていた国鉄にとって、全線開通の時から只見線はお荷物になり続けたのである。

 新潟県側に出てみると、窓から外を眺めた印象だけだが、トンネルの向こうの只見や会津とは少し風土が違うのかなと思う。深い谷の中の風景ではなく、それなりの平地の向こうに高い山が見えている。入広瀬の駅からは、町並みの背後に守門岳(すもんだけ、1537m)が聳えていた。
tadami-line-311.jpg

 列車が進むにつれて平地は広くなり、今度は南の方角に高い山々の姿がある。越後駒ケ岳(2003m)は残念ながら雲の中だが、八海山(1778m)のピークはしっかりと見えていた。
tadami-line-312.jpg

 やがて列車は関越自動車道をくぐり、ゆっくりとした左回りで魚野川を渡って、定刻通り小出駅に到着。会津若松から4時間43分をかけて、遂に只見線を走破することが出来た。

 上越線との乗換駅だというのに、小出は何とも寂しい駅だ。町の中心部とは川を隔てているからか、駅前には何もなくて、構内にも飲み物の自販機とトイレぐらいしかない。ホームで上越線の列車を待っているのも、ほんの数人だ。もっとも、こんな風に閑散とした風景に出会えるのが乗り鉄の妙味ではあるのだが。
tadami-line-313.jpg
(小出駅に到着した只見線のキハ)

 ともかくも、只見線の旅は無事に終わった。しかし、ここまで乗り鉄をしてきた今日の私には、まだもう一つ目的が残っている。
(To be continued)


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。