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今年の漢字 [自分史]


 毎年12月の中旬になると、京都の清水寺で「今年の漢字」が発表される。奥の院舞台に立てかけられた特大の和紙に寺の貫主が漢字一文字を墨黒々と揮毫する姿は今や年末の風物詩だが、その歴史は思っていたより新しくて、平成7年が初回なのだそうだ。それは阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件があった年で、選ばれた漢字は「」。その年に日本社会が体験したことをまさに凝縮した文字だった。

 今年(2016年)の漢字は「」。この字が選ばれたのは3回目で、過去2回はいずれも五輪大会のあった年だというから、まあ無難というか、面白味のない選択だった。もっとも、「きん」と読むか「かね」と読むかは人それぞれなのだろうけれど。
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 間もなく終わろうとするこの一年を自分なりに振り返り、それを象徴する漢字一文字を私が選べと言われたら、色々考えた挙句、それは「」という字になるだろうか。読み方は「そと」、「がい」、「ほか」、「はずれ」のどれでもいいだろう。

 日本企業の経営活動で言えば、苦境の続いたシャープが台湾企業の出資を仰いでその傘下に入り、粉飾決算に揺れた東芝は白物家電部門を中国企業に売却。他方、ソフトバンクがサウジアラビアのファンドと組み、グローバルにテクノロジー分野を投資対象とするファンドを設立して10兆円規模の投資を目指したり、大手製薬会社などが次々に外国企業を買収したりと、国境を越えた内外の資本の動きは引き続き活発な年であった。

 また、直近ではあまり話題にならなくなったが、今年になって世間を騒がせた出来事の一つが、いわゆる「パナマ文書」のリークである。パナマのタックスヘイブンを利用して資産に対する租税を回避するという、富裕層や大企業だけが利用出来る節税(or脱税?)スキームやその行為に対する批判が世界レベルで高まり、実名を暴かれた政治家が退陣を余儀なくされた国もあった。これも国の「外(そと)」が絡む出来事であった。
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 国の「外(そと)」といえば、シリア情勢の一層の混迷から欧州に押し寄せた難民問題は一段と深刻化。偏狭なナショナリズムが各地で煽られる様子はまさに憂慮すべき事態である。多様な民族が混在する欧州ですら、中東からの移民、イスラム教徒といった異質なものの受け入れが治安の悪化に繋がるので排除したいという声を抑えきれないのだ。そして、英国は今夏に実施した国民投票で遂にEU離脱を選んでしまった。域内での人の自由な移動を認めるEUの中にいてはこのような移民の流入を適切にコントロール出来ないというのが、離脱を決めた大きな理由の一つだった。

 他方、我国の周辺では、東シナ海でも南シナ海でも中国とその他の国々(含:我国)との間で領有権を巡る緊張関係が続いた。とりわけ南シナ海では中国が南沙諸島海域の暗礁を埋め立てる形で人工島を建設し、軍事拠点化を進めている。7月にはオランダの常設仲裁裁判所がフィリピンの申立に関して、南シナ海を巡る中国の主張を全面的に否定する判断を示したが、当の中国はどこ吹く風である。19世紀から20世紀前半にかけて列強諸国に「いいようにしてやられた」経験を持つ中国は、力をつけた今は外に向かって仕返しをする時期だと考えているのだろうか。

 そして米国では、国を二分する選挙によって、あのドナルド・トランプが次期大統領に選ばれた。彼の年来の主張を大統領就任後も本当に続けるのかどうか、今は未知数ではあるが、彼が言っていることは要するに「米国にとって災いは全て国の外からやって来る」ということだ。「為替レートを人民元安にしている上に、ダンピングで自国製品を売りまくる中国が悪い」、「人件費の安さにモノを言わせて米国から雇用を奪うメキシコが悪い」、「安全保障のコストを十分に負担しない日本が悪い」・・・といったことの羅列である。それでなくても、ハリウッド映画を眺めていると米国人というのは何かと外敵を作ることが好きなようだ。

 ここまでに、「そと」という意味で「外」の字を8回使った。しかし、この字は「そと」・「がい」の他に「はず(れる)」とも読む。そして、外れると言えば、既に述べた英国のEU離脱やドナルド・トランプの当選という出来事ほど、世界中のメディアの事前予想が悉く外れたものはなかったのではないか。
the year 2016.jpg

 ここまでは世界の出来事に目を向けた話だったのだが、実は私の会社も予想を大きく外したものがあった。それは、今年度の事業計画の策定時に前提条件として置いた外部環境のシナリオである。

 今年二月のある週末、会社の役員・部長クラスが全員集まって、新年度の事業計画に関するブレーンストーミングを試みたことがあった。そしてその時に総じて皆がイメージしていたのは
「世界中どこを見ても、いい話を聞かない。中国は経済成長の減速が続くだろうし、米国も年の後半には景気がスローダウンするとの見方があり、二度目の利上げはまだまだ先になりそうだ。日本の金融政策も遂にマイナス金利に突入したが、物価の上昇と消費の拡大は望み薄だろう。」
という2016年度の外部環境であった。

 そんなシナリオを前提に、私たちは事業計画の数字を組み立てた。予想販売量は決して背伸びをせず、生産効率を上げるために社内の構造改革を進めて、控えめながらも決して赤字だけは出さないことを旨とするコンサイスな事業計画を作ったのである。ところが、蓋を開けてみると2016年度の外部環境はその事業計画とは全く異なるものとなった。今はむしろ、予想を上回る顧客の需要に応えることが出来ず、製品を作りきれない状態が半年近くも続いている。しかもそれは来年以降も続きそうなのである。モノ作りの会社にとって、顧客からの注文に応じ切れないことほど忸怩たるものはないのだが、要は、私たちには半年先の外部環境すら読めなかったことが全てなのだ。2016年の「今年の漢字」は、私の会社にとっても「外(はずれ)」だったのである。

 とはいうものの、その「外れ」が示すものは、今はまだおぼろげながらも、私たちの事業に大きなビジネスチャンスを与えてくれる可能性を秘めた近未来の社会が着実に近づいているということだ。AI(人工知能)やIoT(物のインターネット)が営利事業や公共サービスのあり方を大きく変えると言われる「第四次産業革命」。それによって到来するであろう新しい社会を、私たちの製品が縁の下の力持ちとして支えて行けるかもしれない。だとすれば、私たちが今取り組むべきことは、目先のことばかりに囚われず、その先を見据えて力をつけ、準備を進めて行くことだ。年明け早々から忙しいことになりそうだが、大いに頑張りたいと思う。
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 来年の今頃、「今年の漢字」は「当(あたり)」だと胸を張って言えるように。

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