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続・冬は北へ (2) 秋田内陸縦貫鉄道 [自分史]


 1月21日(日)、田沢湖高原温泉郷のホテルで朝早く目が覚めた。窓の外は雪が舞っている。家内と私はそれぞれ朝の入浴に出かけ、少しゆっくりしてから朝食へと向かった。家内は昨夜の露天風呂で久しぶりに星空を眺めて楽しんでいたという。そうであれば、ここまでやって来た甲斐があったかな。

 8:30発の送迎バスでホテルを出発。9:00少し前に田沢湖駅に着き、暫くしてやって来た秋田新幹線の「こまち1号」に乗ると、9:34に角館に着いた。「大人の休日倶楽部パス」は新幹線も乗り放題だから楽なものだ。
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 角館では次の予定まで一時間近くの時間がある。今日は曇り空だが風がなく、北国ながらそれほどの寒さは感じない。せっかくだから、観光案内所に荷物を預けて、街中を少し歩いてみよう。家内と私は角館総鎮守の神明社という神社へと向かった。駅からは15分ほどの距離である。
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 中世の時代に角館の中心が今の市街の北部の古城山にあった頃から、その山の鎮守の神として人々に崇められていたというこの社。江戸時代の明暦期に佐竹北家によって現在の場所に移されたという。実際に訪れてみると、天照大神をお祀りし角館総鎮守と呼ばれるだけあって、境内はなかなかの風格を持っている。

 私自身、昨年に膵臓がんを患い、開腹手術や抗がん剤治療という経験をしてからは、家内と二人で神社を訪れることが多くなった。これから先、食生活を含めて健康には十分留意していくつもりではあるが、将来がんの転移が起きるのかどうか、こればかりはまだ何とも言えない。けれども、たとえどんなことがあったとしても、自分の命が続く限りは真っ当に生きて行こう。角館の天照大神にも、そのことを誓った。
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 神明社から角館の武家屋敷街へ向かうように歩いていくと、道の左側に立派な蔵を持つ味噌・醤油の蔵元があった。日曜日の朝10時を回ったところだが、開店しているようなので店内を覗いてみることにした。
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 江戸時代の明暦期以降、角館は佐竹氏の分家・佐竹北家による統治が続いたが、その佐竹北家の初代・佐竹義隣が京都の公家・高倉家からの養子であったことから、角館には多くの京文化が取り入れられ、「みちのくの小京都」と呼ばれるように独特の雅やかな文化が育まれて来た。今回訪れた老舗の蔵元にもクラシックな雛壇が飾られ、生け花も実に立派だ。家内も私も暫くの間、目の保養をさせていただいた。
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 角館には3年前の秋に家内と二人で訪れたことがある。http://alocaltrain.blog.so-net.ne.jp/2015-11-14 あの時に美しい紅葉に包まれていた武家屋敷の家並みは、雪の時期の今はどんな様子だろうか。街の中をまだ歩き続けていたい気持ちも十分にあったのだが、次の列車の時刻が迫っている。私たちは再び駅へと向かった。

 JR角館駅の北側に隣接して、小さな鉄道の駅がもう一つ。その駅舎も「小屋」と呼んだ方がいいぐらいのサイズだ。この角館とJR奥羽本線の鷹ノ巣を結ぶ全長94.2kmの単線鉄道、「スマイルレール秋田内陸線」の愛称を持つ秋田内陸縦貫鉄道である。

 私たちは角館を11:02に出る急行「もりよし2号」に乗るつもりで、「こんな冬の真っ只中にこのローカル線に乗ろうというもの好きなんてそんなにいないよ。」とタカを括っていたのだが、何と改札口の前に行列が出来ていて、しかもここでもマンダリンが飛び交っている。慌てて乗車券を買い求めて構内へ。たった一両のディーゼルカーはほぼ席が埋まり、危うく立席になるところだった。そして、改めて車内を眺め回してみると、乗客の半数以上はアジア系の外国人である。
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 昨日の田沢湖周遊といい、今日の秋田内陸線といい、この時期の日本観光としては相当ニッチな行先である筈なのだが、この盛況ぶり。いやはや、外国人によるインバウンドの観光需要には、私たちの想像を超えたものがあるようだ。

 そもそも日本人の中だって、地元の人々と鉄道マニアを除けば、秋田内陸縦貫鉄道という名前を知っている人はそんなに多くはないのではなかろうか。この鉄道の原型は、旧国鉄の阿仁合(あにあい)線(鷹ノ巣⇔比立内(ひたちない))と角館線(角館⇔松葉)という二つのローカル線である。
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(秋田内陸縦貫鉄道のルート)

 前者は日本三大銅山の一つだった阿仁鉱山から鉱石を運ぶために戦前に建設され、戦後に阿仁合から比立内まで延伸された。そして後者は、もうすっかりモータリゼーションの時代に入っていた1970年に開通し、列車は一日三往復だけという、生まれながらの超ローカル線だった。そして、両者を繋ぐ山岳区間の延伸工事が当時の鉄建公団によって続けられていたのだが、1980年の国鉄再建法の施行によって角館線と阿仁合線の段階的な廃止が決まったことから、鉄建公団の工事も中断。それを地元自治体の出資による第三セクターが引き継いで、JR発足直前の1986年に再スタートしたのが、この秋田内陸縦貫鉄道だ。未成区間が完成して全通したのは1989年4月のことである。

 降雪の中を、たった一両の急行「もりよし2号」は定刻に発車。ディーゼルエンジンの重厚な音を響かせながら、列車は白一色の景色の中をトコトコと走り始めた。乗客はそれを眺め、シンプルに喜んでいる。雪を見ることのない国からやって来た人達には、この北国のいささかクラシックな単線鉄道に乗ること自体が、非日常のわくわくするような体験なのかもしれない。
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 とは言え、この鉄道を取り巻く環境は非常に厳しい。沿線地域は「全国一の高齢化県」といわれる秋田県の中でも有数の高齢化地域だ。旧国鉄から引き継ぐ前年の1985年と比較すると、2010年の時点で沿線の人口は6割近くも減った。その傾向は勿論今も続いていて、それはこの鉄道の輸送実績に直接影響している。
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(秋田内陸縦貫鉄道の一日当り乗客数)

 一日当りの乗客数を月別に見ると、稼ぎ時は例年8~10月なのだが、そこは年々苦戦していると言わざるを得ない。だが不思議なことに12~2月の冬場だけは、少しずつではあるが輸送実績がコンスタントな改善傾向にあることがわかる。乗客の絶対数は年間で最も少ない時期なのだが、その季節の実績が意外と底堅いのだ。それは、例えば今日のような冬場の外国人旅行者によって下支えされていると見ることは出来ないだろうか。1月下旬から2月中旬と言えば、例年旧正月の時期である。

 戸沢という駅を過ぎて全長約5.7kmの真っ直ぐな十二段トンネルを抜けると、阿仁マタギ駅に到着。先ほどのトンネルによって分水嶺を越えたので、ここから先は米代川水系の阿仁川の渓谷を眼下に眺めることになる。両方の窓からの眺めは一段と山深く、雪に覆われたモノトーンの世界。こんな中を単線鉄道がダイヤ通り正確に運行されていることが、何だか不思議に思えて来る。
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 やがて、列車は阿仁合駅に到着。ここで台湾人の結構大きなグループが下車していった。このあたりはかつてのマタギの文化が残る地域。真冬の今はとりたてて景勝地がある訳でもないから、台湾からやって来た人達はきっと何らかの体験型観光を楽しみにやって来たのだろう。

 最近では「地方の活性化のために外国人観光客のインバウンド需要を上手く取り込もう。」ということが良く言われているが、その割には、彼らが日本の何に価値を見出しているのか、どんなことに魅力を感じているのかを、私たちは実のところあまり良くわかってはいないのではないか。今日、この列車に乗っている外国人たちも、決して鉄道マニアのように「乗り鉄」をしに来た人たちではないはずで、それでもこうして座席の半分以上を彼らが占めている。結局は私たち日本人が、祖国の風土や伝統文化をもっとしっかりと理解すべきなのだろう。それは自分自身への反省を込めてのことでもあるのだが。

 阿仁合を過ぎて、どうやら鉄路は下り勾配が続き始めたようだ。ディーゼルエンジンを稼働させた力走ではなく、空走をしていることが多くなり、静かな室内にカタンカタンという線路の継ぎ目の通過音だけが心地よく響いている。私は運転席の右側の窓に陣取り、雪の中に細々と続く鉄路を子供のように見つめ続けていた。
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 13:02 列車は定刻通りに終点の鷹巣駅に到着(JR奥羽本線の駅名表記は「鷹ノ巣」だが、秋田内陸線の駅名は同じ読みで「鷹巣」と書く)。そこで奥羽本線の弘前行がやって来るまで9分の待ち合わせなのだが、鷹ノ巣駅は何にもなくて寒い。空には雲を通して白い太陽の姿があるのだが、光の暖かさは伝わっては来ない。駅舎の外壁に掲げられた温度計は、ちょうど0度を指していた。
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 程なくやって来たのは二両連結の弘前行の電車。ロングシート車両なので通勤電車のようだが、これから大館を経て秋田・青森両県の県境へと向かうので、沿線風景は寂しい限り。奥羽「本線」とは言いながら列車ダイヤは一時間に一本あるかないかといった頻度だから、ローカル線色の極めて濃い区間である。

 それまでの道中にスマートフォンで受信したメールに返信したり、ミラーレス一眼で撮影した何枚もの写真を整理したりしているうちに、列車は青森県に入る。そして14:04に大鰐温泉駅に到着。寒々としたホームの向こう側では、弘南鉄道大鰐線の車両が発車を待っていた。
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 田沢湖駅から列車を乗り継いで来た私たちの旅も、今日の行程は終わりに近い。チェックインの時刻にはまだ少し早いが、私たちはタクシーで今夜宿泊予定のリゾートホテルに向かうことにした。設備はいいホテルだから、まだ部屋には入れなくてもロビーでゆっくりさせてもらおう。
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 広々としたロビーで特製の「りんご茶」を楽しみ、部屋に案内された後はこのホテルの名物の「りんご湯」につかり、私たちは津軽の夕暮れ時をのんびりと過ごすことにした。
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(To be continued)


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