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雨ばかり [季節]


 9月の第4週が終わろうとしている。

 敬老の日と秋分の日。同じ週の中に祝日が2日もあるというラッキーな週だったのだが、結果的には雨の日がずっと続いた。もっともそれは、今週に限ったことではない。東京について言えば、8月の中旬以降、今年はずいぶんと雨の日が多かった印象がある。

 雨というと、一年で一番雨量が多いのは梅雨の時期だと、私たちは勝手に思い込んでいる。しかし、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・福岡の各年の平年(=1981~2010年の平均)の月別雨量を調べてみると、実際にはそうではない。名古屋・東京・仙台・札幌では9月の雨量が一年で最も多く、中でも東京と札幌は10月の雨量も梅雨の時期より多いのだ。
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(平年の月別降水量)

 秋雨というと、
 犬痩せて山門寂し秋の雨 (正岡子規)
 お客といへば私一人の秋雨ふりしきる(種田山頭火)
のように、我々の季節感としては秋ももう少し深まった頃をイメージすることが多いのだが、実際には秋雨の中心は9月なのである。

 ところが今年の場合は、雨の多い9月がやって来る以前に異変が起きていた。東日本について地域別に各月の雨量を見てみると、総じて梅雨の時期は平年値を若干上下する程度だったのに対して、8月の雨量が各地で軒並み平年値の2倍もあったのだ。とりわけ北海道では、6月の雨量が平年の2.5倍に近い記録的な多雨となり、続く7月も平年値の1.3倍ほどの雨量であったのだ。
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(2016年の月別降水量の平年比。9月は14日までのデータ)

 北海道で6月・7月に雨が多かったのは、高気圧の張り出し位置が例年とは異なり、低気圧の通り道となったこと、その時期としては異例の強い寒気が次々にやって来たことなどが原因だという。そして、8月には東からの高気圧の張り出しが弱かったために、例年この時期なら西へ向かうはずの台風が、本州東方の海を北上して北海道へと向かった。8月17日に台風7号、21日に11号、そして23日には9号が相次いで道東に上陸し、各地で大雨。こんな事態はおそらく過去に例を見なかったことだろう。
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 更に8月の終わりには、”出戻り”台風10号がこれに追い討ちをかけた。関東の南東海上で8月19日に発生した10号は、25日までの間は南西方向へと進み続け、日本列島からは遠く離れていたのだが、26日からは方向を完璧に逆転させてほぼ元の位置へ戻る。そして、29日の午後からは少しずつ左カーブを始め、30日の夕刻に、気象観測が始まって以来のことながら三陸海岸に上陸。岩手県と北海道に大雨をもたらした後、日本海へと抜けてようやく温帯低気圧になった。(因みに、この低気圧はその後も更に左カーブを続け、北朝鮮に甚大な洪水被害をもたらしている。)
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(迷走した台風10号)

 上陸が3個に接近が1個。8月だけで4個の台風の影響を受けた北海道の被害は深刻だ。とりわけ交通インフラが大きなダメージを受けた。9月22日現在でも道内の多くの地域で道路の通行止めが続いている。
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(9月22日現在の道路通行止めの箇所)

 特に注目すべきは、北海道の中心部を背骨のように南北に走る山脈を道路や鉄道が越える箇所だ。具体的には、富良野や占冠(しむかっぷ)と帯広の間の山越えの区間である。そこには石狩山地から日高山脈へと続く山々が南北に連なり、西側には同様に夕張山地が南北に走り、上川地方・日高地方・十勝地方を隔てる分水嶺となっている。
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 これに対して、背骨を横断して東西方向に走るのが国道78号線と274号線なのだが、前者が狩勝峠付近で、そして後者が日勝峠付近でいずれも土砂崩れ等によって甚大な被害を受け、現在も通行止めが続いている。(このあたりでは目下のところ、道東自動車道が唯一通れる道路であるようだ。) そして、この付近を通る鉄道・根室本線が広範囲にわたって橋梁や路盤の流出で寸断され、「少なくとも11月末まで運転再開は困難」ということしかわかっていない。根室本線の富良野・芽室間の不通が続いているために、新狩勝トンネルを根室本線と共有している石勝線の特急列車も、札幌発のトマム止まりになっている。
https://www.jrhokkaido.co.jp/pdf/160923-1.pdf

 新狩勝トンネルの前後の根室本線をもう少しクローズアップしてみると、トンネルの富良野方には幾寅(いくとら)、帯広方には新得(しんとく)という駅がある。(幾寅駅は、健さん主演の映画『鉄道員(ぽっぽや)』で「幌舞(ほろまい)」駅としてロケに使われたことで知られている。)
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 幾寅と新得は共にアメダスの気象観測地点でもあるので、気象庁のHPから降水量のデータを拾ってみると、既に述べた通り今年の6月・7月の降水量は例年よりもかなり多く、この2ヶ月の累積の降水量が幾寅では平年の1.9倍、新得では2.0倍に達していた。そこへ追い討ちをかけたのが8月の4個の台風だ。これによって8月1ヶ月に幾寅で平年の3.5倍、新得では3.1倍の量の雨が降った。これほどのダメ押しがあれば鉄道が寸断されてしまったのも無理のないことだろう。
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(幾寅と新得:2016年8月の日別の降水量)

 根室本線の鉄路がこの区間に建設されたのは意外に早く、明治40年のことである。険しい地形の続く箇所だから、これまでにも自然災害による鉄道施設の損壊はあったのだろうが、今回ほどの大きな被害を受けたのは、来年で110年になるその歴史の中でも初めてなのではないだろうか。根室本線の他に、石北本線の上川・白滝間でも列車の運転見合わせが続いている他、高波による被害で昨年1月から運休が続いている日高本線の鵡川(むかわ)・様似(さまに)間は今回の一連の大雨で更に壊滅的な被害を受けたそうで、この区間はまさに廃線の危機に直面している。

 大雨の続いた北海道では、トウモロコシ、タマネギ、ジャガイモなどの栽培に大きな被害が出ただけでなく、根室本線や石北本線の不通によってそれら農産物の貨物輸送にも大きな支障が出ているという。貨物列車とトラックとでは一回に運べる貨物の量が格段に違うから、関係者にとってこれは非常に厳しいことだろう。こうした事態を目の前にして、交通インフラの大切さを私たちは改めて認識することになる。北海道は冬の訪れが早い。まして山間部では道路や鉄道の復旧工事も難儀を極めるはずである。順調な工事の進捗を祈るばかりである。
http://www.jrfreight.co.jp/common/pdf/news/20160901_taifu10.pdf

 シルバーウィークの最後の祝日となった9月22日(木)。この日は家内の誕生日なので、我が家では家族揃って午前11時の開店と同時に浅草の老舗の鰻屋に入った。(寛政年間の創業で、幕末期には勝海舟とジョン万次郎が連れ立って訪れたとされるお店である。) ところがこの日も朝から雨が結構強く、私たちが鰻重や白焼を楽しんだ後も浅草は土砂降りの雨。数多くの外国人観光客たちはビニールの雨合羽姿で天を仰いでいた。

 そして、週末。9月24日(土)も結局は昼から雨。それも一時はかなり強く降った。明日の日曜日は、東京地方の天気予報では少なくとも傘マークがなくなったが、さて、どうなることやら。

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