SSブログ

2勝1敗 [スポーツ]


 9月16日(土)、14時に始まった所沢のメットライフドームでの試合。公式戦130試合目となるこのゲームで埼玉西武ライオンズを7対3で下し、福岡ソフトバンクホークスが2年ぶりにプロ野球パ・リーグのレギュラー・シーズン優勝を飾った。ホークスと同様、前日までにリーグ優勝のマジックナンバーを1としていたセ・リーグの広島東洋カープにも同日優勝の可能性があり、皆既日食にでも出会うようなその希少な機会を私は楽しみにしていたのだが、残念ながらカープは終盤に逆転を喰らって試合を落とし、59年ぶりのセ・パ同日優勝は叶わなかった。それはまた、来年以降の楽しみにしておこう。

 現在のレギュラー・シーズン143試合制の場合、優勝ラインは通常だと80勝台になる。今シーズンのホークスは、16日の試合で優勝を決めた時点で89勝41敗、貯金は実に48。二位ライオンズとは14.5ゲーム差のブッちぎりだったのに、それでも89勝が必要だったのは、ライオンズが73勝54敗3分で貯金19、三位イーグルスが68勝54敗2分で貯金14と、上位三チームがいずれも大きく勝ち越していたからだ。それでいて9月16日の優勝はパ・リーグの最速記録を1日更新しているのだから、ホークスがいかに順調に勝ち星を重ねて来たかということである。

 ホークスの胴上げがかかった土曜日の大一番。私は外出先から帰って来て、6イニング目の攻防からテレビ観戦をしたのだが、その時点でホークスは主砲柳田悠岐の30号2ランなどで既に6対1と試合を有利に進めており、選手たちものびのびとプレーをしていた。先発の東浜巨が6回を2安打1失点9奪三振の好投でゲームを作り、7回表には指名打者アルフレド・デスパイネの一発が飛び出して7対1に。そして終盤は7回裏を左腕のリバン・モイネロ、8回裏を岩嵜翔が、それぞれ中継ぎ投手としてゼロに封じ、ライオンズの追撃を許さない。

 試合はいよいよ9回裏を迎え、この点差ではセーブ・ポイントがつかない局面ながら、「守護神」デニス・サファテが登板。セーブの日本新記録を更新中(現時点でS51)で全幅の信頼を集めるこのサファテが、私の見る限りこの日に登板した投手の中では一番緊張していたように思う。その結果としての被安打3と2失点はご愛嬌というものだろう。最後の打者を三塁ゴロに討ち取り、遂にゲームセット。そして次の瞬間に内野の真ん中で躍動しながら膨れ上がる歓喜の輪。文字通りの胴上げ投手になったサファテは、間違いなくシーズンMVPに選ばれることだろう。
PL2017-01.jpg

 お立ち台に上がった工藤公康監督は、「リーグ優勝を昨年は出来ず、クライマックス・シリーズで負けてから1年弱、この事だけを思って・・・。」と語ったところで感極まって、珍しく涙を見せた。最大11.5ゲーム差をつけながら北海道日本ハムファイターズの逆転優勝を許してしまった昨年のことが、よほど悔しかったのだろう。その悔しさから再出発した2017年のホークス。工藤監督は常々「3連戦を勝ち越すことで、貯金を一つずつ積み上げていく」、「3連戦の頭を取ることが重要」と述べていたが、その結果はどうだったのか。

PL2017-03.jpg

 ここまでのホークスの130試合中、パ・リーグの中でのリーグ戦112試合は77勝35敗で勝率.694だから2勝1敗のペースを7勝上回っている。そしてセ・リーグ6球団との交流戦は12勝6敗だから、まさに2勝1敗ペースそのものだ。3月31日の開幕後、4月末までの1ヶ月間はモタついていて貯金を殆ど積み上げられなかったが(上記グラフの①の部分)、5月以降は勝ち負けに大きな山谷がなく、非常に安定的かつ着実に貯金を増やしていった。

 そして、ここまで37回あった3連戦の内27回で初戦を取り、合計では78勝33敗、勝率は実に.703であった。「3連戦の頭を取る」ことが、やはりその後の試合を有利に進めることに繋がったといえるだろう。
PL2017-02.jpg

 それに対して、二位ライオンズは7月のオールスター戦が終わるまで投打が噛み合わず、貯金は一桁台に過ぎなかった。それがオールスター戦開けの7月21日から突如として13連勝を遂げ、8月20日までの一ヶ月間に21勝6敗という驚異の追い上げを見せた。貯金も20台に乗せたのだが(上記グラフの②の部分)、8月下旬からはその勢いも陰り、貯金は一進一退を繰り返すことになった。

 そして第三位のイーグルスは、開幕当初から打線が好調で見事なダッシュに成功し(上記グラフの①の部分)、ずっと首位を走り続けていた。オールスター戦の前後からはホークスとデッドヒートを繰り返し、必死に首位を守り続けて来たのだが、7月末から急速にペースダウン。8月15日からは6連敗、一日おいて8月23日から更に10連敗を喫してしまい、9月に入ってもその基調を食い止めることは出来なかった。貯金がmaxに達した7月28日以降、ホークスが優勝を決めた9月16日までの戦績は実に13勝29敗1分、勝率.310という体たらく。7月26日以前の貯金がなかったら、とてもAクラスには残れなかっただろう。

 上位3チームの打撃・投手・守備の主要な指標について、今シーズンの9月16日までの実績と過去3年(2014~2016年)の実績値の平均を比較してみると、以下の通りとなる。
PL2017-04.jpg
(上位3チームの戦績 左:2014~2016年の平均値、右:9月16日現在の今シーズン)

 ホークスは前述のデスパイネの加入によって本塁打数が格段に増え(9月16日現在、彼一人で33本を打っている)、懸案であった主砲が固まった。チーム打率は寧ろ過去3年平均よりも少し低いぐらいで、盗塁も実力に比して抑え気味だが、OPS(出塁率+長打率)は向上し、過去平均並みの一試合当たり得点数を維持している。走らせなくてもランナーを返せる打線になったというべきか。

 寧ろ注目すべきは投手力だろう。9月16日時点でのチーム防御率3.06は12球団ダントツで、セーブとホールドの各ポイントも、ここまでの数字を誇るチームは他にない。優勝を決めた試合も含めて、6回終了時にリードしていた試合は74勝1敗という驚異的な勝率だったのも、先発・中継ぎ・クローザーの「方程式」がガッチリと確立していたからだ。対戦チームは何れも、試合の中盤までにリードを許してしまうとその後はもう歯が立たない、という実感を持ったことだろう。

 更には、地味ながらも注目したいのが守備力である。もともと高かった守備率が今年は.993にまで向上し、失策も昨年のほぼ半数に減っている。何れの指標も12球団のトップだ。資金力のあるチームだけに「大型補強」ばかりが毎年注目されがちだが、こうした指標を見てみると、ホークスは大砲を並べたチームではなく、寧ろ好投・堅守のチームなのである。

 それに対して、ライオンズは明らかに打のチームだ。今シーズンの得点数やOPSではホークスを上回っている。「辻野球」のモットーなのか、今シーズンは盗塁にも積極的だ。他方、投手陣は総じて今シーズンは頑張ったと言えるのだろうが、セーブの少なさに象徴されるように、試合を決める「投の方程式」が未確立という課題が未だ解決していない。加えて守備力は大きく見劣りしている。簡単に言ってしまえば、打力はあるのに、投手力や守備力の面でそのリードを守れず、特に接戦になった時にどうも勝ち切れない、という印象だった。

 そして第3位のイーグルスは、大方の予想とは裏腹に、今年のオールスター戦までは大健闘だった。カルロス・ペゲーロジャフェット・アマダーの両外国人の加入によって打力が大きく向上したことに加え、先発投手・岸孝之の獲得、セットアッパー・福山博之の大活躍などにより投手力も充実。首位を突っ走る前半戦の快進撃は本当に驚異的だった。ところが、ゼラス・ウィーラーを含めた三人の外国人野手が揃って調子を落としてしまい、投手陣にも疲れが出始めた7月下旬以降、勢いを失ったチームは坂道を転げ落ちるように連敗を重ね、3位にまで後退。梨田昌孝監督は「全く別のチームになってしまったようだ」と嘆いたが、要は一年を通して戦い続ける体制が十分に出来ていなかったということなのだろう。

 先ほどのグラフだけだと、ホークスは年間を通じて大きな問題が何も起こらなかったように見えてしまうが、実は主力選手が怪我・故障で離脱という危機に何度も見舞われていた。

 そもそも開幕前から、中継ぎで昨年度に抜群の成績を挙げたロベルト・スアレスがベネズエラ代表としてWBCに出場中に故障。そして先発陣の中から和田毅武田翔太もそれぞれ故障で開幕早々に離脱した。WBC日本代表として世界にその名を知らしめた千賀滉大も、背中の張りを訴えて夏前に一時離脱。更には、キャプテンにして四番打者の内川聖一が骨折などで一軍登録を二度抹消されている。

 そんな危機を乗り越えられたのは、いつでも一軍で活躍出来る若手選手たちの育成・指導システムと、その中から起用に応えた若手たちの台頭であり、野手で複数のポジションをこなせる何人ものユーティリティー・プレイヤーたちの存在であり、そして「好調な選手から使う」という、選手間の競争を促しながら個々の選手のコンディションを綿密に把握して起用する首脳陣のマネジメントであったのだろう。投手:千賀滉大・石川柊太捕手:甲斐拓也という共に育成出身のバッテリーで計21勝を挙げたのは、それらの努力の象徴といえる。
PL2017-06.jpg

 そこで思い出すのは、1999年に福岡ダイエーホークスがリーグ初優勝と日本シリーズ優勝を遂げた後しばらくしてからの、王貞治氏の言葉である。眼光鋭くグラウンドに立ついつもの「王監督」とは異なり、行きつけの店・博多の「テムジン」で餃子とビールを楽しみながらの、王さんの素顔が良く出ていた民放のインタビュー番組だった。

 終始にこやかに応じていた王さんが、「今シーズンは、監督が結果的に起用した選手が結果をよく出しましたね。」というインタビュアーの問いかけに、その時だけ表情を変えてきっぱりと、「その『結果的に』という言われ方は、俺には納得いかねえなあ。」と答えたのだ。

「『結果を出した』というのはね、それだけ日頃からやって来た選手たちが活躍の場を与えられてね、その時に自分が今まで溜めこんで来た力を出したんだよ。そういう風に言ってやんなきゃ、選手がかわいそうじゃないか。試合に出られない人は歯を食いしばって、試合に出たらやってやるぞって気持ちでやって来たんだからね。」

「だって、ポジションっていうのは一つしかないんだから、出られないのは選手はわかっているからね。だけど、『だからお前はいらないんだよ。』じゃ選手は絶対働かないし、意欲も持たない。だから(出場の機会が)来た時のためにね、『お前には期待してるんだ。』ということを常に問いかけておかないと。」

「むしろ、試合に出てる奴は放っときゃいいんだよ。試合に出てない選手のそばにいて見て、『あ、今のいいな』とか『悪いな』とか、『もっとこうした方がいいよ』とかいうことを言っていないと。きっかけを掴めば行けるんだけど、そのきっかけをなかなか与えられない。でも、その来た時のためにみんな準備してたんだ。そして、ああやって結果が出たんだから、もう『まぐれ』じゃないんだよ。」

 今更言うまでもない超一流のプレイヤーだった「世界の王」が、レギュラー・クラスでない選手たちとこんな風に熱く接して機会を与えていたのだ。それを「たまたま使ってみたら上手くいった。」などと単純化されてしまうのは聞き捨てならなかったのだろう。そんな王さんが会長を務める今のホークスにも、こうした王イズムはきっと受け継がれているに違いない。
PL2017-05.jpg

 選手たちを競わせながら、こうしてモチベーションを持たせ続ける手腕というものは、私たちの普段のビジネスにおいても参考にすべきことだろう。私の会社などはこのように競わせるほど「選手層」は厚くないが、だからこそ全員が活躍できるようになってもらう必要がある。そのためには、今はサブの仕事をしてもらっている人たちにも活躍の機会を与え、起用したからには信頼し、コミュニケーションをよく取りながら実戦を通じて育てていくことが必要なのだが、頭の中にはあってもなかなか実行出来ないことだ。

 それはともかく、このようにして選手たちはレギュラー・シーズンを文字通り戦って来たのであれば、日本シリーズはやはりリーグ優勝チーム同士の対戦とすべきだろう。蛇足感しかないクライマックス・シリーズなどはもう止めて、今年の場合であればカープとホークスとの頂上対決をシンプルに、なおかつ両チームへのリスペクトを持ちながら、じっくりと楽しみたいものである。

nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。