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立春 [季節]


 2月4日(日) 立春。といっても、外はまだまだ寒い時期である。

 東京の都心部の朝は曇り空が広がっていたのだが、食後のコーヒーを飲みながら読みかけの本に目を通している間に天候が回復していたようで、ふと気がつくと窓のカーテンが明るい陽射しに輝いている。ベランダに出てみると、空の2/3ぐらいに青空が広がっていた。ならば、本の続きは後にして散歩に出てみようか。

 小さなデイパックを肩に、我家の近くにある植物園へ。ここも随分とご無沙汰してしまっている。いつものように正面の坂道を登って桜の広場に出ると、あたりの木々はひっそりと春を待っていた。
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 空が曇っていた朝こそ肌寒かったものの、正午を過ぎたばかりの今は南側の空が良く晴れていて、太陽の輝きが眩しくて暖かい。考えてみれば、今日が立春だから、太陽が一番低くなる冬至から1ヶ月半ほどが過ぎた訳で、春分までの道のりのちょうど半分が経過したことになる。
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 暦というのはよく出来たもので、毎日の平均気温の平年値(現時点で適用されるのは1981~2010年の30年間の平均値)が年間で最低になるのは、二十四節気のちょうど大寒の頃だ。それを過ぎてもまだ気温はなかなか上がらない一方で、南中時の太陽高度は冬至を過ぎてからは徐々に上がり始め、その後は次第に加速をつけて高くなっていく。太陽の輝きの眩しさと風の冷たさとの間のギャップ、すなわち「光の春」を一番感じるのが今頃だというのも、やはり理屈があってのことなのだ。
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 桜の広場からスズカケの林を過ぎ、針葉樹林を抜けて坂道をゆっくりと下ると、日本庭園の先にある梅林ではその1/4ほどの梅の木が既に花を開いていた。
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 ある時期になると多くの木々が一斉に開花する、まるで集団行動のような桜とは対照的に、梅の開花時期は木によって様々だ。そして、花の色にも個性があり、寒風・冬枯れの中で一人花を開き、微かな芳香を放つ・・・。座禅によって己(おのれ)を見つめ続ける禅宗では桜よりも梅が好まれるというのも、何だかわかるような気がする。
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 その日、東京の日中の最高気温は9.8度まで上がり、風のない穏やかな昼下がりを、私はこんな風に植物園の自然の中でのんびりと過ごしていた。そして、翌2月5日(月)は冷え込みが厳しかったものの、東京は引き続きよく晴れた冬の一日だった。ところが、その日から北陸地方では稀に見る大雪が始まっていたのである。

 日本列島が西高東低の冬型の気圧配置に覆われる時、等圧線の間隔が狭くて縦に並ぶものは「山雪型」、等圧線の間隔が広くて斜めに並ぶものは「里雪型」と呼ばれる。2月5日と6日の天気図を見ると、等圧線の間隔は広く、そして等圧線の方向がちょうど北陸地方の上空で斜めになっていた。これは平野部で大雪になるパターンだ。事実、北陸三県では雪が降り続き、特に福井県でそれが激しかった。県庁所在地・福井市の毎日の最深積雪量を見ると、2月4日時点で40cmだったのが5日には82cm(+42)、6日には136cm(+54)に急増、そして翌7日には147cmに達している。
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 147cmと簡単に言ってしまったが、よく考えてみればテニスコートの中央にある審判台の座面の高さが150cmだから、要するにあの審判台がほぼスッポリと埋まってしまう高さである。山の中ならともかく、市街地でその高さの積雪とは大変なものだ。

 2~3日の間にこれだけの量の雪が積もってしまえば、鉄道も道路も除雪が追いつかなくなるのは当然のことだろう。トンネルが多く、除雪のための仕組みを色々と備えた北陸新幹線は別として、在来の鉄道が軒並み運休となっただけでなく、特に福井県下で国道8号線をはじめとする道路交通にも深刻な影響が出て、極めて多数のクルマが立ち往生してしまった様子は、日夜報道されている通りである。

 「雪国」のイメージのある北陸地方だが、平野部で1メートルを超えるような積雪がずっと続く訳ではない。県庁所在地の福井市・金沢市・富山市をとってみれば、冬の間の積雪量は平年値ベースで20~30cm程度のものである。交通が寸断されて市民生活に大きな影響が出るような豪雪というと、近年では1980(昭和55)年の年末から翌81(昭和56)年1月中旬にかけての、いわゆる「五六豪雪」に遡ることになる。
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 この時は北陸三県で12月28~29日、1月5~6日、同13日及び15日と波状的にドカ雪となり、福井市では積雪が1月15日に史上最高の196cmに達している。金沢・富山でも程度の差こそあれ同じような状況だった。
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 五六豪雪の時の北陸地方は、実は12月から平年に比べてかなり寒い冬を迎えていた。気温が低いと降った雪がなかなか融けず、そこへ新たな雪が積み上がってしまう。福井市の場合、年明け後も平均気温が平年値よりかなり低い状態が2月中旬まで続いたために、1月15日に196cmに達した積雪が2月中旬までは1mを超えた状態で残ったのである。

 平均気温と積雪量の逆相関のような関係は今年も同じで、1月に何度かあった平年よりも低温になった時期に積雪量が多くなっている。そして2月に入り、五六豪雪時よりも更に寒くなったところへ里雪型の気圧配置になったことが、今回の豪雪をもたらしたのだ。注目すべきは、2月6日に福井市の最深積雪量136cmが五六豪雪の時の同日の積雪量に並び、翌7日にはそれを上回ったことだろう。局面的には「五六を超える豪雪」とも言えるのである。

 いささか昔話になってしまうのだが、大学を卒業して社会に出た最初の3年間を、私は富山市で過ごしている。着任をしたのは、ちょうどこの五六豪雪の雪がすっかり消えた4月の第3週のことだ。着いた翌日が穏やかによく晴れた日で、真っ白な北アルプスの立山や剱岳、そしてその北方にある毛勝山などが間近に見えていたことを、今でもよく覚えている。

 山が近く、豊かな自然に囲まれた富山市は誠に愛すべき街で、今から思えばその何とものんびりとした環境の中で社会人の第一歩を踏み出せたのは、大変に幸せであったという他はない。多くの人達に本当によくしていただいたので、私の記憶には楽しかったことしか残っていない。仕事のことはともかく、雪国の暮らしを実際に経験することはとても貴重なことで、実に多くのことを学ばせていただいたように思う。(そのおかげで、雪道でのクルマの運転にも一応の「免疫」が出来ていて、それが今の仕事でも役に立つことがある。) 以来、私の中では富山への愛着心をずっと大切にし続けてきた。

 その北陸が、あの時以来の豪雪に見舞われている。福井県でも2月8日のうちに何とか道路上でのクルマの立ち往生を解消したいとのことだが、その先の天気予報を見てみると、これから週末にかけて日本列島には気圧の谷がやって来て、2月11日(日)は全国的に雨。そして振替休日となる2月12日(月)には再び冬型の気圧配置となる見込み。そして想定される等圧線の形はまたしても里雪型だ。しかもその日から強い寒気がまた降りて来る。北陸はもう一度大雪への備えが必要になるようだ。
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 雪の季節での北陸の暮らしは懐かしいが、大雪に人々が難儀するようなことにはなって欲しくない。久しぶりに寒い冬となった今年だが、大雪もそろそろ手仕舞にしてはもらえないだろうか。

 日々の天気予報を眺めつつ、彼方の北陸の空に思いを馳せている。

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