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初富士と饂飩 - 岩殿山 [山歩き]

 中央本線の下り列車が鳥沢駅を出ると、すぐに高度感のある鉄橋で桂川を渡る。そして猿橋の駅に着く頃から右側の車窓に見え始めるのが、何とも怪異な姿の岩殿山(634m)だ。

 山頂直下から南方向へ剥き出しになった大岸壁を眺めたら、昔の人なら誰だってそこを砦にすることを思いついたことだろう。事実、戦国時代に都留地方を支配していた小山田氏は、戦になればこの岩殿山に砦を構えたという。その天然の要害は、電車が大月駅に到着する頃には右側の車窓一杯に迫っている。
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 同い年の山仲間たちとこの5年あまり続けて来た週末日帰りの山歩き。新年の初回は低山をのんびりと歩き、出来れば初富士を眺めながら、山の上で少し手間暇をかけて熱々の昼食を作ることが多い。今年はそれを岩殿山でやってみようとの話を旧友のT君と始めたのは、昨年12月の下旬だった。それも、大月駅から岩殿山の往復ではすぐ終わってしまうから、その北西方向から山の尾根をたどって岩殿山まで歩くコースにしてみよう。開催予定日は年が明けた1月12日(日)に決めて、年内のうちにメールを関係者に送ることにした。

 早めの誘いが効いたのか、蓋を開けてみれば参加者は総勢15名。この活動でも過去最大の規模になった。新宿駅から登山口までは2時間足らずだから、朝の集合時刻がいつもより1時間ほど遅くていいことも、皆にとっては参加しやすかったのだろう。

09:30 森屋荘 → 09:58 サクラ沢峠(5分休憩) → 10:30 トズラ峠(5分休憩)
 高尾発08:20の甲府行き普通列車に乗り、08:57に大月に到着。駅前からタクシー4台に分乗して森屋荘までは10分ほどだ。クルマを降りると、朝の冷え込みが肌を刺す。それでも今日は15人の仲間が集まったのだから、身支度を整えて元気に歩こう。
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 森屋荘の前で小さな橋を渡って県道から離れ、林道を上って行くと、すぐに左側に「←セイメイバン」と書かれた道標があり、森の中へ進んでいく山道が始まる。雪はないが、霜が凍っていて、踏みしめるたびに独特の硬い感触が靴底から伝わってくる。それもまた冬の低山らしくて、どこか嬉しい。
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 植林の中の淡々とした登りが続く。決して急登というようなものではなく、奥多摩あたりの山の登り始めに比べたら傾斜はずっと穏やかだ。高度を上げていくにつれて足元の霜の感触は更に硬くなる。それでも、これが凍っていない状態に比べればずっと歩きやすいだろう。

 何度かつづら折れの登りを続けていくうちに、森の中には落葉樹が多くなり、行く手の空が明るくなってきた。峠は近い。
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 09:58にサクラ沢峠(標高約700m)に到着。標高差180m足らずの樹林帯の登りで、私たちの体はずいぶんと温まり、汗もかき始めている。この時期の山では防寒具は必携だが、それらを全部着て歩くとすぐに暑くなる。着たり脱いだりを小まめに行うことが欠かせない。
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 衣服の調節が終わったら、再び出発。ここからは陽当りの良い尾根道だ。青い空と冷たい空気、すっかり葉の落ちた落葉樹の森と、その枝越しに見え隠れする彼方の山々、そして一面枯葉色の山道。この時期の低山歩きの醍醐味である。
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 緩やかに登りつめた所が、標高780mほどの高ノ丸という、樹林の中で三角点が枯葉に埋もれた、ひっそりとしたピーク。今日のコースの早くも最高地点だ。
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(起伏の多い今回のコース)

 そこから尾根上の下り道が始まり、ずんずんと降りていって、サクラ沢峠よりも更に低い標高620mあたりまで下ると、森屋荘の前からの林道を横切ることになる。そこがトズラ峠だ。陽当りがよく、ススキが陽の光に輝いている。
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10:35 トズラ峠 → 11:08 白岩(10分休憩)
 トズラ峠からは一転して痩せた尾根が始まる。標高700あたりまで少し急な登りを続けていくと、ほぼ南向きだった尾根が東へと90度方向を変え、小さなギャップを幾つか越えながら南北に見晴らしの良い尾根道になる。南の彼方には富士山が木々の間から明確に見え始め、白岩(標高713.5mのピーク)の直前で木々に邪魔されず富士山をクリアーに展望出来る箇所に出る。展望の良さという点では、ここが今日のコースのハイライトになるだろう。私たちは山道に腰をおろし、暫くの間、ここからの初富士を眺めることにした。
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 南正面に大きな富士山を眺めつつ、北西側には木々の向こうに雪を抱いた小金沢連嶺が横たわっている。そして、頭の上はこれ以上望みようのない、無風快晴の空。何ともいい気分だ。
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(富士山の右は三ツ峠山、更にその右に鳥ノ胸山と本社ヶ丸)
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(木々の向こうに横たわる小金沢連嶺)

11:18白岩 → 11:45 稚子落し(5分休憩) → 12:10 天神山 → 13:30 岩殿山(大休止)

 送電線の鉄塔が建つ白岩からは、東側の扇山や百蔵山、権現山などもよく見えている。そこで尾根は再び南に向きを変え、標高差120mほどを下る。前回ここを歩いた時の記憶に比べて、この下りで予想以上に時間がかかった気がするが、ともかくも下り切った所で突然現れるのが「稚子落し」だ。落差100m超のU字型の大絶壁。息を飲みつつ、その威容に見とれる。
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 岩殿山へと続く稜線は、ここから先、海の砂利をコンクリートで固めたような形状の岩が続くのが不思議だ。断崖の東側の縁に沿って歩き、樹林の中を一登りすると、送電鉄塔と小さな祠のある天神山。そしてその先からやっと、今日の最終目的地・岩殿山がその姿を現した。
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 天神山から一度大きく下り、小さな岩山を登ると、その先の下りに鎖場が待っている。連続する3箇所の鎖で大きな岩場を下り、更に水平に岸壁を通過する箇所が続く。総勢15人の私たちはここで当初の想定以上に時間を要することになり、作成しておいたスケジュールからはだいぶビハインドになってしまった。
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 とはいえ、今日は岩殿山から先は歩いて大月駅へ下るだけだから、帰りの列車のチョイスは幾つもある。あまり時間は気にせず、ともかくも安全に難所を越えよう。このあたりの尾根は標高が500m足らずまで降りているから、南側には下界の建物がかなり近くに見える。人が住むエリアから幾らも離れていないような場所で岩場と格闘している自分たちが、何やら滑稽でもある。

 その先にもう一ヶ所だけある、鎖のある下りをやり過ごすと、そこから先は岩殿山への登り返しだ。ここまで来ると、メンバーの間でもペースに差が出てきて、少し間隔が空くことになった。午後1時を過ぎて、さすがに空腹にもなってきた。ともかくも、今日の目的地まで、あとひと頑張り。それにしても、思っていたよりも骨のあるコースだ。
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 大月駅から眺めると印象的な岩場の大岸壁。そのすぐ下をトラバースしながら、登山道は山頂へと続く。山の下の丸山公園から上がってくる登山道と合流すると、あとはコンクリートの階段状の道になる。

 13:30 岩殿山の山頂に到着。それから私たちは登山用のコンロ5台を動員し、遅めの昼食の準備に取りかかる。「料理長」T君の主導で炊事が始まり、彼が自ら揚げたという天ぷらをはじめ様々な具材が投入されて、山の上で食べるにしてはかなり豪華な「鍋焼きうどん」が出来上がった。
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 新年初回の山行だから、少々の「御神酒」を皆で分けて乾杯。熱々で具沢山な「鍋焼きうどん」を皆で楽しみながら、見渡せば富士の高嶺は、かなり逆光ながらこの時間になってもその全身を見せている。今日は本当に素晴らしい好天が一日続いた。学生時代の同期生たちを中心に、10~15年も先輩の方々も含めた15人全員の笑顔が、岩殿山の山頂に揃う。それは何と幸せなことだろう。
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(岩殿山頂から三ツ峠山の方向を望む)
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(ピラミダルな山容の滝子山)
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 山上での食事をゆっくり楽しんだ後、私たちは再び荷物をまとめ、15:00に岩殿山頂を出発。そこから見下ろすとまるで鉄道模型のジオラマのような大月駅まで30~40分の下りだ。ゆっくり歩いても、次の上りの特急「かいじ」には十分間に合うだろう。
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(丸山公園から見上げる岩殿山)

 この集まりも、最近になって新たなメンバーが加わり、だいぶ規模が大きくなってきた。大人数になればなったで相応の工夫も必要だが、今年もまた可能な限り、山の企画を続けたていきたい。

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コメント 3

北京現人

今回は大人数の山行となりましたが幹事さんのお蔭で楽し一日を過ごすことができました。鎖場では不慣れな人がいたので大丈夫か、と思いましたが一番もたもたしてたのは私だったかも(笑)。
天気もこの時期にしては風もなく快晴、幸先の良いスタートになりました。それにウドンの豪華だったこと。食べ物の傷まない冬ならではですね。
また次回の企画、よろしくお願いします。荷物のほうは担ぎ上げますので。
by 北京現人 (2014-01-18 22:47) 

RK

新春らしく賑やかな山行になって何よりでした。

関東の冬の低山歩きは、眺めがよくて本当に気分がいいですね。寒い時期だからこそ、せっせと山へ出かけましょう。
by RK (2014-01-21 13:11) 

T君

料理長に格上げしてくださって!?
 15人いながらあの鎖場を苦も無く降りてきたメンバーの歩行技術の進歩に充分満足です(先輩以外)
 幹事とかガイドとか料理長などの名称はやはり抵抗がありますネ
 15人の経験は初めてでしたが、皆、うれしそうに下山できたことが一番で、次に、また参加してくださることが、更なる喜びに繋がると思っています
 (これまでも1回きりの方もいらっしゃったので、それがトラウマです)
 そんなことを言ってると、次は20人、30人かな?!
 
by T君 (2014-01-22 03:04) 

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