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必殺仕分け人 [政治]

 「事業仕分け」という言葉は、今年の流行語大賞のトップテンに入賞したそうである。市谷に近い国立印刷局の体育館で行われたこの作業は、民主党が政権公約に掲げた「情報公開(ディスクロージャー)」を象徴するものとして、国民の高い注目を集めたが、今日は仕事の関係で、この作業に「仕分け人」として実際に参画された或る方と昼食をご一緒し、その時のお話を聞かせていただく機会を得た。建前的に言えば、これも内外の投資環境を分析する上での情報収集の一環なのだが、今日のような話を直接聞かせていただくことは、今の私にとっては「役得」というべきものだろう。

 先方はその道では著名な方だが、私の個人的なブログとはいえ、ここに記載することで万一ご迷惑がかかってはいけないので、ご職業やお名前はここでは伏せておこう。とはいえ、主語がないと文章にならないので、以下では仮にA氏と記載することにしたい。

 マスコミでも盛んに報道された、例の体育館で集中して行われた事業仕分けの作業そのものは9日間であったが、事前の資料の読み込みや実査などに費やされた時間も含めると、土日も含めて実働20日強といったところだったそうだ。当初は初当選組を含む民主党の国会議員を多数動員する予定だったのが、小沢代表の横槍が入り初当選組は入れなかったというようなドタバタはあったが、A氏は民間から請われて仕分け人に入った方の一人である。

 対象の447事業はどういう基準で選んだのか、事業仕分けの議論に財務省の事前の振り付けがあったのではないか、素人が集まって1時間の議論だけで結論を出すのはやり方が乱暴ではないか、外交や安全保障に係るものまでそこで論じてよいのか、といった批判はあるものの、マスコミの世論調査によれば、事業仕分けについて国民の評価はかなり高く、鳩山内閣の支持率を押し上げる最大のポイントになっているようだ。

 その点をA氏に問うと、

「仕分け人はしっかりとした論客が揃っており、特に3つのグループの各とりまとめ役になった民主党のベテラン議員達は、極めて頭脳明晰でスタンスにブレがない、大変信頼のおける人達でした。」
と語っておられた。

「『事業仕分けのやり方が財務省寄りではないか?』と言う人がいるけれども、これは『財務省寄り』ではなくて、財務省の仕事そのものなのです。それを戦後初めて、役所の権益や政治家の私利といったしがらみを排除し、密室の中でなく衆人環視の下で、第三者的な目から予算の使い方を議論した。今まで財務省がやりたくてもやれなかった、財務省本来の仕事なのです。」
 
 長年の旧弊に従って仕事をしてきた官僚にとっては、さぞかしやりにくかったことだろう。事業の説明には原則として局長レベルが出向いたようだが、仕分け人に厳しく切り込まれてタジタジになる場面が、たびたびテレビのニュース番組でも取り上げられていた。

「やはり密室の議論でコトを進めていた人達は、ああいうオープンな場での議論に慣れていないですね。ナントカ諮問委員会とか、役所の息のかかった人達で構成された会議でシナリオ通りの諮問を受け、政治家に根回しをする。そういうプロセスでやってきたから、今回のように仕分け人から本質的な質問をされると、局長といえども答えられない。局長級があれでは、若手官僚の士気にも影響するのではないでしょうか。」

「447の事業について議論してみると、税金の使い方について役所がいかに無責任だったかが改めてわかりました。役所にはトータルの戦略、グランドデザインがなく、その時々の課題が出てくると、都度予算をつける。そして、一度予算がついたものは来年もつく。そうやって予算の使い道が横へ横へと広がり、一つ一つには薄くなっていくのです。しかも、予算を使った後の効果を検証していない。効果がどうであったかを何も説明できない省庁が実にたくさんありました。」
 
 A氏の話は、だんだん核心部分に迫ってきた。

「スパコンなど科学振興予算について、仕分けの結論への批判がありましたが、あれは決して必要性を認めなかったのではありません。目的はわかるがやり方がよくない。使途を決めて個々の大学や研究所に直接渡せばいいのに、わざわざ独立行政法人の基金を経由する仕組みになっている。天下りの役人がそこで何人も理事になっているのです。だから、独法の事業としては廃止だが、必要な予算は別途一般会計予算で要求すればいい、という申し送りを付言した。そういう事業がいくつもありました。けれどもマスコミは、対立の構図のように仕立てたいから、廃止という言葉だけを取り上げて報道していたのです。」

 A氏によれば、ノーベル賞受賞者を集めて「廃止」に反対の記者会見をさせたのは、事業仕分けで反論できなかった文科省の振り付けによるものだったという。

「民間から参画した事業仕分け人は、私自身も含めて必ずしも民主党支持者ではありません。私は官僚の方々はよく存じ上げていますが、逆に民主党には人脈がありません。それでも、行政刷新会議は政治的な色彩にとらわれずに仕分け人を学界や民間からも集めてきました。作業の全日程を終えた後、仕分け人の解散会のようなセレモニーがありましたが、そこで仙石大臣や、作業全体を取り仕切った枝野幸男議員は、挨拶の中で『民主党』とも『鳩山政権』とも一言も言わない。『国のために力を貸していただきありがとうございました。』とだけ言った。立派なことだと思います。」

「民主党の政策には疑問も注文もたくさんあります。それに、事業仕分けそのものは予算のカットだからデフレ的な政策であり、景気の現状を見れば別途の対策が必要なことは明らかです。ただ、今回の事業仕分けが打ち出した大きな方向性は間違っていないと思うし、仮に将来政権が変わっても、密室の中で予算を組むことは、もうできないのではないでしょうか。会場の傍聴席に自民党の河野太郎さんが来ていて、これは自民党政権がやりたくてもできなかったことだ、と悔しがっていましたね。」

 これはやはり、政権交代の成果の一つなのだろう。個々に批判はあるものの、まずは事業仕分けのプロセスを白日の下に晒し、情報公開を進めた。まずは大きな第一歩である。無駄な独立行政法人が血税を吸っているのであれば、今回の作業が独法のあり方の全面的な見直しへとつながるよう、期待したい。

 同時に、立法や行政プロセスの透明性を高めるということは、それを監視する国民の目がいよいよ問われることになる。そして、マスコミも然りである。報道の質を高めない限り、それでなくても急速に時代遅れのメディアになりつつある現在のマスコミは、存亡の危機に立たされるだろう。

 ともあれ、Aさん、大変ご苦労さまでした。
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