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都心の緑 [季節]

 4月25日(日)、快晴。強い冷え込みがあったが、ともかくも朝から見事な青空になった。早朝一時間あまり外を歩き、早稲田大学のキャンパス近くまで足を伸ばしたが、キリッとした冷気の中、朝日に輝く新緑を眺めるのは気分がいい。春先までは裸ん坊だったケヤキの木はあっという間に若葉を取り戻し、桜並木の葉桜はもう緑陰ができそうなほどである。
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 こんなに良い天気なのに、今日は山歩きの計画をしていなかった。友人達との間では、さすがに二週続けては企画をしない。自分一人でどこかへ行ってもよかったのだが、昨日は夕方から咳が続いて体調が今一つだったので、つい二の足を踏んでしまった。

 とはいえ、好天の日に家の中でじっとしてはいられない性格である。山へ行くなら絶好の日和だったな・・・。そんな気持ちが、ベランダから外を眺めていた私の顔に出ていたのだろう。クルマを出して近所のスーパーの「日曜朝市」に一緒に出かけた時、
 「朝ご飯が終わったら、今日は半日お散歩をしようか。」
と家内が気を回してくれた。日経新聞の折込に小冊子が入っていて、昨年秋に新装成った表参道の根津美術館の様子が紹介されており、家内も私もそれには興味があった。それならば、原宿のあたりから歩き始めてそこを訪れ、その先を目黒あたりまで散策してみようか。山までは行かずとも、都心の緑をゆっくりと楽しむのも悪くない。

 午前11時過ぎ、地下鉄副都心線の明治神宮前駅から外に出ると、表参道の坂道は既に大変な賑わいである。ケヤキの新緑は、今朝歩いた早稲田の杜よりはやや遅れているようだが、爽やかな風が通りを吹き抜け、散策には格好の日和である。ブランド品の買い物袋を両手に中国語で大騒ぎしている一団があり、このあたりもチャイナ・パワーが席捲しているようだ。

 青山通りを渡り、南方向へもう少し進むと、お目当ての根津美術館である。以前は古風な土塀が敷地を囲んでいたが、正面はそれが取り払われて、爽やかな印象の竹垣が風に揺れている。3年半の年月をかけて新しくなった建物はすっきりとした三階建てで、庭園に面した南側が一面のガラス。つまり外の光をふんだんに取り込む設計になっている。一階のロビーに並べられた6世紀中国の石仏を眺めていると、その奥にガラス越しに見える庭園の緑が一体となって、何とも心地良い。

 奥の展示室には、前日から始まった特別展として、この美術館の琳派のコレクションが待っている。目玉は尾形光琳の作になる国宝・『燕子花(かきつばた)図屏風』だ。金箔を貼った画面に、咲き揃った燕子花が大胆かつ繊細に描かれている。金をバックにした藍と緑の濃淡だけ。シンプルな色使いながら極めて強い印象の残る作品である。
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 俵屋宗達(生没年未詳)に始まり、尾形光琳((1658~1716)によって大成し、酒井抱一(1761~1828)がその粋を極めた「琳派」の絵画は、画面を草花のみで構成する、散らし模様のような架空の空間が大きな魅力である。山水画をはじめとする中国風の絵画、唐のイメージが重視された時代の中で、敢えて伝統的な大和絵の手法を尊重し、高級な和風趣味を貫いたそのスタイルは、高いデザイン性とも相俟って海外にも大きな影響を与えたのだが、やはり日本人の私達にとっては、素直に胸に響くものがある。日々の生活の周りに花と緑があふれ始めた今の季節は特に、琳派の絵を眺めるにはぴったりの時期だ。

 光琳や本阿弥光悦の作品をゆっくりと楽しんだ後、私達は緑のまぶしい庭園に出てみた。そこは南向きの斜面に造られた驚くほど広い日本庭園で、手入れがよく行き届いている。新緑の季節の今は、陽光を浴びて輝く若葉の勢いに心を洗われるような気分になる。都会の真ん中にいることをしばし忘れて、私達は緑の中を気の向くままに歩いた。
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(根津美術館の庭園)

 家内も歩くことは好きなほうだ。根津美術館を堪能した後、私達は西麻布の交差点に出て、広尾から白金を経て目黒の方向へと歩き、その途中では通り沿いにテラスを出したカフェで、青空の下、グラスワインを一杯だけ楽しんだ。このコースもそれなりに街の緑が多いところである。

 街路樹、美術館の庭園、そして琳派の世界。色々な都心の緑を楽しみながら、ちょっぴり日焼けもして、良いリフレッシュのできた半日だった。素敵な提案をしてくれた家内に、今日は感謝をしたい。

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