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日の長い季節に [季節]

 このところ、平日の朝食前のジョギングが自分なりに定着している。

 コースを決めて30~40分程度のものだ。こんなことが習慣になったのも、歳と共に夜更かしができなくなり、朝早く目が覚めるようになってきたからに他ならないのだが、何かと忙しくしていた若い頃にはできなかったことに、この歳なりに取り組んでみるのも悪くない。雨の日は走れないから、毎日とはいかないし、前日の帰りが遅い日もあるので、無理はせず、その代わりに長続きさせることを考えていきたい。

 この時期に楽しみなのは、走り始めてから決まって通る小石川植物園の角を曲がる時に、ムラサキツユクサが群生しているのを眺めることだ。一つ一つの花は朝咲いたら夕方には萎んでしまう一日花なのだそうだが、次から次へと咲くのでそれとは気づかない。文字通り草露がいつも葉の上に転がっていて、いかにも涼しげである。この花を眺めたあと、御殿坂という幅の狭い急坂を登ったあたりから、私もツユクサに負けないほど汗まみれになるのだが。
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 この時期に早起きをするのは、要は朝早くから外が明るくなるからである。考えてみれば、昨日の月曜日(6月21日)は夏至であった。東京の日の出は4時24分、日の入は19時ちょうど。昼間の時間が14時間36分という、まさに明るい季節である。

 日本は既に梅雨入りをしていて、太陽そのものがはっきり見えることが少ないから、日の出が一年で早い日、太陽が一年で一番高く昇る日、昼間の時間が一年で一番長い日と言われても、今一つ実感が湧かない。そのせいか、夏至にちなんだ古来の行事というものが、この国では比較的少ないように思う。

 一方で、緯度が高く冬の長いヨーロッパでは、太陽の光に対する飢餓感が日本とはまるで違い、一年中で今が一番楽しみな季節のようだ。私の今の仕事ではドイツの機械メーカー各社との関係が深いのだが、そのドイツ本国でも今頃は休暇シーズンらしく、こちらから仕事上の問い合わせのメールに対しても、先週今週あたりはレスポンスが極端に遅い。そのドイツより更に北にあるフィンランドでは、夏至を祝う盛大なお祭りがあるそうである。

 北緯51.5度のロンドンでは、夏至の日の日の出が4時41分、日没は21時23分である。雨でなければレストランは店の外にテーブルを並べ、いつまでも暗くならない空の下で人々がワイワイと会食を楽しんでいる。それが、若い頃に仕事の見習いで一年滞在することになったロンドンで初めての夏を過ごした私の目には印象的だった。

 そうした高緯度の国々では、いわゆるサマー・タイムが導入されている。

 東京の緯度は北緯35.7度である。地球儀をずっと西の方に回していって、東京と同じぐらいの緯度の街はどこになるかというと、テヘラン(イラン、N35.7度)、ニコシア(キプロス、N35.2度)、マルタ島(N35.9度)、英領ジブラルタル(N36.1度)などがそうである。北アフリカのアルジェやチュニスはこれらの街よりも若干北になるから、ヨーロッパ大陸と比較すると、東京はだいぶ南にあることになる。

 日本列島は南北に細長いので、稚内(N45.4度)から石垣島(N24.3度)までというと、北イタリアのトリノ(N45.0度)からモロッコの沖合、カナリア諸島のラス・パルマス(N28.1度)よりもっと南までの幅ということになる。なるほど、日本がサマー・タイムを導入すべき地理にあるかどうか、微妙なところだ。以下の色地図でも明らかなように、中近東から北アフリカ、カリブ海諸国からメキシコにかけては、日本とほぼ同緯度、或いは日本より南にある国でもサマー・タイム導入国があるが、アジアではどうも馴染みがないようである。
DaylightSaving-World-Subdivisions.png
(青:サマー・タイムを実施している国、橙:導入したことがあるが現在は実施していない国、赤:実施していない国)

 ローマ(N41.9度)はヨーロッパの中でも南の方だが、夏に訪れるとそれでも結構夜遅くまで明るいなと感じるものだ。日本で言えば函館と同じ緯度になるが、夏至と冬至とで日の出や日没の時間差は(サマー・タイム実施前で)どちらも3時間ほどである。東京だとそれが2時間半弱だ。東京の日没は冬至の日が16時31分だが、一時間のサマー・タイムを導入すると、夏至の日没は20時ちょうどということになる。仕事が忙しくても、通勤時間が長くても、外が明るいうちに家に帰れる人が増えることにならないだろうか。私などは単純だから、それでもずいぶん得をしたような気分になりそうだが。

 米軍占領時代の昭和23年から26年まで、日本でもサマー・タイムを4回だけ実施したことがあるようだが、講和条約の締結と前後してやめてしまったそうだ。私の母などに話を聞くと、
「みんな何だか寝不足になってしまって、評判が悪かった。」
とのことである。戦後の混乱期で生きていくのに必死の時代だったのだろうし、制度についての丁寧な説明もあったのかどうか。

 その後も、特に石油ショックを経験して資源は有限だという認識が世の中に広まってから、日本におけるサマー・タイムの導入について何度か議論があった。今は何やら景気対策としての皮算用もあるようだ。一方で反対論も根強い。確かに社会全体の時計をこれだけコンピュータで管理している時代に、新たにサマー・タイムを導入すればシステム上の対応が大変ではあるだろう。また、「結局は残業が増えるだけだ。」という悲しくなってしまうような議論も依然として存在する。ハードルは多そうだ。

 だが、ヨーロッパでは国境を越える国際列車の運行などがあっても、サマー・タイムは問題なく実施されている。何よりも、人間の素朴な感覚として、せっかく空の明るい時間が長い季節なのだから、英語でも”daylight saving time”というように、それを私たちの暮らしに活用しない手はないと思うのだが、何かいい知恵はないものだろうか。

 ところで、北半球が夏至だということは、連日熱戦が続くサッカーのW杯大会が開かれている南アフリカ共和国では冬至を迎えたことになる。日本でいえば12月11日から1月11日に相当する、昼間が一年で一番短い季節にこの世界的なイベントを開催するというのも不思議な気がするが、夏の高温多湿の気候を避けるためだと聞けば、これはこれで時期をよく選んだ上でのことなのだろう。ともあれ一次リーグもいよいよ山場になった。これからも好ゲームを期待したい。
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 そういえば、1990年7月のW杯ローマ大会で、イングランド対ドイツの準決勝が行われた日に、私はたまたま出張先のロンドンにいた。サマー・タイムのおかげで、いつまでも明るい夜を多くの人々がサッカー観戦に興じていたが、試合がイングランドの惜敗に終わると、夜更けには街のあちこちで物の壊れる音がした。

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