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啓蟄の空 - 奥多摩・日の出山 [山歩き]

 立川から出ているJR青梅線は、青梅の駅を過ぎた途端に山が迫り、ローカル線の色彩を深めていく。宮の平駅を過ぎるとすぐに右へ急カーブのトンネルがあり、それを出たところが日向和田(ひなたわだ)駅だ。多摩川の河原の向こうには山々が幾重にも重なり、奥多摩はここに始まるといった風である。
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(青梅線の先頭車両より)

 日向和田は単式ホームが一本だけの小さな駅だが、それには不釣合いなほど大勢の乗客が、今朝はわらわらと電車を降りてくる。梅の名所として全国区級の人気がある吉野梅郷はここが最寄り駅で、その梅の花は今年も見頃になりつつある。そして、日曜日の今日は朝からすばらしい青空が広がった。「青梅市民まつり」も開かれることになっており、一日中多くの観光客が訪れることだろう。

 電車を降りた多くの人々とは異なり、私たち男女計7人は山登りの格好をしている。今日はこの吉野梅郷を基点にして日の出山(902m)に登り、つるつる温泉へ降りる計画だ。花+山+温泉(+ビール)を一挙に楽しんでみようという魂胆である。

 駅前の道路を西方向に進んで左へ折れ、多摩川にかかる橋を渡る。なるほど、このあたりは街路樹も梅だ。「青梅市民まつり」の準備に朝から忙しい市街地を通り抜け、梅郷へと近づいていくと、里山の斜面の所々が白や淡い桃色に染まり始めている。
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 民家の間の道を歩き、吉野梅郷の観光ポイントである「梅の公園」の前までやってきた。なるほど、左手の山の斜面に広がるのは全て梅の木だ。全体としては二~三分咲きぐらいだろうか。あと一週間もすれば本当に見頃となることだろう。せっかくだからその様子を反対側から眺めようと、天満公園の上まで坂道を登る。そこからは多摩川の方の眺めも広がっていた。
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(天満公園からの眺め)

 再び「梅の公園」まで下りてから本来の道を進んでもいいのだが、私たちが登ってきた所にも日の出山に至る山道があったので、そこを進むことにした。持ってきた山地図にはこの道の記載はないが、地形から判断するに、おそらく上の方、琴平神社のあたりで本来の山道と合流するのではないか。

 私たちが選んだ山道は、すぐにスギの植林の中へと入っていく。朝の光が射し込む明るい林で、道もよく整備されていて歩きやすい。今日は風もなく、3月6日の太陽は力強い。歩き始めていくらもたたないうちに汗が出てきた。暦の上では、今日は啓蟄。その暦通りに、日中はかなり暖かくなりそうである。

 一箇所だけやや急な登りがあった以外は、林の中の緩やかな登りが続き、やがて予想通りに本来の山道と合流。そこからしばらく登ると、森の中に神さびた佇まいの鳥居があった。そこから元の山道を登っても、或いは鳥居の奥へと続く参道(といっても山道そのもの)を登っても、同じ琴平神社に至る。神社といっても、森の中に小さな祠が一つあるだけだ。
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 なおも植林の中を登り続けると、三室山という特に展望のないピークに到着。歩き始めに天満公園で選んだ山道が結果的には近道だったのか、予定よりも30分近く早い。時間に余裕があるのはいいことだ。一服したら、先を進もう。

 三室山から先は緩やかな下り道となり、左下に林道が見えてくる。その林道と合流する梅野木峠の手前ではスギの木が伐採されて左側の展望が大きく広がる所があり、大山と丹沢の主脈が青空の彼方にすっきりと見えていた。
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 梅野木峠から立派な電波塔の立つ所までは一旦舗装道になり、その先で山道が再び始まる。地図によればまだ標高は650mほどで、日の出山までは更に250mほどの標高差を登らなければならない。その登りは、日の出山にだいぶ近づいた頃にようやくやってきた。このあたりからは尾根が北西向きで、日陰になるため雪が融け残っている。足元に注意を払いながら階段状の山道を登り続けると、次第に空が明るくなり、石垣を組んだような箇所を登りきった所が日の出山の頂上だ。
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(梅野木峠)

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(日の出山直下の登り)

 ケーブルカーで御岳山に上がると、そこから日の出山までは尾根続きなので、眺めのよい山頂は既に大勢の登山者で賑わっている。私たちも適当な場所を確保し、湯を沸かして昼食をとることにした。

 大山・丹沢の方角に加えて、ここでは御岳山の彼方の鷹ノ巣山(1737m)方向の展望が開けている。風がなく暖かいが、そうかといって雲がムクムクと湧くこともなく、今日は遠くの山々の眺めが実にいい。だが、山肌のスギの植林はまさに花粉の時期で、「紅葉」と見間違えるほど全身を赤く染めたスギの木ばかりだ。登山者で賑わう日の出山の山頂でも、あちこちからクシャミの連発が聞こえてくる。そういえば我が隊の先頭を歩いてくれたH氏も、今日はバンダナ・黒メガネにマスクという月光仮面のようなスタイルだった。
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(日の出山頂上より望む丹沢主脈)

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(遠景中央の最高峰が鷹ノ巣山)

 それにしてもいい天気になった。啓蟄の日に山頂に立ち、明るい太陽の下で遠くの山々を眺めていることの幸せを、あらためて思う。

 依然として予定の時間より40分近く早い。そうであれば、つるつる温泉まで早く降り、新宿に帰り着いてからの「反省会」の代わりに、今日は温泉で軽く宴会をやろう。メンバーの中から誰彼となくそんな声が上がる。そうと決まれば善は急げだ。昼食を終えた私たちは荷物をまとめて下山を始めることにした。
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 山に来るといつも繰り返されることだが、お目当てのものが目の前にぶら下がっていれば、人間は頑張ろうとするものだ。よく整備された山道を快調に下り、時々現われる展望の開けた箇所ではそれを楽しみながら、私たちは目的地を目指す。尾根下りが終わり、山の南斜面をつづら折れに下っていくと舗装林道に出て、やがて現われる道路を左に300mほど上がっていけば、待望の温泉だ。
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 13時20分、つるつる温泉に到着。武蔵五日市駅で上りのホリデー快速に接続する15時15分発のバスまで、時間は十分にある。ゆっくりと湯につかり、居住まいを正して生ビールで乾杯し、ツマミに注文したゲソ揚げを楽しみ・・・。やはり豊葦原の瑞穂の国は、八百万の神が寿ぐ国である。

 予定通りのホリデー快速で新宿には17時少し前に到着。今日はそこで解散になったので、温泉で買い求めた地元のコンニャクや手打ち蕎麦を手土産に、私は都内の両親の所へ顔を出して、夕食を共にすることが出来た。春の初めの、いい一日だった。

 一日遅れでこの記録を書いている今日、関東は朝の雨が雪に変わり、啓蟄そのものだった昨日から一転して真冬のような寒さとなった。今頃はこうして冬と春とがせめぎ合うことが多いものだが、それもまた、春を待つことの楽しみの一つなのだろう。

 お彼岸まで、あと二週間だ。

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コメント 2

おど

本当に暖かそうですね。 月曜日は雪が降っていたようですが、今日行くと冬山に逆戻りなのですかねぇ。
by おど (2011-03-08 20:00) 

RK

コメントをありがとうございました。

私は東京にいて、日帰りで近郊の山に通っているだけですが、ブログを拝見すると、この時期も結構興味深い山に行かれておられるようですね。

また色々と教えてください。
by RK (2011-03-08 22:17) 

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