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今年初めての夏日 [季節]

 我家のベランダで、クレマチスが今年も花を開いた。家内が好きな花の一つで、大きなつぼみがある朝ポンと開く。鮮やかな紫色のその大輪は、この季節の瑞々しい新緑によく映えている。
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 今年はあまり天候に恵まれなかった大型連休だが、東京では最後の日曜日になって青空が広がった。今日は最高気温が25度を越えて夏日になるそうだ。日曜朝市への買出しが終わったら、今日は半日外を歩こうか。家内とそんな話になった。

 メトロで明治神宮前駅に出て、表参道を上がる。我家にしては午前中をゆっくりしてから出てきたので、時刻はもう正午に近い。久しぶりの青空の休日とあって人出も多く、街は以前の活気を取り戻しつつあるように見えた。震災前と違うのは、賑やかな中国語を発しつつ両手一杯に紙袋を抱えた買い物集団を見かけなくなったことぐらいだろうか。

 青山通りを渡り、ブランド・ショップの並ぶ通りを抜けて、根津美術館へとやって来た。館内の庭園が素敵で、日本美術を楽しめる、家内も私も好きな場所である。例年この時期は、その所蔵品で尾形光琳の筆になる国宝『燕子花(かきつばた)図屏風』が公開されるのだが、この連休中に庭園のカキツバタも満開になり、今なら屏風絵と本物の両方を楽しめるという訳である。

 今回の展示物の中では、室町時代後期の作になる『扇面歌意画巻』や、江戸時代初期に作られた『吉野龍田図屏風』が素晴らしい。前者では、『伊勢物語』のストーリーが描かれた扇面の周りに和歌が書き添えられ、後者では吉野の桜、龍田の紅葉を大きく描きながら、短冊に書かれた『古今和歌集』の中の和歌が、その桜や楓の中に描かれている。何とも日本的な美のセンスである。
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(『扇面歌意画巻』)
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(『吉野龍田図屏風』)

 そして、こうした展示物の最後に、お目当ての『燕子花図屏風』が置かれている。左右二対の屏風。近寄って見るといささかドボッとした色の塗り方なのだが、離れた所から見てみると、今を盛りと咲くカキツバタの勢いが巧みに表現されていることがわかる。ちょうどいい距離の位置にソファーが置かれていて、誰もがこの『燕子花図屏風』をゆっくりと眺め、五月の季節感を楽しんでいる。
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 二階の展示物を鑑賞した後、家内と私は庭園に出た。何度訪れても、手入れの行き届いた素晴らしい庭である。ここが都会の真ん中にあることを忘れてしまうような、鬱蒼とした深い緑。深呼吸を繰り返しながら石畳の道を歩いていくと、カキツバタの咲く池に出た。
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 「満開」とはまさにこういうことを指すのだろう。花の紫と葉の緑という二色だけなのだが、それが実に鮮やかで強いインパクトを受ける。スケッチブックを片手にした人々が何人もいたが、なるほどこれはじっくりと眺めていたい景色である。
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 光琳の屏風絵と庭園のカキツバタ。両方を堪能した私たちは、美術館の外へ出る。予報通り今日は暑くなった。午後の陽はまだまだ高い。それでも、青空がきれいだから、緑の中でもう少し午後を過ごすつもりでいる。美術館の前の道を歩いて青山墓地を通り抜け、乃木坂から六本木に出て大江戸線に乗った。

 六本木から二駅、国立競技場駅から外に出ると、JR千駄ヶ谷駅は目の前だ。駅前を通り過ぎ、鉄道のガードをくぐって、私たちはいつものように新宿御苑へやってきた。適当な木陰を選び、ちょっといいピクニック・シートを芝生の上に敷く。家から持って来た簡単な食べ物と飲み物で一休み。緑の中はやはり格別だ。家内も私も、これが大好きなパターンなのである。

 今日は朝から天気が良かったから、園内もさすがに賑わっている。欧米人の家族連れも多い。広い芝生の上を自由に歩けるから、彼らにとっても楽しめる場所だろう。ロンドンのハイド・パークなどと比べてもここは遜色のない都会の中の緑のオアシスだと、私は思う。両親に連れられた小さな子供達が芝生の上を走り回っている様子は、いつ見ても微笑ましいものだ。
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 3月の大震災の後、福島の原発事故によって多数の外国人が東京を離れた。その後の状況の推移から、東京駐在の外国人ビジネスマンについては戻りつつあるようにも見えるが、少なくとも原発の処理に見通しが立つまでは、警戒モードは解かれないだろう。少子高齢化が進むことで内需の更なる縮小が予想される中、より多くの外国人を呼び込む「観光立国」が打開策の一つだった筈だが、大震災と原発事故で早くもそれが頓挫してしまった感がある。

 既に言い古されていることとは思うが、外国人観光客を増やすためのポイントは、リピーターを増やすことではないかと私は思う。繰り返し日本を訪れて消費をしてくれるだけでなく、彼らの母国で日本の良い宣伝役になってくれる筈だからだ。それによって、新たに日本を訪れてみたいと思う人々も増えて行くことだろう。

 ある国に対するリピーターというのは、その国に慣れ親しむにつれて、滞在中はなるべく地元の人々と同じようにして時を過ごしたいと思うようになるだろう。とすれば、東京を例にとれば、そこに暮らす日本人と同じようなライフ・スタイルで滞在を楽しみたいと彼らが思うかどうか、言い替えれば、外国人が真似をしてみたいと思うように我々が東京での生活を色々な形でエンジョイしているかどうか、それにかかっているのではないだろうか。モノを消費すること、文化を楽しむこと、屋外の自然を楽しむことも全部含めて。
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 震災からほぼ二ヶ月が経過し、被災地への共感の持ち方や支援のあり方、復興に向けて各自が取り組めることにも色々な形があり得ることが、巷間ようやく語られるようになってきた。そんな中で、東京に住む我々に出来ることの一つは、外国人にも魅力的な東京、それも単にエキゾチックということだけではなく、外国人も一目置きたくなるクールな東京を作っていくことだろう。

 この夏の東京は電力不足が待っている。様々な努力と工夫が必要ではあるが、だからこそ日本ならではの取り組みによってそれを乗り越え、混乱も起こさず、社会に秩序と微笑みを保ち続けること、必要な我慢はしつつも生活をちゃっかりエンジョイすることで、リピーターを増やしていくことにつなげて行きたいものだ。大きな国難ではあるが、災い転じて福となす一つのチャンスなのだと考えたい。

 4時になった。広い園内を横切って新宿門から外に出る。夏日になっただけあって今日は西日が暑いが、これが毎日のようになる季節がいずれやって来る。今年の夏、我家の「節電ライフ」はどんな風になるだろうか。例年よりたくさん汗をかいても、それを笑い飛ばして暮らしていきたいものである。

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