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晴のち雨 - 奥多摩・御前山 [山歩き]

 JR青梅線の終点・奥多摩は、終着駅という言葉がぴったりと当てはまる、山と谷に囲まれた小さな駅だ。昭和19年の開業時の姿を残した駅舎は、山小屋風という表現がよく使われるが、和風の温泉旅館のようだと言われれば、そんな気もする。鉄道模型の好きな人は、こんな駅のジオラマを作ってみたくなるのではないだろうか。
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 日曜日の朝8時28分に到着した電車のほぼ全員が登山客で、駅舎を出ると路線バスに乗るために二手に分かれる。右手が日原方面、正面が奥多摩湖方面のバス乗り場だ。私たち7人は後者に乗り込み、15分ほど揺られて奥多摩湖バス停で降りた。

 5月の下旬ながら今日の東京は夏日になるとの予報だったが、標高520メートルのこの地点でも、バスを降りると既に暑い。9時ちょうどにスタートして、ダムの堤防沿いの舗装道を登山口に向かって歩いていくと、前方にはまぶしい新緑に覆われた尾根が左奥に向かってぐんぐんと高度を上げている。大ブナ尾根と呼ばれる、御前山(1,405m)まで高度差900m弱を詰める山道である。
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 例年この時期は天気が刻々と変わるので、一週間先、二週間先の山の計画を立てても、実行できるかどうか間際までわからないことが多い。今回も、前週の中頃に「曇のち雨、降水確率50%」という予報になっていたので、山行実施を諦めかけていたのだが、メンバーのT君から、「曇のち雨といっても雨の降り出す時間がわからないから、前日まで判断を待ってみては?」とのアドバイスがあった。

 そうしたところ、彼の執念が天に通じたのか、土曜日になって予報は「晴のち雨」に変わった。前線の南下が少し遅れるらしい。元々、午後は早くに降りてくる計画だ。ならば頑張って登ってみよう。7人の山仲間は、当初計画通り集合することになった。これで早々と中止にしていたら後悔しただろうと思うぐらい、今朝はまだ晴天が続いている。
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 覚悟はしていたが、登山道に入ると程なく急登が始まった。道がぬかるんだ時の下山用にロープが張られた箇所があるほどだ。歩き始めたばかりで、まだ体が完全には目覚めていないが、ともかく我慢してこの急坂をやり過ごす。傾斜はその後も緩急を繰り返しながら、それでも確実に高度を稼いでいく。静かな山道を覆う、目にも鮮やかな新緑に励まされながら登りの辛さに耐えていくと、奥多摩湖を出てから1時間強でサス沢山という樹林の中のピークに到着。その一角だけ北側の展望が広がっていて、奥多摩湖を見下ろすことができる。雲があちこちに湧いているが、意外に遠くの展望もあり、大菩薩嶺が彼方に見えていた。
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 再び出発。このあたりからはブナの森が次第に深くなり、木々の背丈もずいぶんと高くなる。どこを向いても山道は新緑に囲まれ、谷を駆け上がってくる風が涼しい。更に30分ほど歩いて少し傾斜が緩くなった所で、カン高い連続音が森の中に響いた。それも相当な高速で硬いものを叩き続けているような音である。「アカゲラかな?」とT君。列のトップを歩くH氏が音の方に近づいていくと、樹を突いていたその鳥はバタバタと飛び去っていった。
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 なおも登りが続く。高度はだいぶ稼いできたはずだが、風の吹かない場所では汗が出る。今日は前線に向かって吹く弱い南風という予報だ。下界もかなり暑くなっていることだろう。再び現れた急登を我慢し、丸太で作られた階段を登ると、惣岳山の広くて平らな山頂に出た。奥多摩湖から2時間20分。コースタイムより15分ぐらい早いのではなかろうか。昨日までの天気の延長だった青空も、予報通り次第に雲に覆われはじめ、太陽もその輪郭がはっきりしなくなってきた。この山頂からは、穏やかな形をした御前山のピークが、ブナの新緑の間から姿を見せている。あと0.6kmという道標。いよいよ最後の一頑張りだ。
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 惣岳山から少し下って鞍部を過ぎ、標高差にして100mに満たない最後の登りを終えて、11時40分にようやく御前山のピークに到着。樹林の中の広々とした静かな山頂だ。「今日は午後から雨」という予報をおしてやって来た登山者だけだから、山頂の所々に用意されたベンチがちょうど埋まる程度の人数である。若い頃にも一度ここに来たことがあるが、奥多摩有数の山の割にはひっそりとしているのが、この山の持ち味だ。
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(御前山頂上)

 山頂での昼食。それぞれが持ち寄ったフルーツで喉が潤う。少し前の春先までは、山の上で食べる暖かい物がありがたかったが、もうそろそろ、冷たくて爽やかな物をどうやって山の上まで運ぶかに心を配る季節になってきた。水も多めに持ってくる必要がある。今年は例年を上回る節電の必要性からだいぶ早く「クール・ビズ」が始まるようだが、私たちの山歩きも、よく晴れた日などは夏山モードに切り替えを始める時期なのだろう。それにしても、溢れるようなブナの新緑に囲まれているのは気分がいい。
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 私たちが食事を終えた頃、空を覆う雲はだいぶ量を増していて、御前山の真上には黒い雲がかかり始め、ポツリと来た。登りの最中は何とか雨にならずに済んだが、下山中はどこかで降られることになるだろう。いずれにしても先を急ごう。予定通り30分で昼食休憩を切り上げて、私たちは下山を始めた。この時点では、樹間から遠く丹沢山の北東側の尾根などがうっすらとまだ見えていた。

 御前山から栃寄に向かって下り始めると、道端の所々にカタクリの花が残っていた。内気な性格なのか、下を向いてひっそりと咲く薄紫色の可憐な花である。歩きながらそんな花を愛でているうちに、先頭から少し間が開いてしまった一部のメンバーが山道の分岐点で道標を見落として、違う道をしばらく下ってしまうハプニングがあったが、H氏が走って呼び返してくれたおかげで何とかリカバリーし、御前山避難小屋を経由して我々は山道を下る。しかし、下山開始から1時間も経たないうちに、とうとう雨が降り出した。
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(カタクリの花)

 今日のような天気では、降り始めたら短時間で雨脚が強くなるであろうことは想像がついた。私たちはザックカバーをつけ、雨具を着用。ここから先は森の中を歩くだけなので、私は折畳み傘で対応することにした。案の定、降り方が強くなると、しばらくして雷鳴が一発。それでも夏の夕立のように激しいものではない。雨に濡れながら、私たちは黙々と下る。計画では山道を歩き通す予定だったが、舗装林道に出たところで、遠回りにはなるが足元が危ないよりはいいからと、林道を下まで歩くことにした。
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 この季節、太陽に輝く新緑の山は本当にきれいだが、それが雨に煙る様子にもまた独特の風情があるものだ。それを楽しみながら、御前山の山頂から2時間20分ほどで、私たちは境橋のバス停についた。ほんの1~2分の違いで、予定より一本早いバスには乗り損ねてしまったが、その30分後の本来のバスで私たちは奥多摩駅に着き、日帰り温泉で今日の汗を流すことができた。
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(境橋から見下ろす多摩川)

 「奥多摩三山」と呼ばれる、東から順に大岳山(1266m)、御前山(1405m)、そして三頭山(1531m)。大岳山には一昨年の12月、山の冬枯れが始まる頃に登った。三頭山に登ったのは昨年8月、対照的に夏の盛りの時期だった。そして、今日は新緑の御前山。それぞれの季節にそれぞれの味わいのあるところが、奥多摩の懐の深さなのだろう。いずれも東京都の素晴らしい山だ。

 上りのホリデー快速で多摩の銘酒『澤乃井』のワンカップを仲間たちとゆっくりと楽しみながら、私たちはいつものように、次の山へと思いを馳せていた。

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コメント 2

T君

 御前山は、「3山」の中でも独立峰のように見えるいい山です
時期を過ぎたカタクリも見れたのはとてもよかった!!
 ただ、かなりの雨でした
靴は、シリンダーとピストン状態!でした。
 メンバーの雨具は、雨が玉になっている初物状態!
よく考えれば、「雨天覚悟」の歩きもなかったね。
いろいろな面で、いい経験が出来た山行でした。反省点も多々!
by T君 (2011-06-07 00:47) 

RK

お疲れさまでした。

たまには雨中の行軍も勉強になるものですね。

それにしても、ブナの緑は期待通り。カタクリの花はおまけのご褒美でした。

秋にもまた行きましょう。
by RK (2011-06-07 08:38) 

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