SSブログ

空を読む [季節]

 5月27日(金)に関東甲信越地方の梅雨入りが発表された、その直後の週末はやはり雨が続いた。

 東京では平年より12日も早い梅雨入りだという。今年は原発事故の関係で夏は節電が強く求められているから、早く梅雨入りした分、早く明けてしまって真夏日が続いたりすると電力不足が心配なのだが、それに加えて、今年は妙に早く台風がやってきた。

 台風2号などという番号の若い台風が、6月も待たずに本土に接近するのは、私の記憶にもないことだ。どこかで温帯低気圧に変わるとしても、復興はまだこれからという東北地方の被災地や、高濃度汚染水の回収に時間を費やしている福島原発の周辺に風雨を早々にもたらすとは。5月29日午前9時の天気図を改めて眺めてみると、なるほど我国は天変地異の多い国で、年がら年中自然災害と向き合って暮らしていかねばならないのだと実感せざるを得ない。
weather chart (29May2011 AM9).jpg

 一方で、今は便利な時代になった。定期的に更新された天気図を、48時間後までの予想天気図も含めて、ネット上で幾らでも見ることができる。少し専門的なサイトに入っていけば、高層天気図だって閲覧可能だ。学生の頃、山で宿泊する時はラジオの気象通報を聞きながら自分で天気図を書くしかなかった、そんな時代を経験してきた私たちにとっては、夢のような話である。

 我々にとってはお馴染みの天気図。それを世界で最初に作成したのは、ハインリッヒ・ブランデスという19世紀ドイツの物理学者だそうである。欧州では17世紀に温度計や気圧計が次々に発明され、各地で気象観測が行われたようだが、ブランデスはそうしたデータを元に、1783年3月に発生した嵐の時の、空の様子を図解したという。要するに36年前の出来事を再現してみた訳で、天気予報とは異なるものだ。

 今のような天気図を作るとしたら、広範囲にわたって各地の気象を同時に観測し、そのデータをすばやく集めなければならない。それを可能とする時代が到来するためには電信の発明とその普及を待たなければなかった、というのは、いかにも説得力のある話だ。実際に、電信で集めたデータをもとに作られた天気図が掲載されるようになったのは、1849年のロンドンの或る新聞が最初だそうである。

 そうした近代的な気象観測は、明治を迎えたばかりの日本にも早々にやって来た。1873(明治6)年には工部省が現在の東京・港区のホテル・オークラの付近に「東京気象台」の設置を決め、英国から技師を招き、外国製の観測器械を据え付けて、明治8年の6月1日から1日3回の気象と地震の観測を始めたという。そのことによって、6月1日は「気象記念日」に制定された。(東京気象台は、後に中央気象台に改組されている。)
central meteorological observatory.jpg
(記念切手に描かれた中央気象台)

 そして、それから9年後の1984(明治17)年、同じ6月1日に、東京気象台から日本初の天気予報が発表された。
 「全国一般風ノ向キハ定リナシ 天気ハ変リ易シ 但シ雨天勝チ」
という、今頃の季節ならいつでも当てはまりそうな内容のものだが、ともかくもこれが日本の天気予報第一号となった。気象観測と天気予報の発表が共に梅雨時の6月1日から始まったというのが、いかにも日本らしいと言うべきか。

 とは言え、西洋の文物を大急ぎで取り入れなければならなかった時代。物事の優先順位をつけるのに、明治政府はさぞかし苦労の連続だったのだろう。その中で、気象観測や天気予報の技術はかなり早い時期に導入されたものの一つと言える。

 もちろん、災害の予防などのためにも気象観測は大変重要だが、後に太平洋戦争の間は気象情報が軍事機密に属するものとして公表されなかったように、列強諸国による世界分割の中にあった明治の日本は、軍事の面からも気象観測の態勢整備が急務だったのだろう。今だって、気象衛星には平和利用以上に軍事利用の側面があるのだから。

 それにしても、自分で天気図を書かなくなってからもう随分と久しくなった。NHKラジオの第二放送では、今でも一日三回の気象通報がオンエアされているようだが、昔のようにそれを聞きながら同時に天気図を書いていくことが、今でも私にはできるだろうか。

 小中学校の頃、気象観測といえば校庭の片隅にあった百葉箱にお世話になったものだが、老朽化と共に今では数が激減し、私たちの子供の世代などはそれを知らないようだ。気象庁のアメダス観測所も、無人システムで百葉箱を使わず、ファンの付いた筒型の容器に計測器を入れているという。

 時代は変わったという思いを抱きつつ、今年もまた梅雨の季節に気象記念日を迎える。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

四半世紀今問い直す「戦前の日本」 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。