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カレーなる週末 [季節]


 7月に入った。

 この週末は梅雨前線も一旦その姿を消しているが、だからといって梅雨が明けた訳でもない。東京では風がなく、曇り空と日差しの強い青空が交互にやってきて、やたらと蒸し暑い。今日の土曜日も買出しで少し外を歩いたら大汗をかいてしまった。

 夏は暑い。だが、暑いからこそ夏はカレーの季節である。

 立ち寄った本屋の店先にも、カレー作りの本がやたらと並べられている。それに感化されたのか、週末は久しぶりにカレーを作ることになった。我ながら単純な話だが、どうも男というのは元来カレー好きに出来ているらしい。だから、世の中には「男のこだわりカレー」みたいなレシピがゴマンとあって、その通りにこだわっていたらきりがないのだが、今日もほどほどにはこだわることにしてみたい。だが、一緒に食べてくれるのは家内と娘だから、内容には多少、女・子供に媚びたところも必要だ。従って、今夜は仕上げに市販のカレー・ルーを使うことにする。

 夕方5時、刺身用に捌いたスルメイカの残りのゲソをオーブン・トースターで焼いたものをツマミにビールを楽しんでいた私は、いよいよそのカレー作りに取り掛かる。

 まずはニンニクとタマネギをそれぞれ微塵切りにし、生姜をすりおろす。微塵切りは極力細かくすべしとレシピには書いてあるが、タマネギを刻むと私はすぐに目が痛くなってしまう。今日も既に「涙そうそう」である。

 圧力鍋にサラダ油大さじ1をひき、微塵切りにしたニンニクと鷹の爪、そしてカルダモンというスパイスを入れて火にかける。カルダモンは高貴な香りの豊かな、カレー料理には欠かせないスパイスの一つだ。
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 鍋の油に香りが移ったら、微塵切りのタマネギとおろし生姜を投入し、キツネ色になるまで弱火で炒める。作業を急いで焦がしてしまっては何もならないから、カレー作りの中で実はここが一番大事な工程かもしれない。ともあれ、20分ほどの間だが、炒まっていくタマネギと気長に向き合うことにしよう。

 我国にカレー料理が入ってきたのは、言うまでもなく明治になってからのことだ。といっても、当初は殆どの人々には縁のないものだったのだろう。それが国民の間で認知されるようになったのは、日露戦争で兵が大量動員されてからのことで、陸海軍が既にカレーを食事に取り入れていたため、カレー料理を経験し、その作り方を覚えた人々の数が格段に増えたようだ。しかもそれは、外来のカレー料理そのものではなく、小麦粉を入れてとろみを加えた、要は日本の米と共に美味しく食べられるように既に一ひねりした日本のカレーであったのだ。

 その日露戦争が始まった明治37(1904)年に、東京・早稲田の馬場下町の角に今もある三朝庵といううどん屋で、我国初の「カレーうどん」が登場したという。日本の伝統文化の中に外来の物を融通無碍に取り込んでしまう、我国のお家芸の典型のようなものだが、ともかくも随分と早い時期に現れたものである。もっと早く知っていれば、学生時代に三朝庵へ通ってみたのにと、ちと反省。

 大正時代になると、タマネギ、ニンジン、ジャガイモといった野菜類の普及も進み、いよいよ日本のカレーが国民食になっていったようだ。そして浅草では我国初(ということは世界初)の「カツカレー」が登場する。即席のカレー・ルーも開発され、昭和に入ると「カレーパン」がデビューした。考えてみれば、麺類や調理パン、中華饅頭、煎餅やスナック菓子・・・といったありとあらゆる食べ物に「カレー風味」を取り入れてきた国は、世界の中でも日本ぐらいのものだろう。

 昔、仕事でロンドンに住んでいた頃、パブの昼飯などでカレー料理を食べる機会があったが、インディカ米を炊いた上にこれといって味のしないスープカレーをかけたようなもので、とろみはなく、美味くも何ともない食べ物だった記憶がある。それとは別に、植民地の宗主国だったから英国にはインド料理店が多かったが、だからといってカレー料理が国民の間に根付いているかというと、どうもそんな様子ではなかった。

 その後に駐在した香港では、カレー文化の発祥地・南アジアに相対的に近いためか、中華料理の中にカレー粉を使ったメニューも幾つかあったが、中華料理全体の中では全くのマイノリティーだった。それらと比べてみると、「カレー」に対する日本の食文化の親和性・柔軟性は何とも驚くべきものである。

 そうこうしているうちに、タマネギがキツネ色になった。さあ、鶏肉を投入しよう。手羽元に塩・胡椒をし、ヨーグルトを加えてよく揉み込んだものをビニール袋に入れ、冷蔵庫で4時間ほど寝かせておいたものだ。鍋に入れてざっと炒め、表面の色が変わったら、一口大に切ったジャガイモと乱切りのニンジンも投入。そこでいよいよカレー粉の登場である。
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 親しくしている知人から譲っていただいたものだ。ご親戚が仕事で頻繁にインドへ出掛けておられるそうで、その関係から現地で売られているものを私にも紹介してくれたのだが、これがまた実に風味豊かなカレー粉なのである。

 投入したカレー粉が鍋の中の具材となじんだら、かぶるぐらいの水を入れ、ベイリーフの葉を一枚、そして缶詰のホールトマトを潰しながら加える。レシピには1/3缶などと書いてあったが、中途半端に残しても家内が困るだろうし、トマトたっぷりのカレーは家族も好きだから、ここは1缶全てを投入してしまう。家庭料理なんてそんなものだ。
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 強火にして圧力鍋の蓋をし、沸騰したら5分ほど加圧。そのまま放置して圧力が下がったら蓋を開け、市販のカレー・ルーを加えて煮込む。とろみが出たら、仕上げにガラムマサラを一つまみとバルサミコ酢を一振りして火を止めれば出来上がりだ。そうこうしている間に娘も帰ってきた。さあ、ご飯にしよう。

 前菜は、既に用意しておいたスルメイカと鯵の刺身。ベランダで勝手に育っている大葉を敷いた。そして、大根とレタスの和風サラダ。居酒屋メニューを真似たものだ。ドレッシングは叩いた梅干に醤油と白出汁、砂糖を少々と、仕上げのレモン汁。海苔を加えれば出来上がり。
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 そしてメインのチキン・カレー。圧力鍋で煮込むと肉が骨からホロリと外れる。まずは大過ない仕上がりになって、汗をかきながらも家族との食卓には笑顔が咲いた。そしてデザートには、一口大に切って冷やしておいた安売りのアンデスメロンが実に甘い。
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 振り出しに戻るようだが、夏は暑い。そして、暑いからこそ、汗をかきながらカレーを食べる季節である。

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