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真夏の緑 - 御坂山・黒岳 [山歩き]

 7月9日の梅雨明け以来、猛暑が続いている。この日曜日も、朝5時半に家を出た時から雲一つない夏の青空だ。そして新宿、高尾、大月で電車を乗り継いでからもそれはずっと続いていて、富士急の電車の窓からは扇を立てたような夏富士がすっきりと見えている。

 真夏を迎えると、東京から電車利用の日帰りで行く山というのも、場所の選定に苦労するものだ。標高が低い山域はとてつもなく暑い。だが、東京を朝早く出て9時過ぎには登山を開始しようとすれば、標高の高い所を目指しても自ずと限界がある。今回選んでみた御坂山地の黒岳(1793m)は、そうした制約下では最高地点の一つかもしれない。それに、河口湖駅から標高1300mの天下茶屋までタクシーで上がってしまえば、歩き始めが暑くてかなわないということもない。
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 駅からタクシー2台に分乗した我々6人の山仲間が天下茶屋に着くと、河口湖の向こうに聳える富士の高嶺が早速のお出迎えだ。こんなに素晴らしい眺めの登山口というのも珍しい。9時20分、「御坂みち」のトンネルを出入りする車を横目に、私たちは御坂山への登山道へ。右手の藪の中でガサゴソと音がすると思ったら、サルが森の奥へと入っていくところだった。
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 山道は明るい森の中だ。20分ほどで三つ峠山から西へと続く主稜線に上がり、そこからはブナやミズナラの木陰が続く尾根伝いの道である。小さなアップダウンを拾いながら歩いていくと、或る一角だけ南側の展望が広がる場所に出たりする。富士の左肩に少しずつ雲が湧き始めた。底が抜けたように青い空と元気な太陽、そして足元のまぶしい緑。いかにも夏山の風景である。
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 御坂山(1596m)に向かって少しずつ標高を上げていく山道。不思議なもので、稜線上のちょっとした峠のような箇所、つまり左右から谷が上がってくるような地形の場所では、風がひときわ涼しい。夏だから我々も汗をかき続けているが、一陣の涼風に癒されながら、私たちは歩みを進める。右手の木々の間から遠く大菩薩嶺の姿が見える箇所を過ぎてもう一登りすると、樹林の中で全く展望のない御坂山の、ひっそりとした山頂に出た。歩き始めてから55分。コースタイムより少し速いペースである。一休みをしようと腰を下ろすと、頭上を覆うブナの緑が本当にきれいだ。
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 そこから先は意外に痩せた尾根の上を歩きながら次第に高度を下げていく。送電線の鉄塔が立つ所で再び左に富士を眺め、更に進んでいくと、御坂山から30分ほどで、今は閉じてしまった御坂茶屋のある御坂峠に出た。これが異なる季節ならば寂しい峠の風景なのだろうが、今は空も緑も底抜けに明るい。その夏の明るさに元気をもらって、黒岳への登りに取りかかろう。
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 その黒岳までは引続き樹林の中の、だがしっかりとした登りである。それでも着実に高度を稼いでいくので、吹く風が更に涼しくなっていくのが嬉しい。汗をたくさんかいているから、途中での水分補給を心がけながら、コースタイム通り御坂峠からちょうど1時間をかけて、キスゲの咲く黒岳の山頂へと私たちは到着した。
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 ここも三角点のある場所は展望が全くないのだが、そこから200m先に展望地あり、との看板が出ている。それに従って山道を進むと、南側の明るい展望が開ける場所があった。時計は正午。お疲れさま! さあ、昼飯にしよう。皆で持ち寄ったフルーツ、凍らせておいたパイナップルやメロンが、自然解凍でちょうど食べ頃になった。私たちがそんな風にして喉を潤している時、広い夏空の下、富士の高嶺は沸きあがった雲の中で昼寝を決め込んでいた。
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 ここまでは、よく踏まれて歩きやすいのどかな山道だったが、黒岳からの下りは様相が一変した。ここを歩く人が少ないのか、道幅が狭く、木々の枝がかなり低い位置まで繁っているので、背の高い人間は身をかがめながら歩くことになる。おまけにイバラが多いのでうっかりすると痛い目に遭う。それよりも何よりも、山を最短距離で下りるために作られたような道で、ロープの張られた急斜面の連続なのだ。ちょっとしたフィールド・アスレチックのようなことになった。
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 下り始めてから45分ほどで、三つ峠登山口へと下る山道との分岐に到着。我々は尾根筋をそのまま、河口湖畔の広瀬地区へと下りる山道を進む。その先も急な下りの連続。ロープが張られたのがいったい何箇所あっただろうか。標高が下がるにつれて気温も上がる。樹林の中の道だから照りつけられることはないが、午後の私たちはもう汗まみれだ。

 やがてアカマツの林を抜け、下界の自動車の音がだいぶ近づいてきたので、やれやれ難所も終わったかと思いきや、最後の最後にまたロープの急坂があった。(実は、最後のロープは私が力をかけた時にひっこ抜けてしまった・・・) そして、たくさんの観光バスが停まる野天風呂天水という温泉施設の前に出たのが午後2時半過ぎ。下山を始めた黒岳山頂からたっぷり2時間がかかっていた。
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 三連休の中日とあって、河口湖周辺は観光客で賑わっているようだ。野天風呂天水は大混雑なので諦め、私たちはタクシーを呼んで河口湖駅に近い温泉施設へと移動。途中で渋滞に巻き込まれたりしながらも、待望の一風呂を浴びて元気を取り戻すことができた。あとはビールやワインを買い込んで電車に乗るだけだ。暑かったけれど、今日も楽しい山歩きだった。底抜けに明るい夏の山は、やはりいいものだ。

 夏は陽が長いから、夕方5時を過ぎても車窓からは沿線の山々がよく見えている。何だか懐かしい風景だ。そういえば今日、黒岳の山頂ではトンボが飛んでいたっけ。

 子供の頃の夏休みを思い出すような景色を肴に、私たちの足元には空のアルミ缶が並んだ。

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