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海を眺めて - 南郷山・幕山 [山歩き]

 東海道本線の下り電車は、小田原の次の早川駅を過ぎると、海に寄り添うようにして熱海方向へとコマを進めていく。このあたりは箱根の山が海に押し出すようにして海岸線まで迫っているから、線路は海よりもだいぶ高い位置にあり、ミカン畑の続く山をトンネルで越え、鉄橋で谷を渡る。熱海まで列車はほぼ南を向いて走るので、進行左手に広がる相模湾は朝の太陽を受けて眩しく輝いている。

 それにしても、小田原から先の区間を在来線の電車に揺られて行くのも、ずいぶんと久しぶりのことだ。我が家の子供たちがまだ小さかった頃、東京と伊豆の熱川を往復するのに、特急の「スーパービュー踊り子」号に乗った、その時以来だろう。普通列車を利用してとなると、私自身が子供だった頃にさかのぼることになるかもしれない。そんなことに今朝は神様の配慮があったのか、小田原の駅にやってきた伊東行きの電車は185系。2ドア・クロスシートの車両が、かつての「湘南電車」の時代を思い出させてくれる。
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 9時15分、定刻通り湯河原に到着。そこから15分の接続で路線バスに乗ると、10分足らずで終点の鍛冶屋に着く。そこで降りたのは、総勢10人の私たちの他に、年配の女性の登山客が二人だけだ。

 一月の三連休の中日。今日の私たちは、ここから南郷山(611m)と幕山(625m)を目指している。いつもの中学・高校時代の同級生たちに加え、私たちの5年先輩で高校時代に女子山岳部で活動をしておられたMさんが初参加をしてくださった。男3人に女性が7人。やはり山歩きも女性の時代である。

 9時45分に出発。バス停の目の前にある五郎神社から歩き始めると、最初は住宅地の中の舗装道路だ。それがすぐに上り坂になって、ミカン畑の間を抜けていく。これが案外きつい坂で、早くも汗が出てくる。このあたりは東京よりも温暖な気候なのだが、それに加えて今日は風のない穏やかな日和だ。雲は少し多めだが、時々太陽が顔を見せると、とたんに暖かくなる。しばらく登ってから振り返ると、ミカン畑の向こうに海が輝いていて、何とものどかな眺めである。
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 登り始めてから35分ほどで道が左に曲がり、湯河原ゴルフ場の南西側の縁に沿って登っていくようになると、間もなく舗装道路が終わって山道が始まる。両側に竹が繁り、塹壕の中を歩いて行くような道が続く。特に急な登りもなく、10時50分に白銀林道という舗装道に出る。それをしばらく東方向に進み、左手に再び山道が続く。

 ここから先は竹林に雑木林が混じるようになり、南郷山を目指して傾斜が少し急になるが、木々の間から右手に海を見下ろしながら歩く、気分のいいコースだ。真鶴半島も眼下に見えていて、いかにも「陽だまりハイク」といった感じである。

 11時15分、カヤトの茂る南郷山頂上に到着。北東方向の展望が開け、青い海と三浦半島の海岸線がよく見えている。ここでのんびりしたい気もするが、小休止にとどめて先へ進もう。
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 南郷山の先は、しばらく水平に進んだ後で左に折れ、竹の茂る急斜面を降りて先ほどの白銀林道に再び出る。しかしそれもまたすぐに右にそれ、背の高い杉林の中を登って行くと、やがて自鑑水という小さな池に出る。平安時代末期の1180年、以仁王による平家追討の令旨に応じて伊豆で挙兵した源頼朝が石橋山の合戦に敗れ、この池に辿り着いて水を飲もうとした時、後に平家を倒して世を平定する我が身の姿が池に映し出されたのを見て自害を思い留まったというエピソードが残された池なのだそうだ。後から作られた話のような気もするが、森の中で今もここだけ池があるというのは不思議ではある。
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(森の中の自鑑水)

 自鑑水から緩く登ると再び白銀林道に出てそれを横切り、そこからは幕山への登りだ。これも特に急な登りということもないが、正午に近くなり、皆もそろそろ空腹になってきた。桜が並木状に植えられた道を登って小高い丘を越えると、最後の登りがある。雑木林を越えると、南郷山の頂上よりもずっと広い幕山の草原状の頂上が待っていた。12時08分、ほぼ予定通りの時刻に到着。幕山公園の方から上がってきたのか、山頂は意外に多くの人々で賑わっていた。
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(幕山への登り)

 新年最初の山行。しかも寒い時期だから、歩行時間をほどほどにして、山頂で暖かいものを食べられるようにしようということから、今回の昼食は山仲間T君の十八番、山形名物の芋煮鍋になった。鍋に湯を沸かしさえすればすぐに完成するよう、彼が事前に準備をしてきてくれたので、10人分の鍋といってもそれほど時間がかからずに出来上がる。
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 豚肉に里芋、長ネギとキノコ類、そして最後にウドンを加え、眼下に輝く海を眺めながら山の上でアツアツを頬張る楽しさ。ほぼ独立峰のような山なのに、今日は風もないのがありがたい。H君の夫人がお手製の桃のタルトを持ってきてくれ、M先輩は自らリンゴを剥いて下さり、最後は熱い烏龍茶を入れて、和気藹々と楽しい昼食を楽しむことができた。
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 充実した昼食につい時を忘れ、私たちは予定を15分ほどオーバーしてしまい、それから下山を始める。幕山から今度は南東方向へつづら折れに下って行く道だ。ぐんぐんと高度を下げていくのだが、砂利を敷いてよく整備された道なので歩きやすい。下界のミカン畑や農家がどんどん近づいてくるようだ。途中、海を眺めるポイントが続き、これもまた気分がいい。やがて山道が南向きになり、多くの人々が岩登りの練習をしている岩場を過ぎると、その下は梅林になっていて、花の時期は観光客で賑わうようだ。
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(真鶴半島を見下ろす)

 幕山から45分ほどで梅林の駐車場前に到着。ここから先は舗装道路を1.6kmほど歩けば、今朝バスを降りた鍛冶屋バス停だ。途中、農家が道端でミカンを安く売っていたりして、何だかのんびり歩いているうちに、鍛冶屋からのバスの発車時刻が近づいてしまった。30分に一本のバスだから、それを逃すと時間が無駄になってしまう。私たちは走り出し、先頭を行くS女史が出発しかけたバスを止めてくれて、辛うじてこのバスに乗ることができた。何かあると、まず体が動くS女史のフットワークに、今日も感謝感謝である。

 湯河原の駅で路線バスを乗り換え、私たちは「こごめの湯」という町営の温泉施設へと向かう。公園入口というバス停で降りて路地を左に入り、急な坂道を登ったところにあるのだが、その手前に「光風荘」という古い建物が残されている。昭和11年の二・二六事件の際に、内大臣を退任してここで家族と静養していた牧野伸顕が陸軍将校らによって襲撃されたのだが、同宿していた孫娘の和子(吉田茂・元首相の娘、麻生太郎・元首相の母)の機転によって辛うじて難を逃れたという場所だ。今は博物館になっているそうなので、またの機会に訪れてみたい。
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(湯河原の街中に残る「光風荘」)

 穏やかな山と海、山頂での賑やかな昼食、そしていつも変わらぬ愉快な山仲間たち。年の初めの山行は、皆の笑顔の絶えない一日となった。今年もなかなか大変な一年になりそうだが、皆で元気を出して、こんな週末日帰りの山歩きを、引続き企画していきたいものである。

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コメント 3

T君

山形村山地方の芋煮は、牛肉です!
豚肉は庄内!しかも味噌味!!(「そりゃトン汁だろう」といつも馬鹿にしてました)
バスに乗り遅れそうになったのは、買いあさっていたミカンのせいでした。
お歳暮でもらったミカンよりうまかった。しかも7つで100円!!!
by T君 (2012-01-11 20:23) 

M先輩

H夫人のタルトは、洋梨でした。
それにしても、おいしい山行は魅力的ですね。
みかんおいしかったです。
これからは、月一登山を目指します。
by M先輩 (2012-01-11 22:38) 

RK

T君
なるほど、一口に芋煮鍋といっても、地域によってバリエーションがあるんですね。トン汁風も悪くないかも。
農家のミカンは我家でも好評でした。

M先輩
今回はご参加いただきありがとうございました。
冬の間は、やはり暖かい食べ物がありがたいですね。
また同様の企画をしますので、今回に懲りず是非ご参加ください。
by RK (2012-01-12 08:28) 

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