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伊達と酔狂 - 高尾山 [山歩き]

 朝、家を出る時から既に小雨が降り始めている。それでも、ザックを担いで私は駅に向かう。電車を乗り継いで新宿駅へ。京王線のホームに向かうと、8時20分発の下りの準特急に充分間に合う時間だった。

 土曜日の朝のこの時間、普通なら高尾山への登山客が大勢乗っているはずなのだが、天気予報通りの雨になった今日は、さすがに電車も空いている。先頭車両まで歩くと、ガラガラの席にI先輩とE先輩が乗っておられた。

 「やっぱり雨天決行なんですね。(笑)」
 「中止のメールが来てないか、昨日の夜も何度も見たんだけどね、(笑)」

 準特急は定刻に発車。笹塚を過ぎて電車が地上に出たところで、今日の旗振り役のM先輩にメールを送る。しばらくして届いた返信によれば、10分後の8時30分発の準特急には3人のメンバーが乗っているという。わかっていたことではあるが、やはり今日の山行は中止ではなかったようだ。

 高尾山口の駅に着くと、H先輩が改札口の外で待っていてくれた。そして、同じ電車の後ろの方に乗っていたという同期のT君も現れた。手にビニール傘を持っている。
 「折り畳み傘じゃなく長い傘持って山に来るなんて、初めてだなあ。(笑)」

 そして10分後の電車が到着すると、今日のメンバー10名が揃った。駅前には他にも雨具で身を固めた何人かのパーティーがいたから、12月下旬というこの時期に雨の中を高尾山へ上がる御仁は私たちだけではないようだが、世の中的にはかなりの少数派であることに違いはない。ともかくも、皆そろって9時43分発のケーブルカーに乗ることになった。
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 今日のメンバーは、高校山岳部のOB・OGの面々である。私よりも15年も先輩のTさんを筆頭に、末端はT君と私、その間に色々な年代が散らばっている。あることがきっかけになって、この3年ほどの間、OB・OGたちと折にふれて顔を合わせるようになった。それは何よりも、10年上のW先輩が諸事几帳面に連絡を回して下さったこと、そして個々の企画になると、5年上のM先輩がいつも率先して旗振り役を務めて下さったこと、そのおかげに他ならない。

 ケーブルカーが上の駅に着くと、雨に煙るその駅前は、これが高尾山?と思うほどガランとしている。思っていたほど寒くはないが、傘を持つ手がさすがに冷たい。

 今週は典型的な西高東低の気圧配置の下、東京は毎日冬晴れが続いていた。それなのに、今日に限って気圧の谷が通り過ぎるので、朝から雨だ。それも、降るのは午前中だけだという、まさに私たちの行動を狙いすましたようだ。いや、それは逆で、私たちが狙いすましたように雨の中を出かけて来たと言うべきかもしれない。
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 高校山岳部時代、合宿といえば雨はつきものだった。合宿の日程は決まっていたから、台風直撃のおそれがある場合などを除けば、雨になるとわかっていても行くものだった。今日の私たちの間で雨天中止の動議がついぞ出なかったのは、若い頃のそんな「刷り込み」が今も残っていたからなのだろうか。

 今日と明日、晴天ならこの高尾山からはダイヤモンド富士を眺められたはずで、このあたりは大変な混雑になったのだろう。だが今日は実にひっそりとしたものだ。それでも、傘をさして歩くこんなに静かな高尾山もそれはそれでいいではないか。

 薬王院を過ぎると、彼方の山並みが霧の中に浮かんでいた。神々のおわす森には、このような雨と霧こそが相応しいようにも思える。
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 ケーブルカーで上がって来たから、ゆっくり歩いても山頂までは40分程度のものである。東屋で雨をしのいで早くも大休止。その間に、丹沢や富士山を望む展望台に寄ってみると、ここでも低山と雲海が織りなすモノトーンの不思議な眺めが広がっていた。
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(中景の山は石老山)

 降り続いていた雨はだいぶ弱くなり、雨天なりに遠くの山々が見え始めようとしている。「雨のち晴」という今日の天気予報は、どうやらその通りになりそうだ。今日の私たちは、その雨が降り出してから山に登り、それが上がる前に山を下ろうとしている。たまにはそんな希少性動物になってみるのも、悪くはないのかもしれない。
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 来た道を戻り、メンバーのうち6人は下りもケーブルカーを選んだが、T君と私を含めた歩き足りない4人組は、2号路を歩いて下ることにした。僅かな距離のことではあるが、舗装路ではない山道を下るのが嬉しかった。

 高尾山口駅に戻ってきたのが昼の12時半少し前。そこからは本日の後半戦である。今日はこの後、八王子市内にあるH先輩のお宅に全員集合して、陽の高いうちから忘年会を開くことにしていたのだ。

 途中で食材の買い出しをして、H邸には13時半頃に到着。長テーブルに料理が並び、キッチンではT君が十八番の芋煮鍋を仕込み、そしてテラスではH先輩がバーベキューの用意をして下さっている。程なくして、皆で乾杯!山も酒も大好きな面々が揃っただけに、甲斐や信州の珍しい地酒が差し入れとして登場した。
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 H家はご夫妻共に高校山岳部のOBとOGである。長年、大学に勤められ、大勢の学生さんたちを招いてのホーム・パーティーを開かれることが多かったようで、今回も高尾山行の帰りにご自宅での忘年会開催をご提案いただいた。高校山岳部の長い伝統を受け継いできた、そのことを共通点にして、今日のようにジェネレーションを超えた集まりの場を作っていただいたのは、私などにとっては何ともありがたいことである
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 山岳部の先輩方とは、昨年は8月に、そして今年は9月に、穂高の岳沢に集まる「合宿」の企画があった、(私は今年の部には参加できなかったのだが。) 加えて今年は新しい試みとして、会議室を借りて先輩方の活動報告を聞かせていただく機会もあった。ヒマラヤのトレッキング、アルプスのオート・ルート(シャモニー~ツェルマット間の山岳路)のスキー・ツアーなど、プロジェクターで投影された画像を交えてのお話には胸躍る思いがしたものだ。来年もまた、そんな風にしてお互いに元気を貰い合う関係でいたいと思う。

 気がつけば、窓の外は陽が射している。テラスに出てみると、午前中の雨が嘘のような青空だ。南西側を眺めると、建物の向こうに丹沢の蛭ヶ岳のピークが見えている。H先輩は炭火の上でシーフードを焼き始めた。傍らにいてその煙に鼻孔をくすぐられた私たちは、もうすっかり酩酊しながらも、山の話がいつまでも尽きない。まさに至福の時である。
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 伊達や酔狂で山をやってきた訳ではなくて、私たちはみんな根っから山が好きなのだ。それでもと言うか、だからこそと言うべきか、今日は敢えて雨の中に山を歩き、午後はしこたま酒を飲んで、伊達も酔狂も楽しんだ一日になった。

 先輩の皆さま、今年も大変お世話になりました。来年もまた一緒に山へ行きましょう。どうぞ良いお年を!

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