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暑い!暑い! [季節]


 5月最後の週末は、大変な暑さになった。

 前週の後半あたりから、週末が暑くなりそうなことは天気予報がさかんに伝えていたから、ある程度は覚悟していたものの、本当に梅雨明け後のような夏空がやって来ると、やはり体の方がびっくりしてしまう。

 例えば、梅雨明けを7月の下旬とすると、それは夏至から一ヶ月と何日かが経った頃である。それが、6月1日となると、夏至まであと三週間というところだ。そこに梅雨明け後のような夏空がやって来ると、太陽の位置は今の方が高いから、日差しや紫外線の強さには大変なものがある。

 今回は、5月31日(土)と6月1日(日)の両日、高気圧が東から張り出して日本列島をすっぽりと覆う気圧配置が続いた。梅雨をもたらす停滞前線が日本の南に押し下げられている点は梅雨明けとは異なるのだが、いずれにしても日本中がカンカン照りになるパターンで、気温は上がりやすい。気圧傾度が極めて小さいから風が吹かないのも、暑さの原因になりやすい。
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 東京都心では、土曜日の午前11時には気温が30度を超え、17時までその状態が続いた。この日の最高気温31.6度は5月の観測史上1位の記録を塗り替えている。それは、他の多くの観測地点でも同様だった。夜になってもなかなか涼しくならず、部屋の窓を開けっ放しにしても寝苦しい。一夜明けた翌日の日曜日もまた見事な快晴で、朝から気温がぐんぐんと上がる。10時10分には早くも30度を超えた。そして、正午前に記録した33.1度がこの日の最高気温になった。
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 この時期、平年値(1981~2010年の平均)では、5月末でも最高気温は25度ぐらいである。そこへ二日続けて30度を超える日が突然やって来たのだから、体がその暑さについて行けないのも当然なのだろう。今週末はたまたま日帰りの山歩きの企画をしていなかったが、行っていたら体が悲鳴を上げていたのではないだろうか。今年はこれからエルニーニョ現象が発生する確率が高いそうで、そうなると冷夏の到来が予想されるのだが、春分の日以降の東京都心の気温の推移を見てみると、特にこの5月は気温がだいぶ高めで、ひとまずは暑い初夏だったことになる。
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 突然やって来た真夏のような日。けれども、せっかくの週末に、暑いからといって家の中にこもっていては勿体ない。朝のジョギングをはじめとして、私はいつものように外に出たい。日曜日の午後、王子の飛鳥山へアジサイの花を見がてら、家内と二人で「お札と切手の博物館」へ足を伸ばすことにした。入場無料で、「富士百景 - お札・切手に見る日本の象徴 -」という特別展を今日までやっているのである。明治以降の日本のお札や切手に描かれた富士山の姿が、少しでも涼を運んでくれるだろうか。

 メトロに乗って王子駅で降り、外に出た途端に目が眩みそうになった。時刻は13時半を回った頃で、風がなく、広々とした明治通りは頭の上から照りつけられている。駅から北方向に数分も歩くと、早くも独法・国立印刷局の王子工場が現れ、その一角に博物館の建物があった。石神井川の水流と、それが隅田川へと繋がる水運を利用し、渋沢栄一らが中心となって王子の地に抄紙会社(王子製紙の前身)が設立されたのは1873(明治6)年のことだ。3年後には工場が完成して生産を始めたが、その同時期に大蔵省紙幣寮の抄紙局が隣接地に建てられ、紙幣や郵便切手の印刷を始めることなった。そういう意味では、王子は日本のお札や切手の発祥の地なのである。

 博物館に入ると、エアコンの効いた一階と二階に常設展示があり、二階の一角が今回の特別展示になっていた。入場無料ながら訪れる人の数は少なく、展示物をゆっくりと見ることができる。但し、何と言っても本物のお札や切手を展示しているから、そういう箇所での写真撮影はご法度だ。

 そのコーナーで最初に目を引いたのは、初めて富士山が登場した明治6年発行の5円札だ。紙幣といっても、日本銀行の設立は明治15年だから、この時点ではまだ日銀券ではなく、前年の太政官布告により制定された国立銀行の制度に基づく紙幣である。
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 まだ王子の抄紙局は建てられていないから、この紙幣の印刷は米国に依頼をしたそうだ。絵柄はお江戸日本橋と、その彼方に姿を見せている小さな富士だ。戦後の五百円札に描かれた「雁ヶ腹摺山からの富士山」などと違って、ここでは富士の高嶺もまだ脇役である。

 その5円札に続いて私の印象に強く残ったのは、1899(明治32)年に発行された英貨建の公債の券面である。ロンドンにて募集され、額面1千万ポンド、期間55年、横浜正金銀行、パース銀行、香港上海銀行、チャータード銀行を引受シンジケート団とするものだった。
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 日本政府としては26年ぶりの外債で、汽船に乗って日本にやって来る外国人の目線を意識したのか、券面に描かれているのは駿河湾の方向から見たと思われる富士山だ。その2年前に、日清戦争で清国が支払った賠償金をもとに、日本が金本位制に移行していたとはいえ、維新成立から30年そこそこの東洋の島国に対して期間55年の国債がよくぞ消化できたものである。

 その日本は日清戦争で財政規模が拡大し、公募公債や増税が国内の民間セクターを圧迫していた。外債発行による内債償還や、政府による私鉄の買い上げ(=鉄道国有化)による民間への資金のリサイクルを求める声が高まっていたというが、そんな中で明治32年に募集が行われた外債は、内債償還目的でもなければ、鉄道国有化のための資金調達でもなかった。

 海外市場からの野放図な資金調達は通貨を膨張させてインフレを招くという考えから、この時代のポリシーとして外債発行は「関税収入による元利払の範囲内」とされ、新たな生産につながり、将来的に海外から金を稼ぐ事業に資金使途が限定されたのである。具体的には、この外債の資金使途は北海道の鉄道インフラの建設が中心であったようだ。世界規模での低インフレと低金利がいつの間にか当たり前になっている今の時代に、時には振り返ってみたい明治の歴史である。

 この明治の外債とは対照的に、現在の日本国債(円建て)に描かれた富士は山梨県側からのアングルで、かつての五百円札の絵柄によく似たものだ。(もっとも、私たちが国債の現物を見る機会はまずないのだが。)
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 そして、1987(昭和62)年の国鉄分割民営化の時に存在した新幹線保有機構が発行した政府保証債の券面にも、200系新幹線の後ろに富士山が描かれていた。(これはさすがに静岡県側からの富士なのだが。) そんな風に、今も昔もこの国を象徴し、その姿を見た時になぜか襟元を正したい気持ちになるのは、やはり富士の高嶺なのだろう。
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 二階建ての小さな博物館の、そのまた一角を使った展示なのだが、お札と切手の博物館の「富士百景」は、想像していた以上に楽しめる企画であった。なお、常設コーナーには世界の様々な紙幣が集められており、第一次大戦後の超インフレ時代に発行されたドイツの1兆マルク紙幣や、同様に第二次大戦直後にハイパーインフレに見舞われたハンガリーの10垓ペンゲー紙幣(10垓は10の21乗、つまり1兆の10億倍)などの実物も見ることができる。

 博物館のエアコンと富士百景でしばし涼んだ後、自動ドアが開けば外は再び炎天下だ。それからJRのガードをくぐって飛鳥山公園の麓へと歩いていくと、線路際では名物のアジサイが花を開き始めていた。このところの暑さで少し水を欲しがっているような様子ではあったが、暑い中でも涼を運んでくれる花の色である。
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 階段を登って飛鳥山公園に上がった私たちは、売店でアイスキャンディーを買い求め、木陰のベンチでちょっと一息。今日は日曜日だから、この緑豊かな公園には小さな子供を連れた家族が多く、30度を超える暑さと相俟って、なんだかもう夏休みの季節になったかのような気分だ。
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(飛鳥山公園には、無料の「アスカルゴ」で上がることもできる)

 一息入れた後は、汗をかかない程度にのんびりと飛鳥山公園の中を歩き、王子の駅へと戻る。それから再びメトロに乗って飯田橋へ。地上に出て神楽坂をゆっくりと登っていくと、ここもまた夏休みのような日曜日の午後だ。坂道の両側に並ぶ店には、「昼から飲めます」という看板があちこちに出ていて嬉しい限りだ。

 休日に家内と散歩に出ると、神楽坂に足が向かうことが多い。結婚してから最初の10年間をこのすぐ近くで暮らし、我家の子供たちもそこで育ったから、今もなお私たちにとっては東京の中のふるさとのような街なのである。古さと新しさが奇妙な形で同居する独特の街の個性があって、いつ訪れても面白い。家内も私も大好きなエリアの一つだ。

 今日は季節外れの暑さの中を、家内は王子のニッチな博物館まで付き合ってくれた。そして、一緒に神楽坂まで出てきたからには、ここで一杯やらない訳にはいかない。坂に面したオープンテラスのある小さな居酒屋にいつものように席を取り、注文すべきものを注文した。そして、それは2分後には席に運ばれてきた。

 日曜日の午後3時半。外はまだカンカン照りが続いている。ともあれ、ずいぶんと早くやって来た夏の日に、二人で乾杯をしよう。

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