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30年に一度 [季節]


 日曜日の朝、我家では近くのスーパーへ一週間分の食糧の買い出しに行くことが習慣になっている。山歩きなどの予定が入っていない限り、私は家内に同行し、運転手兼ポーターを務めることにしている。若い頃は買い出しにはあまり興味がなかったのだが、スーパーの店頭を眺めることは、それはそれで世の中を知ることにもなるものだと、今は思うようになった。

 「今はお野菜が高くて、とってもじゃないけど買えないわ。」

 日曜朝市の野菜売り場を眺めながら、家内が溜息をついている。確かに、レタスや小松菜、ホウレン草などの葉物野菜は、8月以降ずいぶんと値上がりをした。一家四人、野菜が好きな我家としてはつらいところだが、今は暫くの我慢だ。食卓には、相対的に値上がりの度合いの少ない野菜が並ぶようになった。

 このところの野菜の値上がりの原因は、何といってもこの夏の天候不順である。東京では太陽が照りつける炎暑の日が何日もあり、お盆を過ぎても寝苦しい夜が続いたから、今年は普通の夏とそれほど大きな違いはなかったような印象があるが、気象庁のHPから「地域平均データ検索」を利用して、日本の各地域ではどんな夏だったかを調べてみると、この8月が「平年とそれほど変わらない夏」だったのは関東以北だけで、北陸・東海地方から西では軒並み「冷夏」、「多雨」そして「日照不足」の8月だったことがわかる。

 月別の平均気温を見てみると、九州を除いて、6月と7月はどの地域も平年より平均気温が高かったのに、8月は東日本と西日本でその傾向が大きく異なり、北陸・東海以西はみな気温の低い8月になった。特に九州北部と中国地方では平年を1℃以上下回っている。
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 次に特徴的なのが、西日本の多雨だ。8月の降水量は、北陸と九州北部で平年の2倍強、中国地方で276%、そして四国と近畿で4倍に近い数字になっている。これらの地域では6月・7月はむしろ平年よりも月間降水量は少なかったのだから、なおさら8月は特異だったことになる。
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 雨が多かったことは、8月の日照時間にも影響している。近畿地方では平年の53%、四国では同47%、九州北部では同43%、そして中国地方では同39%しか日照時間がなかった。冷夏、多雨、日照不足。これでは、葉物を中心に野菜の値段が上がるはずである。
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 とりわけ中国地方はこうした天候不順の象徴のようだった。8月の平均気温が平年比でマイナス1.3℃というのは、長雨でコメが不作になり、タイ米を緊急輸入することになった1993年以来のことだ。要するに直近20年間で一番の冷夏だったのだ。8月の降水量が平年比276%というのも同じく1993年以来のことになる(その年は平年比279%)。そして、中国地方の8月の日照時間が平年比僅か39%というのは、1980年以来の記録である。(この年は、5月18日に米・ワシントン州のセントへレンズ山が大噴火を起こし、その噴煙が北半球の空を広く覆った。それが原因かどうかは知らないが、この年は顕著な冷夏となった。)

 その中国地方で、今年8月には二つの大きな水害が発生した。8月17日(日)の早朝に発生した京都府福知山市の洪水と、8月20日(水)の未明に発生した広島市北部での土砂災害である。

 今年の梅雨明けは中国地方が7月20日、そして関東地方が21日と、ほぼ平年並みだった。しかし夏空は長続きせず、特に8月5日(水)頃からは停滞前線が日本列島にかかるようになった。そして、8月9日(土)・10日(日)は大風11号が西日本を縦断。9日に予定されていた「夏の甲子園」の開会式が11日に順延となったほどだった。

 この台風襲来の週末に福知山市ではかなりの雨が降り、8月に入ってからの累積降水量が平年の2倍を超える200ミリに達していた。そして、その一週間後の8月16日(土)から17日(日)にかけて、梅雨前線が居座る気圧配置の下で、福知山市は更に300ミリを超える大雨に見舞われ、ついに水害が発生することになる。
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 この時の経緯は、福知山市のHPにかなり詳しく説明されている。一時間ごとの降水量のデータ(気象庁)と合わせて眺めてみると、事態が一気に深刻になったのは16日の19時頃から17日の未明にかけてであることがわかる。とりわけ、日付が替わった頃からの雨の降り方は凄まじく、一時間に最大で50ミリを超える猛烈な雨が6時間も続いたことがはっきりと示されている。
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 降水量が1ミリというのは、1平方メートルの平らな地面に高さ1ミリの雨が降ることだから、水の量としてはちょうど1リットルである。従って一時間で50ミリの雨とは、1平方メートルの地面に一時間で50リットルの降水があったということだから、これは途方もない大雨だったという他はない。16・17の両日の福知山市の降水量は計335ミリに達し、8月1日からの累積降水量はその時点で平年の実に8.2倍となった。そもそも8月1ヶ月の降水量が平年では126ミリほどなのに、2日間で335ミリなのだから、ただただ驚くばかりだ。

 短時間にこれほどの雨が降れば、河川の氾濫や土砂崩れの発生は避けられない。福知山市では16日の深夜から翌朝にかけて広い範囲で水害が発生。いたる所が水に浸かった様子が繰り返しテレビの画面に映し出されていた。道路の被災が149路線で延べ210ヶ所、河川の被災が家屋への浸水が約2,500棟、農地の冠水680ha、事業所の浸水が1,000事業所というから、本当に大きな災害である。
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 一方、広島市安佐北区三入のアメダスのデータによると、台風11号が来る前の8月5日から6日にかけてこの地域に強い雨があり、8月に入ってからの累積降水量が150ミリに近づいていた。平年の8月1ヶ月の降水量に匹敵する雨が8月の最初の6日間で降ったことになる。一方、その直後の台風襲来の週末も、そして福知山で大規模な水害が発生した16・17日の週末も、三入には大雨はなかった。とはいうものの、ほぼ毎日幾何かの雨は降り、8月18日(月)が終わった時点での8月の累積降水量は約230ミリで、同じ時期の平年比では2.9倍になっていた。
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 そして8月19日(火)。この日は梅雨前線が少し北に押し上げられたが、本州の東から西へ張り出した高気圧の縁に沿って、中国地方には南西方向からの湿った空気が入りやすい気圧配置になっていた。
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 この日の広島は、未明から日没までの間は殆ど雨がなかった。夜になって少し降り始めたが、特に問題になる量ではない。それが、日付が替わって、20日(火)の午前2時頃から俄かに雨脚が強まり、午前3時台には80ミリ、4時台には101ミリという猛烈な雨が降った。安佐南区及び北区の山の斜面で大規模な土砂崩れが発生し、住宅を押し流したのが、ちょうどこの時間帯と符合するようだ。
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 死者72名、行方不明2名。家屋の損壊が130軒(内24軒は全壊)。家屋への浸水は292軒。土砂崩れが170箇所、道路の被災が290箇所。福知山のように激しい雨が6時間も続いた訳ではないが、8月の初めを中心に平年の3倍に近い雨が降り。山の斜面も地盤が緩んでいたのだろう。それが20日未明の激しい雨で遂に土砂崩れを起こしたと見るべきか。他方、都市の拡大と共に新たな住宅地が山の斜面に近づいて行った、そのことの是非も問われていくのだろう。
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 そして、そのように多くの死者が出たこともあって、メディアの報道はもっぱら広島の土砂災害にフォーカスが当たっているようだが、福知山の水害は降水量の面でも被害を受けた地域の広さの面でも、それ以上に甚大な災害であった。そのことも私たちはしっかりと認識する必要があるだろう。

 広島や福知山をはじめとして、西日本の各地に災害をもたらした今年8月の雨。気象庁の異常気象分析検討会は、9月3日の臨時会合で、この夏の西日本の記録的な大雨や日照不足について、「30年に一度の異常気象」であるとの結論を出した。太平洋高気圧の張り出しが弱かったことや、赤道付近の海面水温が平年より0.5~1℃高く、温かくて湿った空気が南から西日本に入り込みやすかったことなどを、その理由に挙げている。また、地球温暖化による水蒸気量の増加も原因の一つであるそうだ。

 本当に30年に一度なら、私があと30年も生きることはないだろうから、今夏ほどの異常気象をもう体験することはないのかもしれない。そう思って記事にまとめてみたのだが、「30年に一度」を今後ももし体験するようなことになったとしたら、地球の将来はいよいよ心配だ。


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