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緑の中で [季節]


 5月の3回目の日曜日。外が明るくなった頃はまだ雲が多かったが、昼に近づくにつれて青空が広がっていった。太陽の光は力強く、街中の緑がいよいよ濃くなった。気温はかなり高めなのだが、大気は湿度が少なく、日蔭に入れば吹く風が心地よい。初夏の実に爽やかな陽気である。

 日曜日がこんな天気なら、山仲間たちに声をかけて近郊の山歩きに出かけたいところだが、今週も色々なことに忙殺されて、その準備をする時間もなかった。今日も、持ち帰った仕事があるにはあるし、明日の月曜日は早朝から出張に出るので、日曜日の全てを山歩きだけに使ってしまうのはちょっと厳しい。そんな訳で、今日は久しぶりに自宅の近くの植物園を訪れてみることにした。前回ここに足を運んだのは、もしかするともう2年以上も前かもしれない。

 この植物園に入るのに、以前は入場券を向かいのタバコ屋さんで売っていたのだが、知らない間に植物園の入口に自動販売機が出来ていた。昨年の消費税の増税を機に入場料も70円値上げになったのだが、その代わりというべきか、渡してくれる園内マップなどが少し充実したようだ。小さな子供たちを連れた家族が何組も、私と同時に園内へと入っていく。確かに今日は最高のお出かけ日和だ。

 正面の坂を登っていくと、5月の明るい太陽に照らされたソテツの濃い緑に早くも圧倒される。アンリ・ルソー(1844~1910)の描く南国の世界が突然現れたような気分になるのだが、この季節にはこうした照葉樹も緑が本当に鮮やかだ。
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 坂を登り切ったあたりにはカエデやイヌザクラが緑陰を作っている。その年の新緑を太陽に透かして見た時の柔らかい緑の輝きが、私は大好きだ。それを眺めているだけで、このところの仕事の忙しさも忘れてしまうことが出来る。
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 その先には広々とした桜の園があって、花見の時期には都内の名所にもなるのだが、深い緑に覆われた今の時期が、実は一年の中で最も素晴らしいと私は思う。もう既に何組もの家族連れが木陰にシートを広げ、思い思いに緑を楽しんでいる。本当にいい季節になった。
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 五代将軍綱吉の時代に、薬草を育てるために設けられた幕府の御薬園としてスタートした歴史があるために、この植物園の一角には今も薬草園があって、かつては薬草として活用された様々な植物を見ることが出来る。この季節はそこでも新たな緑が賑やかだ。

 この薬草園で今回は、ヤブレガサという面白い名前の植物に出会った。
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 キク科の植物なのだそうだが、円の中心から細く裂けたような形の葉が放射状に広がっている。なるほど、破れた傘と言われればその通りなのだが、実はもっと早い時期の、芽が出たばかりの若い葉が「唐傘お化け」のように閉じた形をしていて、更に「破れ傘」のイメージに近いのだそうだ。標識を読むと、血液循環や打ち身の薬になるという。そうした効用があることを、昔の人はどうやってつきとめたのだろうか。

 薬草園の隣には分類標本園があって、地味ながらここも色々な植物に出会える場所だ。植物には全然詳しくない私などは、植物園に来るたびに何か一つか二つ新たな植物の名前を覚えることが出来れば、それでいいと思っている。その点で、今回覚えてもいいなと思ったのはバイカウツギという木だ。茎が中空のために空木(ウツギ)と呼ばれるこの木の中で、梅の花に似た形の大きな花を咲かせる種類のものがバイカウツギと呼ばれるのだそうだ。
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 この季節になると白い清楚な花をたくさん咲かせるウツギは、私が好きな花の一つだ。中央アルプスの秀峰・空木岳(うつぎだけ、2864m)は、この時期に山の上部に残る残雪がウツギの花を思わせるのでその名が付いたという。そんなウツギの中にも、今日出会ったバイカウツギのように大きな花を咲かせるものがあるとは驚きだが、これもまたとても素敵な花だ。花は大きくてもウツギ特有の清々しさはそのままで、かすかに芳香も漂ってくる。

 分類標本園だから、ウツギが属するユキノシタ科の植物が一列に並んでいる。バイカウツギの奥に植えられていたのは、花がスミレ色のトリアシショウマと、それとは対照的に真っ白な花を咲かせるアワモリショウマ。本州中部以北に分布するものと中部以南に分布するものが仲良く並んでいる。
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 久しぶりに薬草園や分類標本園をゆっくり見て歩いた私は、爽やかな風に新緑が揺れるスズカケやユリノキの林を抜ける。武蔵野の雑木林の雰囲気を残したこのエリアは、ちょっとした里山の中を歩いているような気分になれる。この二ヶ月、仕事が忙しくて山へ行っていないが、やはり緑の中はいいなあ。
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 雑木林の一番奥からツツジの咲く坂道を降りて日本庭園に出ると、ここも親子連れが何組も訪れていて何とものどかな風景である。この植物園の住人なのか、猫が東屋の日陰で昼寝を決め込んでいた。
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 桜が咲いた頃から、今年は仕事が妙に忙しくなり、気がつけば5月も後半だ。この間にずいぶんと出張も続き、5月の連休は殆どを工場で過ごしていた。そして、一昨日に開かれた会社の定時株主総会で役員の改選があり、私の責任範囲が広がることになった。

 会社へのご奉公があと何年続くのかはわからない。一年一年が勝負なのだが、だからといって目先の成果を挙げることに前のめりになるつもりもない。山の上からこの先の縦走路を眺める時のように、遠い先の目標を見据えて、今やらなければいけないことに一つ一つ取り組んで行こうと思う。考えてみれば、会社の経営というものは長い長い縦走のようなものかもしれない。
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 植物園の中を反時計回りにほぼ一周。背の高いメタセコイアの林が見えてくると、園内の散策も終わりに近い。この林に今年も鮮やかな緑が甦った。この緑の中で空を見上げるのが、私は好きだ。

 散策を終えて、午後の用事を済ませたら、夕方は我家のベランダで緑を眺めながら家族と一緒に一杯やろうか。今は一年で一番素晴らしい季節だから。
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 さあ、明日の朝からまた出張だ。

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