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桜のあとに - 三国山・生藤山 [山歩き]

 山登りとは、必ずしもピークを踏むことだけが目的ではない。

 「三月に三国山へ登った時、山道に続いていたあの桜並木を、もう一度見に行かない?」
一昨日、富士山を間近に望む杓子山に登った帰りに、旧友のT君がそんな提案をしてくれた。そこは、私も実は気に入っていた場所だった。

 東京・神奈川・山梨の三都県が境を接する三国山(960m)。今年の3月22日、山仲間たちと初めてここを訪れた時、このコースには桜の木が多いことを知った。開花はまだ先であったが、桜の木々の向こうに丹沢や富士山が姿を見せていて、花の季節にここを訪れたらどんなにいいだろうと思ったものだ。だから私はT君の提案に二つ返事で乗り、半日で終わる欲張らないコースを選んで出かけることにした。杓子山から中一日。幸いにして「みどりの日」の今日も、晴天が続くようだ。

 JR中央本線の藤野駅を08:11に出るバスに乗り、前回と同様に鎌沢入口というバス停で降りる。ここから鎌沢集落を抜けるまで、急勾配の舗装道を30分ほど歩くのだが、これが前回も結構つらかった。集落の中は始まりだした新緑に包まれていて、山の急斜面に造られた茶畑が濃い緑に輝いている。今日はだいぶ気温が上がるようだが、坂道を登っていると早くも汗が出てきた。
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 舗装道が終わる所に設けられた休憩所で一息入れてから山道に入る。ここから先は急な坂はなく、むしろ緩やかな歩きやすい道である。森の中は日蔭で涼しく、なかなか快適だ。その緩やかな道を15分も歩くと、早くも桜並木が始まる。ソメイヨシノはさすがに終わっていたが、八重桜は満開の花が続いていて実に鮮やかである。今日は晴天ではあるものの遠くは霞んでいて、丹沢の山々の姿も墨絵のような感じだが、これもまた春景色の一つなのだろう。
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 山道を進むと、前回来た時にはなかった藤野町山岳協会の看板が立てられていた。この地区は桜の名所であったのが、桜の幹の一部が膨れ、そこから多数の小枝が出る「テングス病」のために、今は花の咲かない木が増えてしまったという。地元ではこの病気に強いヤマザクラを植えて、桜並木を取り戻そうと努めているのだそうだ。なるほど、桜の木々をよく見てみると、花が終わった木だけでなく、そもそも花のついていない木がある。中には、その病気がもう何年も続いたのだろうか、殆ど立ち枯れてしまったような桜もあった。残念なことだ。関係者の努力が実を結ぶことを切に祈りたい。

 なおも山道を登っていくと、甘草水という湧き水の出る所に出る。桜の木が最も多い所で、展望の良い日には富士山も眺められる。標高が900m近くではあるので、まだ花の残っている桜の木もあったが、いずれも他の木々と背の高さを競うようにしていて、上の方の梢に花を残している。だから、目線を上げて歩いていないと気づかないかもしれない。それでも、東京近郊の今年最後の桜を少しでも眺めることができたのは幸せである。

 甘草水から上はヒノキの森が続き、最後の一登りで三国山の山頂に出る。国土地理院の地形図では、ここの地名は「三国峠」である。この場合の「峠」とは、突起の意味を持つ「トッケ」という言葉に漢字を当てたものであるそうだ。武蔵・相模・甲斐の国境が接するピークという意味なのだろう。富士山の展望台として有名な三ツ峠山も同じ漢字の使い方だし、雲取山の北方にある芋ノ木ドッケや、同じ奥秩父にある天目山の別名・三ツドッケなども由来は同じである。今は植林されたヒノキやスギに覆われているので、突起と呼ぶほど顕著なピークではないが、三国山の山頂は西側の木が刈られて展望が良く、大菩薩嶺から南方向へと続く山々が彼方に並んでいた。今日は富士山の展望はないが、1月下旬から2月の上旬頃の、寒いがすっきりと晴れた日に登れば、南アルプスあたりまでの山々が眺められるのではないだろうか。
三国山から権現山・大菩薩方面.jpg

 山頂で大休止を取って昼食を済ませた私達は、稜線を東方向へと進む。生藤山(990m)、この日の最高峰・茅丸(1,019m)、連行峰と、樹林に覆われて展望のない地味なピークを越えると、山道はヒノキの植林の中をどんどんと降りていく。あたりの山肌のそこかしこに咲く山桜を眺めつつ、降りきったところが山の神と呼ばれる峠で、私達はそこから和田集落に向かって南へ降りていく山道へと入った。

 植林の中をジグザグに降りていく山道を進むと、南側の展望が開ける場所があった。手前の谷も向かいの山の尾根も若々しい緑のモザイクで、そのふんわりとした色合いの眺めは一枚の日本画を見ているようだ。その、向かいの尾根の彼方には、大山から大室山までの丹沢の山々が、太陽が南に回ったために淡いシルエットになっていた。
和田への下山路から丹沢方面.jpg

 とんとん拍子に山道を降りて、12時半過ぎには和田集落の県道に出た。青空に太陽は高く、さすがに暑い。今日は東京でも夏日になったのではないだろうか。下り坂の舗装道路を歩く途中で自動販売機を見つけ、缶ビールで喉を潤しながら、私達は和田バス停を目指す。

 昼食の大休止を含めて4時間ほどの軽い山歩きであったが、私達には大きな充足感があった。欲張らずに短いコースを歩きながら季節感をたっぷりと楽しむのも、たまにはいいものだ。桜の名残り、新緑の勢い、そして遠くに霞む山々。春の山歩きは楽しいものである。

 和田バス停の近くでは、沢井川の深い谷をまたぐようにして、たくさんの鯉のぼりが5月の空高く泳いでいた。
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T君

中1日(昨年は中2日)の山歩きでした
「XXと煙は」という記述が前回のブログにありましたが、漸くRK君も「XX」の仲間になってくれたと思える1日でしたね
「道草の好きなT君」は、今回は,塩漬け用の八重桜を4輪ゲットしてきました。
前回のタラの芽は、反省会の居酒屋で天ぷらにしてもらいました
その前は,九鬼山下山後に、都留市駅前のスーパーでゲットした菜の花をおひたしにしてもらいました。
 これからは、眺め、新緑、花だけでなく、食材探しも楽しいです。
by T君 (2010-05-07 22:26) 

RK

和田のバス停近くで買った100円のセリは、家に帰って「おひたし」にしたら家族には好評でした。旬のものを食べるというのは、いいですね。次回から、行程表には道草の時間も織り込んでおきましょう。(笑)
by RK (2010-05-08 08:56) 

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