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秋深し [自分史]

 東京の街中でも、紅葉が楽しめる季節になった。

 今、街で一番時めいているのは桜の木々だろう。春は花見の名所になっていた並木道を歩くと、赤や黄に染まった、或いはその両方の色が優しく交じり合った落葉が歩道を埋め、枝に残る葉も日々柿色を濃くしている。印象としては、昨年の秋よりも桜の紅葉が美しく、そして長持ちしているように見える。
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 気象庁の統計から毎日の平均気温を調べてみると、よくできたもので平年値(1971~2000年の平均値)は9月1日から一本調子で日々下がり続けている。それとの比較で言うと、今年は昨年よりも総じて寒暖の差が大きいような印象を受ける。何しろ9月の残暑が猛烈に厳しかったが、お彼岸以降は一度ドンと気温が下がり、10月は昨年と似たり寄ったりの展開を見せつつ、下旬以降に再び低温傾向になった。
 木々が紅葉する、そのポイントになるのは日差しと寒暖の差だと言われるが、今年はそのあたりの条件が良かったということだろうか。加えて、台風の接近も少なく、風の強い日があまりなかったように思う。
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 街の紅葉に誘われるように、週末はせっせと歩くことにして、土曜日の昼間は駒込の六義園に足を運んだ。将軍・綱吉の側用人だった柳沢吉保の下屋敷で、土を盛って小高い丘を作り、大きな池を張った回遊式の広大な庭園である。東京ドームの2倍の面積があり、造園には7年もかかったそうだが、1702(元禄15)年の完成後は綱吉も好んでよく訪れたという。300年を越える歴史があるために園内の森は深く、その佇まいは本当の山の中を歩いているかのようだ。
 ここの名物は春の枝垂桜と秋の楓で、次の週末からは夜間のライトアップが始まるのだが、その楓の紅葉はまだごく一部。その代わりに、ハゼノキが鮮やかな紅に染まっていた。
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 秋はまた、人と会うことの多くなる季節でもある。落葉が風に舞い、つるべ落としに日が暮れると人恋しくなる、という訳でもないが、このところは週末も含めて夜の予定が結構続いている。土曜日の夜は、中学時代の5クラス合同の同窓会が予定されていた。

 何といっても卒業から38年である。同じクラスの仲間はともかく、他のクラスの人たちになると、当時の面影が残っていてすぐにわかる人、たぶん彼じゃないかなと思う人、顔も名前も皆目見当がつかない人と様々である。(特に女性はよくわからない。) それでも、声をかけてみると私のことを覚えていてくれたりして、やはり再会はいいものだと思う。

 当時我々が薫陶を受けた先生方の中からは、三名の先生にお越しいただいた。それぞれに大変お元気そうで、一番年上の先生は卒寿をとうに過ぎておられるというのに、足腰もご発言も実にしっかりしておられ、私たちは安心したというよりは驚いたというのが正直なところだ。お年を召した先生方からかえって元気をいただいたという感じで、私たちはいつまでたっても教わることばかりである。
 だが、私たちのクラスの担任の先生は今年の夏に亡くなられてしまった。会場の賑わいの中で、そうか、M先生にはもう会えないんだ、という思いが粟粒のように浮かんできて、ビールが少し苦く感じた。

 50代の半ばにさしかかった私たちは、人生も既に後半戦である。色々な意味で、道の向こうに今までの延長線がいつまでも続いている訳ではない。悩みは尽きないが、それを率直にぶつけ合えるのも、昔とちっとも変わらないその笑顔から元気を貰えるのも、やはり旧友たちなのである。あのリベラルな校風を共有した友が今も大勢いてくれるのは、本当にありがたいことだ。
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 全員で校歌を歌う。当時の音楽の先生にもお越しいただいているので、その朗々とした歌声に導かれるようにして、私たちも声を張り上げる。1902(明治35)年の作詞・作曲になる校歌。「鉄道唱歌」のような七五調と、童謡の「花咲爺さん」にどこか似たレトロなメロディーは、この歳になっても忘れることはない。東京・湯島の昌平黌の跡地に建てられたという学校の沿革や、『史記』、『荘子』の一節が出てくる復古調の歌詞に今改めて触れてみると、明治の日本語は何とも骨太なものである。
 四番まで歌いながら、皆が思い出したものは何だろうか。教室のざわめき。放課後のクラブ活動。グランドの土の匂い。眩しくも懐かしい日々にそれぞれの思いを馳せながら、校歌を歌い終えたところで皆の心は一つになった。そして旧友たちとの語らいは、その後も夜遅くまで続いた。

 三次会まで行ったのも実に久しぶりのことである。飲み過ぎで日曜日の午前中はいささか頭が重い。こういう時は体を動かして酒を抜くしかない。昼前から、家内とまたせっせと歩くことにした。
 紅葉が進んだのは桜の木だけかと思っていたら、神宮外苑のイチョウ並木にもそれなりに晩秋の色が始まっていた。緑が少しずつ黄色へと移っていく、木々の色合いの微妙な違いが立体感を見せていてなかなかいい。それから外苑西通りを歩き、千駄ヶ谷から新宿御苑の外側を回るようにして、新宿三丁目まで家内と秋の散歩を楽しんだ。
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 今週もまた、色々な人と再会する予定が入っている。秋という季節は、そのためにあるのかもしれない。

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