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春の「呟き」 - 西丹沢・檜洞丸 [山歩き]

 私はツイッターなるものを使ったことがない。当節はやりの“ゆるい”コミュニケーション手段だそうである。だが、「呟き」のようなメッセージを特定の人に送るのであれば、既存のEメールでもできる。
 「土曜日は天気が良さそうですね。」
金曜の朝、山仲間のH氏に送った私の「呟き」を、H氏は「誘い」と受け止めてくれた。

 そうなると話は早い。「呟き」と殆ど変わらない程度のメッセージが往復するだけで、計画は決まる。昨年10月末に、やはりH氏と一緒に登った西丹沢の檜洞丸(ひのきぼらまる、1601m)を再び訪れることになった。標高差1,060mという、なかなか手応えのあるコースで、晴れれば富士の眺めが素晴らしい。そして、それぞれにいぶし銀のような個性を秘めた山々が連なる西丹沢の雰囲気が何ともいい。前回の初挑戦で、H氏も私もこの山にすっかり魅せられてしまっていたのである。
http://alocaltrain.blog.so-net.ne.jp/2010-10-24

 ただし、東京からは遠いので、行くとなれば相当な早起きを強いられる。私も自宅の最寄り駅を5時13分に出る始発の地下鉄に乗って、新宿で小田急に乗り換え、新松田駅に7時04分に到着。相前後して到着したH氏と共に乗車した7時20分発のバスに揺られること更に1時間15分。檜洞丸の登山口となる終点の西丹沢自然教室に到着するまでに要した時間は、自宅から3時間半を超えている。
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 登山届を提出し、8時45分に出発。前回一度歩いているから、コースに凡その見当がつくのは気が楽だ。舗装道路を5分ほど歩くと右手に登山口がある。薄暗い沢の中に入り、つづら折れの道を登るとしばらくは左斜面をトラバース状に緩やかに登っていく道で、小さな尾根を乗っ越すと、今度は大きな沢の左斜面をやはりトラバース状にゆっくりと登り続ける。このあたりは見事なブナの森だ。2月末だから木々はまだ芽吹きの前だが、そんな今でさえ気分がいいのだから、新緑の季節にここを歩いたらどんなにいいことだろう。
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 やがて、ゴーラ沢出合という、石伝いに沢を渡る河原に到着。登山口からここまでの凡そ40分は、急な登りもなく、ウォーミングアップにはちょうどいい。昨夜から吹き荒れていた強風も、今朝私たちが電車に乗っている間におさまり、穏やかで青空がきれいな日になった。身構えていたほどの冷え込みもなく、むしろ少し汗が出るぐらいだ。ここから先しばらくは急登が続くので、衣服を調節して再び出発。階段を上り、鎖場を越えて、ぐんぐんと高度を稼ぐ山道を進む。

 急登が終わると、山道は一度台地状の平坦な箇所を進み、再び始まった急登を我慢すると、展望園地と呼ばれる、ベンチが用意された休憩場所に到着。10時10分。木々の間から西方を眺めると、権現山の左奥に富士山がすっきりと全容を見せている。今日は風が止んで気温が上がったためか、2月の寒空に屹立する富士というよりは、ごくわずかだが春霞のかかったような、どこか優しい富士だ。
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 汗を拭き、水を補給して出発。ここから先も急登が続く。前回初めて来た時は、ここも難なく登っていったような記憶があったが、今日は少々手応えを感じる。先週の日曜日も山へ行っているから、自分の体は今朝一番から山にアジャストしていたように自覚していたのだが、このあたりからは登りのきつさが身にしみるようになる。やはり檜洞丸は侮れない山だ。(加えて、山もいよいよ花粉の飛散が始まり、H氏には気の毒な季節になった。)
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 標高が上がったので、山道も日蔭の箇所では融け残った雪が凍結している。持ってきた滑り止めを靴底に取り付けて先を進む。振り返るたびに、木々の間から見える富士が大きくなる。11時ちょうどに、最後のベンチのある箇所に到着。雪を抱いた南アルプスの主脈や八ヶ岳南部が、青空の彼方に見えている。北側の加入道山もだいぶ目の高さに近くなってきた。
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 ここから先は植生保護の観点からか、木の階段が続くところだ。そして、それを登っていくにつれて遠くの展望が開けていく。前回も思わず立ち止まってしまった、富士が大きく見える所では、同じアングルながら今回もどうしてもカメラを向けてしまう。それぐらい、檜洞丸からの富士は素晴らしい。
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 やがて南側の石棚山からの尾根と合流すると、山頂は近い。道は平坦になり、階段に代わって尾瀬沼のような木道が延々と続く。このあたりから、木々の間に東側の、塔ノ岳から丹沢山を経て蛭ヶ岳までの丹沢主脈が見え隠れしている。山小屋用のソーラーパネルを通り越して最後に一登りすると、檜洞丸の広い山頂である。11時30分。雪が残る樹林の中の山頂だが、場所を選べば富士も南アルプスも良く見える。昨日の「呟き」をきっかけに、やはり今日はここまで来てよかった。さぁ、食事にしよう。
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(南アルプス北部)

 一生懸命登ってきても、山頂にいるのはせいぜい30分ほどのことである。帰りのバスまでに時間の余裕を持たせるならば、12時過ぎには下山を始めた方がいいだろう。雪が凍結している所は、上りよりも下りこそ慎重に通過しなければならないから、時間に追われた下山は禁物だ。

 来た道を戻ることになるが、このコースは富士と向き合うような下山路が魅力的だ。先ほど歩いてきた木道や木の階段が続く間、回り燈篭のようにその位置を変えながらも、富士の眺めが私たちを魅了し続けてくれる。正午を過ぎて更に霞がかかったようにはなったが、何度見てもその姿は孤高というほかはない。
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 高度差の大きいコースは、上りを頑張る必要があることはともかく、下りにも案外体力を使うものだ。膝に余計な負担をかけないよう、一つ一つのステップをなるべく穏やかにした方がいい。段差の大きい所でもドスンと降りずに、腰を落としたり両手をうまく使ったりしながら降りる。そして時々振り返ると、檜洞丸から北西方向に続く大笄(おおこうげ)・小笄の稜線がなかなか立派だ。これ以上降りていくと見えなくなってしまうのが、ちょっぴり心残りである。
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 途中でつけた軽アイゼンを展望園地で外し、再び山道を下って13時50分にゴーラ沢出合に着く。山の上の方は冬のままだが、このあたりまで降りてくると、沢沿いの落葉樹の森はその枝の一つ一つが幾分赤みを増していて、いずれやってくる芽吹きの準備をし始めているようにも見える。そして、沢の流れは午後の日に輝き、そこでは春が何かを呟いているかのようだ。
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 ここからは西丹沢自然教室のバス停まで30分ほどだ。バス停の手前のキャンプ場で缶ビールを買う時間まで計算に入れ、14時40分発のバスに間に合うよう、私たちは早足で歩く。楽しみが待っていると思うと、人間は頑張れるものだ。いいペースで歩いて舗装道路に出て、念願の缶ビールを手に入れ、発車を待っていたバスの中で私たちは乾杯をした。いつものことながら、その美味さに、声も出ない。

 帰りのバスも新松田駅まで1時間を超える長旅である。しかし、長い谷を抜けて東名高速道路やJR御殿場線と並走するようになると、窓の外は紅白の梅の花や菜の花の鮮やかな黄色に彩られていく。ここまで来ると、春は「呟き」どころではないようだ。次の週末は「啓蟄」。春はまた一つ、声を大きくしていくのだろうか。

 今日もまた、いい山だった。私の「呟き」を受け止めてくれたH氏のおかげである。居酒屋のカウンターで手短にその良き一日を「総括」するために、私たちは小田原へと向かった。

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コメント 2

北京現人

ナイスな呟きでした。ありがとうございました。
おかげ様で一人では行きにくい冬の檜洞丸に行くことができました。
下から3枚目の写真の場所、本当に素晴らしい景色でしたね。
個人的に神奈川秀麗富嶽12景第1座に認定しようと思ってます。
他には鍋割山、塔ノ岳、陣馬山(東京でもありますが)、金時山あたりを候補にして
これから探してみようと思っています。
来週は日の出山ですかね。楽しみにしています。
遠い所、お疲れ様でした。
by 北京現人 (2011-02-27 23:00) 

RK

お付き合いありがとうございました。今回もまた、檜洞丸は素晴らしい山でした。

神奈川版の「秀麗富嶽12景」とはいいアイディアですね。

金時や明神ヶ岳、矢倉岳からの富士も大きくていいですが、「第1座」となると、大月市における雁ヶ腹摺山がそうであるように、近景・中景の山々の奥に姿を見せる端正な富士、という構図が必要となるでしょう。

やはり、蛭ヶ岳を経験してから決めることにしましょう。
by RK (2011-02-28 12:56) 

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