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8人より9人 (2) [スポーツ]

 プロ野球(NPB)のセ・パ交流戦は、2005年のシーズンから始まった。当初は各チーム36試合ずつが開催されたが、セ・リーグ゙でもプレーオフが行われるようになった2007年からは、日程の関係で24試合ずつとなった。それでも、両リーグのチームが総当りで均等に対戦する。基本的には地域内対決のカードしか組まれない米・大リーグ(MLB)のインターリーグとは異なり、かなり大真面目な交流戦と言える。

 シーズン開始から一ヶ月ほどで始まる交流戦。お互いにまだ差が大きく開いていないし、交流戦の成績がシーズンにもカウントされるから、試合はみな真剣勝負だ。負けが込んだからといって消化試合にはならないし、優勝チームにとっても、これは長いシーズンの一つの通過点でしかない。そういう緊張感は、見ていて気持ちがいいものだ。

 パ・リーグの優勢が続いていると言われるが、試合数が各チーム24試合になってからの5年間(2007~2011)の勝敗数の累計をチーム毎に見てみると、何となくチームのグルーピングが出来るように見える。
NPB Interleague 02.jpg

 第1群はパ・リーグの今年の上位2チームだ。攻守のバランスが取れ、中でも抜群の投手力を誇るこの両チームにとって、交流戦はだいたい毎年「貯金シリーズ」になってきた。

 第2群は交流戦の成績がトントンか若干の黒字になるチームだ。セの2チームはペナント争いの常連、パのバファローズは台風の目のような存在である。

 5チームがひしめきあう第3群は、交流戦はトントンか、若干の借金を作ってきたチームだ。勢いに乗ってもっと上位に立てることもあるのだが、戦力にどこか駒不足があって、優勢だった試合をひっくり返されたりすることが度々ある。

 そして最後の第4群はセ・リーグの下位2チームで、他チームとの戦力の差、特に投手力の差が大きく、交流戦が終わる頃にはペナント争いから大きく後退してしまうチームである。

 今年の交流戦における12球団の攻撃力、投手力と勝ち星との関係をまとめると、下図のようになる。
NPB Interleague 03.jpg

 24試合戦って防御率が上位の3チームが交流戦順位も上位3位なのは、やはり投手力がモノを言うことを示している。この3チームが交流戦優勝を最後まで争ったのも、この図を見れば明らかだ。そして、この3チームが勝ち星を重ねたことが、勝敗数で今年もパ・リーグが圧倒する結果につながった。

 また、こうしてみると、セ・リーグで唯一の勝越しチームとなったドラゴンズは、セ・リーグで最も攻守にバランスの取れたチームだと言えるだろう。一方、投手陣がよく踏ん張ったにもかかわらず交流戦を負け越したジャイアンツは、得点力不足が明白だ。「飛ばないボール」と呼ばれる統一球の導入で本塁打が激減したためか、10勝13敗1分は24試合制になって以来最低の成績である。対照的にスワローズは、この戦力での交流戦第6位は健闘と言えるだろう。

 いずれにしても、12球団の力をこのように一覧できるのが、交流戦の持つ大きなメリットだと言える。

 ポイントになる投手力だが、2011年交流戦の個人成績を見てみると、外国人投手を除くと、防御率のトップ10はセ・リーグが3人、パ・リーグが7人である。同様に、交流戦で3勝以上の勝ち星を挙げた先発投手は、やはりセ・リーグが3人、パ・リーグ゙が7人だ。このあたり、DH制で先発投手陣が鍛えられたことをパ・リーグ優位の理由に挙げる意見が多い。私もそれを否定するものではないが、DH制の存在に全ての理由を求めるのもいかがなものかと思わざるを得ない。

 意外に指摘されていないのは、近年セ・リーグから実績のある投手が相次いでMLBに流出したことだ。

 野茂、伊良部、長谷川など、日本人選手のMLB入りの先駆者達の存在や、その後のイチロー、井口、松坂などの活躍が注目されたことから、MLBに人材が流れたのはパ・リーグが多かったという印象を持たれがちだが、NPBの交流戦が始まった2005年以降MLBへ流れて行ったのは、パ・リーグが投手5人、野手4人だったのに対して、セ・リーグは投手11人、野手2人である。

 藪、斉藤(隆)、井川、岡島、桑田、黒田、上原、川上、高橋(健)、五十嵐(亮)、高橋(尚)。セ・リーグはこうした面々を失った一方で、今年の交流戦で3勝以上を挙げた先発は、館山(スワローズ、02年ドラフト3位)、内海(ジャイアンツ、03年自由枠)、吉見(ドラゴンズ、05年希望枠)の3人だけだ。

 これに対して同じ時期にパ・リーグからは松阪、小林(雅)、福森、薮田、建山が出たが(その後小林、福森、薮田は日本球界に復帰)、ダルビッシュ(ファイターズ、04年ドラフト1位)、田中(イーグルス、06年ドラフト1位)、摂津(ホークス、08年ドラフト5位)、杉内(ホークス、01年ドラフト3位)、涌井(ライオンズ、04年ドラフト1位)、和田(ホークス、02年自由枠)が今年の交流戦で3勝以上を飾っている。(4勝を挙げた寺原(バファローズ)はベイスターズからの移籍組だが、プロ入りはホークスの01年ドラフト1位だ。)

 これに交流戦での防御率ベスト10入りを加えると、セ・リーグは川井(ドラゴンズ、04年ドラフト4位)、岩田(タイガース、05年希望枠)の2名に対して、パ・リーグは中山(バファローズ、05年ドラフト5位)、武田勝(ファイターズ、05年ドラフト4位)、唐川(マリーンズ、07年ドラフト1位)の3名が上位で挙がる。

 以上から、印象論でしかないが、セ・リーグは実績のある投手が近年MLBへ流れる中で、補強した新たな人材の戦力化がもう一つであるのに対して、パ・リーグはセほど投手が抜けず、しかも近年の新戦力が着実にチームの柱になっているようだ。このあたり、「パ・リーグはこのところ、ドラフト会議でのクジ運が良かった」という説明では済まされないように思う。

 一方の打撃成績は両リーグでもっと差が出ている。同様に外国人選手を除くと、交流戦の打率トップ10はパ:8名、セ:2名で、上位4名が全てパの選手だ。打点(トップ9)はパ:7名、セ:2名で、上位6名が全てパの選手。同じく塁打数(トップ9)でもパ:7名、セ:2名で、上位5名がパの選手である。(但し今年に限っては、FAとしてセからパへやってきた内川(ホークス)の存在が大きい。) 更に、本塁打数の合計はパ:86本に対してセ:67本。チーム打率を単純平均すると、パ:.267に対してセ:.230だ。

 今年から統一球として導入された「飛ばないボール」の影響がどこまで出ているのかは何とも言えないが、相対的に狭い球場が多いとされるセ・リーグが打撃で圧倒されていることは確かである。既に見た12球団の成績の比較でも、狭い球場を本拠地としたセ・リーグのチームが劣勢で、セ・リーグでは最も広い球場を本拠地としたドラゴンズが最も上位の成績を挙げているのは、何かを暗示しているのだろう。
interleague champ !.jpg

 以上、NPBの交流戦を見てきたが、「打者は8人より9人」というDH制を採用してきたことがパ・リーグ優位の原因か?という問題意識に対しては、
 「そういう面は否定できないが、原因はそれだけではなかろう。総じて言えば、広い球場をバックにしてDH制というパワフルな野球に取り組んできたパ・リーグの各チームが、近年は新戦力を着実に育ててチーム力を強化してきた。」
というのが、ひとまずの答えになるだろうか。
(to be continued)


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