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二つの山へ - 百蔵山・扇山 [山歩き]

 日曜日の朝、高尾駅を8時01分に出る甲府行きの電車は、驚くほど混みあっていた。

 無理もない。この秋は10月の後半から四週続けて、土日に限って天気が崩れるパターンの繰り返しだったのだ。今日は久々に朝から快晴の日曜日。乗客の大半は山を目指す人々である。走り出した電車が小仏トンネルを抜けると、両側の車窓に連なる山々では低山なりの黄葉が始まっていて、中央本線沿線の秋らしい眺めになってきた。それにしても、今日は青空がきれいだ。

 8時42分、電車は猿橋駅に到着。駅前ロータリーに立つと、北西方向に大菩薩の山々が嬉しそうに朝日を浴びている。やって来たタクシーで、私たちは百蔵山(ももくらさん、1003m)登山口の、「山の神」と呼ばれる所まで上がる。

 「今日は山へ行く人が大勢いますね。」と初老の運転手さんが笑う。いつもは大月駅前につけているタクシーだそうで、今朝はもう大峠へ乗客を運んできたという。 そこは言うまでもなく雁ヶ腹摺山の登山口だ。快晴の今朝は、昔の五百円札のデザインにも採り上げられた富士山のあの眺めが、山頂で待っていることだろう。

 片道7,200円の大峠とは違って、「山の神」には10分足らずで着く。山頂からの富士山の眺めに優れた山々を大月市がランキングした「秀麗富嶽十二景」の内、雁ヶ腹摺山が第一番ならば、私たちがこれから目指す百蔵山は第七番、そして扇山(1138m)は 第六番である。一昨日の金曜日は12月並みの寒さになって、冷たい雨が一日降った。今朝は新雪の富士がその姿を見せてくれるだろうか。
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 「山ノ神」を9時10分に出発。ヒノキの植林の中をつづら折れに上がって行く。急斜面もなく、よく整備された山道だ。歩き始めて20分ほどで植林を抜け、そこから先は落葉樹が主体の明るい森になる、その境目のあたりで木の間越しに富士山が初めて姿を見せた。これは、山頂からの眺めもおおいに期待できそうである。
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 それにしても、今日は季節外れの暖かさだ。日当たりの良い所ではどっと汗が出るので、半袖姿になったメンバーもあった。今年は10月からこんな日が多かったので、山の黄葉も今ひとつだが、それでも登り続けて高度を稼いでいくと、時に鮮やかな紅に染まったカエデの樹に出会ったりする。やがて山道は百蔵山の山頂から西方向に走る尾根の上に出て、登山口からちょうど1時間ほどでその山頂に着いた。

 頂上付近が東西に細長くて平らな百蔵山の山頂は、日当たりが良くてついのんびりしたくなる所だ。南方向には、丹沢から道志、御坂の山々が連なり、その背後に富士山がドンと聳えている。それは期待通り、私にとってはこの秋初めての新雪の富士だ。風もなくて眺めの良いこの山頂で、私たちは10分ほどの休憩を楽しんだ。
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 このコース、私にとっては三度目である。好きな山域なのだが、来てみていつも思うのは、百蔵・扇コースというのは、確かに尾根続きではあるものの、縦走路というよりは、独立した二つの山を登るようなコースだということである。それぐらい、せっかく登った百蔵山を、そこから先は北方向へどんどん降りてしまう。日当たりの悪い北斜面は、一昨日の雨で落葉がまだ濡れているので滑りやすい。用心しながら下ると、右手にはこれから登る扇山の頂上付近が木々の向こうに姿を見せていた。
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 ここから先は、植林の中の平坦な山道が北から東へとゆっくりと向きを変えていく。百蔵・扇コースの中で最も地味な部分だ。最初は植林の間から大菩薩の山々が見え隠れするのだが、全体がすっきりと見える所は一つもない。せっかくいい位置にいるのだから、どこか一箇所ぐらい、北西方向に展望が開けて大菩薩の山々を眺められる場所があったらいいのにと思うのは、欲が深すぎるだろうか。

 樹林の中でいつしか山道が東を向くようになると、左手には権現山(1312m)の平たい尾根が樹間に横たわるようになる。山道は少しずつ高度を上げ、やがて扇山への本格的な登りが始まる。このコースで一番の頑張り所だ。それでも、落葉の敷き詰められた急斜面を一歩一歩登っていけば、その分だけ秋が深まった山の中の様子を楽しむことができる。鮮やかなカエデの紅葉や、庭木で見かけるものよりもずっと立派なムラサキシキブ。地味ながらも、山の中にいることの楽しさを教えてくれる、それが扇山なのだ。
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 途中に5分ほどの休憩を挟み、百蔵山から2時間弱で扇山の西の肩にあたる大久保山(1109m)に到着。そこから緩やかな道を進めば15分ほどで扇山の頂上だ。東西に広いその山頂では、鳥沢駅からのコースを上がってきたと思われる登山者のグループが幾つもあって、それぞれに昼食の輪を囲んでいる。今日は全くといっていいほど風がなく、気温が上がって雲が湧いたために、お目当ての富士は隠れてしまったが、周囲の景色はいかにも秋深しといったところだ。私たちは、その富士の方角に向いた枯れ草の斜面に腰を下ろし、秋の陽をいっぱいに浴びながら昼食を楽しむことにした。
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(富士山のスカイラインが右遠方に見える)

 扇山は、それ一つを登るだけだったら、片道二時間もかかるかどうか。百蔵山はもっと短いぐらいだ。だから私たちはその両方を結ぶコースをつい選んでしまうのだが、この二つの山はそれぞれに、山頂からの眺めをのんびりと楽しむにはいい所だ。特に今日のように風のない快晴の日は、のんびり滞在型の登山には最適だろう。歳をとって、あっちもこっちもとあくせくしないライフスタイルになったら、百蔵山だけ、扇山だけというのんびり登山も、いいのかもしれない。

 山頂で30分ほどゆっくりした後、私たちは山道を東へ、君恋温泉に向かって下山を開始。日当たりが良いと見えて色鮮やかに黄葉した木々を眺めながら、山道を降りる。扇山の稜線上は比較的穏やかな道だが、それを右にそれて植林の中を下り始めると、案外どんどんと降りていく。時刻はまだ13時半を回ったところだが、午後の陽は早くもどこか赤みを帯びていて、黄葉の森は一段と秋の色を見せている。
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 山頂からちょうど1時間ほどで大滝不動に着き、そこから滝の前を横切り、ひと登りすれば、その先が君恋温泉だ。学生時代に泊まった民宿を思い出すような小さな温泉だが、幸いにして混雑する前の時間帯だったので、私たちはすぐに入浴を楽しむことができた。4人も入れば一杯になる小さな浴槽ながら、山から降りてきた後の温泉は、やはりありがたいものである。
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(大滝をわたる)

 二つの山を結んで、歩行時間は4時間ちょっとである。同行してくれた5人の仲間に、今日も感謝。百蔵・扇は地味ながらいいコースだ。歳をとってからも、毎年通うことになりそうな山である。もっとも、それが実現できるよう足腰は常日頃から鍛えておくことにしたいものだ。

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