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葡萄畑の中で [ワイン]

 葡萄畑の中にピクニック・シートを敷き、空の下でのんびりとワインを楽しむ。それは、シンプルにして贅沢な時の過ごし方である。もしそれが、よく晴れて風の穏やかな一日であれば、これ以上言うことはない。

 栃木県足利市の郊外。こころみ学園のワイン醸造場、ココ・ファーム・ワイナリーで、毎年11月の第三土・日に開催される「収穫祭」。家内と二人でこのイベントに参加するのも、今年で4回目だ。去年の参加時もこのブログにアップしたことがある。
http://alocaltrain.blog.so-net.ne.jp/2010-11-22

 3日ほど前までは土日ともに雨の予報が出ていて、今年は無理かなと半ば諦めかけていたのが、実際には天気の進展がそれよりも幾分早くなり、前線を伴った気圧の谷が、まとまった量の雨を伴って日曜の明け方までに東日本の太平洋側へと抜けた。今朝、北千住を7時過ぎに出る東武伊勢崎線の特急「りょうもう」号で関東平野を北上する間は、雨上がりの直後の曇り空が続いていたが、足利に着いてみれば青空が出ていて、これは一日好天になりそうだ。
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 収穫祭の当日は、ココ・ファームがシャトル・バスを何台も用意して、朝9時から東武伊勢崎線の足利市駅、及びJR両毛線の足利駅とワイナリーの間をピストン輸送してくれるのだが、来場者が多いうえに、ワイナリー周辺は道が狭いので、道路の渋滞がかなりひどくなる。私たちの過去の経験でも、そのためにワイナリーに到着するのが案外遅くなったので、今回は朝一番の「りょうもう」号で足利市駅に8時18分に到着し、タクシーでワイナリーへ直行することにした。

 バスに比べて費用は少し嵩むが、会場が混雑する前に畑の中に場所を確保できた方が好都合だ。今年で28回目になるというこの収穫祭。葡萄畑の中で自由なピクニック気分を楽しめるイベントとあって、何しろ年々人気が集まる一方なのである。
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 まだ畑の斜面に朝靄が漂っている9時過ぎに場所を確保してシートを敷き、私たちはこの園内だけで味わうことのできる新酒を買いに行く。多数の屋台が出て、ワインに合った暖かい食べ物もチョイスは豊富だ。焼きたてのフランスパンや骨付きソーセージなどは、いつも長い列ができている。急斜面の畑は昨夜までの雨で濡れているので、足元に気をつけながら、私たちが確保した場所に戻る。

 気がつけば朝靄はいつの間にか消えていて、シートに寝転がればきれいな青空が広がっている。昨日の気圧の谷が呼び込んだ南の暖気がまだ残っているので、今日は23度まで気温が上がるという。家内も私も、屋外にいるのに朝からシャツ一枚で十分だ。やったね!早速、今年の新酒で乾杯といこう。
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 3月11日の東日本大震災に伴う原発事故。文部科学省の航空機による都道府県別の放射線モニタリング結果がホームページにても公表されているが、足利地域は幸いにして放射線量に特段の心配はないようだ。一方、この夏は猛暑になり、豪雨もあった。9月には大型の台風が二回もやってきた。だが、この農園で働く人々の努力によって葡萄は順調に実り、例年より早い8月16日から収穫が始まって、11月11日には全ての収穫が終わったそうである。

 その新酒をいただく。その若さとフレッシュな甘みと軽やかなガスが心地よい。特に今日のような青空の下で楽しむのは最高だ。世界にあまたある酒の中でも、太陽のまぶしい屋外で、しかも畑の土や木々の香りの中で味わうのに、ワインほど適したものもないだろう。まだ朝の9時台なのだが、葡萄畑の中はもうあちこちで盛り上がっている。
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(写真を撮る前に新酒を飲んでしまったので、代わりに赤ワインで「記念撮影」)

 知的なハンディーを持つ人たちの自立を目指し、公的な補助金を何も受けずに「こころみ学園」が設立されたのが1969年。それ以前から特殊学級の生徒たちが山を開墾して、現在の葡萄畑が作られた。そして、その葡萄からワインを作ろうと、1980年にココ・ファーム・ワイナリーを設立。米カリフォルニアから醸造のプロを呼ぶ。当初は数ヶ月の技術指導との前提で来日した彼は、「知的障害を持った人たちといえども、本物のワインを作らねばならない」という学園の信念と園生たちの純粋さに共感を覚え、足利の地に住み続けることになる。

 ココ・ファームのワインの品質は次第に高い評価を受け、遂にはあのソムリエの田崎真也氏によって、「NOVO(のぼ)」というシャンパンが2000年7月の九州・沖縄サミットの最後の晩餐会の席上に出されることに・・・。

 そんなエピソードを何かの本を通じて知ることになって以来、我家はココ・ファームの収穫祭に毎年通うようになった。どんなハンディーキャップを抱えていようとも自立して、世界に認められる優れた品質の物を作り上げ、社会に供給していくことに生き甲斐を持つ、そういう「ものづくり日本」の心意気を、やはり応援したいのである。おまけに、家内も私もワインは大好きだから、私たちが参加費を払って収穫祭を楽しませてもらうことが何かの一助になるのなら、こんなにいいことはない。

 10時半からは様々な音楽演奏のプログラムも始まり、気がつけば葡萄畑は大変な人出になっている。家族連れもあれば、若い人同士、中には職場で声を掛け合ったのか、ずいぶんと大人数のグループでやって来ている人たちもいる。ワインそのものは外来の文化であるとしても、秋の実りを祝って葡萄畑の中で半日をカジュアルに楽しく過ごす、そんなイベントがこの国なりのスタイルでこれからも根付いていって欲しいと思う。難しい薀蓄は抜きにして、ワインとは心底楽しい飲み物なのだ。
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(坂田明のサックス演奏が始まった)

 折しも国内では、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加の是非(というよりも、参加に向けた協議開始の是非)を巡る議論が遅まきながら始まっている。確かに、うわべは「経済連携」でも、実際には国益のぶつかり合いなのだろうから、お人よしではいられないのだろうが、それにしても「TPP参加断固反対」を唱える人たち、とりわけ農業関係者から、それでは日本の農業をどう強化していくべきか、自分たちはどうやって足腰を鍛えて行こうと考えているのか、そうしたビジョンが何も示されないのは不思議なことだ。

 数々のハンディーを乗り越えて足利の地に葡萄を育て、それを原料としたココ・ファームのワインがこれほど多くの人々に支持されている、そのことは常に、私たちに何かを教えてくれている。自立してやっていくために何をすべきかを考え、不断の努力を続ける。ワイン作りに限らず、事業とはそうしたことの積み重ねなのだ。

 午後になっても、葡萄畑は大変な賑わいが続いている。気温はいよいよ上がって、シャツ一枚でも汗ばむほどだ。日焼けなのかアルコールのせいなのか、幾分顔を赤くしながら、家内と私はグラス売りのシャンパンや赤ワインをもう少しだけ楽しむことにした。やはり、今年もやってきて良かった。そして来年の収穫祭もまた、今回のように成功して欲しいものである。
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 背中のザックには、先ほど買い求めた「農民ロッソ 2010」というカジュアルな赤ワインのボトルが2本入っている。来月のはじめに学生時代の友人たちとの集まりがあるので、そこで皆に紹介してみるつもりだ。日本のワインの素晴らしさを是非楽しんでもらえたらと思う。

 鉄道の駅に向かう間、ますます青い空の下で、街路樹のイチョウが鮮やかな黄葉を見せていた。

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コメント 2

寺田

とても贅沢な楽しみですね~。
天気も味方に晴れ男、うらやましいです。寺田
by 寺田 (2011-11-23 00:37) 

RK

これはこれは、わざわざコメントをありがとうございます。
山もいいですが、葡萄畑の斜面を登るのも、たまにはいいものですね。
by RK (2011-11-23 16:40) 

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