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冬が来た - 経ヶ岳・仏果山 [山歩き]


 小田急線の本厚木駅から約40分。半僧坊前という名のバス停で降りると、朝の空気が刺すように冷たい。

 畑の野菜も道端の草も、霜に覆われて真っ白だ。朝の8時半になるところだが、明け方の冷え込みがまだそのまま残っている。頭の上は雲ひとつない快晴。硬質ガラスのようにかっちりとした空の青は、もう冬のものである。
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 12月の第二土曜日ともなると、日帰りの山歩きにもそろそろ本当の冬支度が必要になる。山の標高にも考慮が必要で、いわゆる低山歩きに切り替えていく時期だ。そう思って、今日の私たち5人は、丹沢の前衛とも言うべき経ヶ岳(633m)と仏果山(747m)をつなぐコースを目指している。夏はヒルの多い山域だそうだから、行くならば寒い季節ということになる。
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 バスが走ってきた国道を少し戻り、その国道が大きく左にカーブを切る手前で右に反れて林道に入ると、それが経ヶ岳への登山道につながっている。小さな沢に設けられた立派な堰堤がある所でその林道は終わり、そこから始まる登山道は陽の当たらない植林の中の道だ。
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 歩き始めてから30分ほどで、東側の見晴らしの良い一角があった。ベンチが設けられていて、東京都心の超高層ビルやスカイツリーが見えている。今日は一日、絶好の登山日和になりそうだ。
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 バスを降りて以来の寒さは続いているのだが、人間の体とは不思議なもので、山道を登り始めて10分もすると体が中から温かくなって、幾分汗もかき始める。間もなく植林に雑木が混じり始め、山道にもそれなりに陽が当たるようになると、それまで着込んでいた防寒衣はもういらず、歩いている間は山シャツ一枚ぐらいがちょうどいい。やがて、山道は林道を横切り、そこからしばらく続く急登をガマンしていくと、歩き始めからちょうど一時間ほどで、経ヶ岳から北方向に伸びた尾根の上に出た。

 南岸低気圧の影響で、昨日は南関東で雨が降り、寒気が来ていたために朝方は東京でも雨が雪になった地域があった。その雪が、このあたりでは余程しっかり降ったようで、尾根に出てからは雪を踏んで歩くようになる。高度を上げていくと積雪も多くなり、もうしっかり冬山にやってきたような気分だ。樹林の中の小さなピークを一つ越え、もう一登りすると、西側の視界が開けた日当たりのよいピークにたどり着く。それが経ヶ岳だ。バス停からは1時間20分ほどである。
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(経ヶ岳のピークに到着)

 経ヶ岳の山頂には数人の登山者が立っていた。皆、ここからの丹沢の眺めに見とれている。ここからは特に大山(1252m)の姿がいい。大山というと、ケーブルカーで途中まで上がれるという安易なイメージがあるが、経ヶ岳から眺めるとなかなか立派な山容を見せている。古来、信仰を集めた山だったというのもわかる気がする。
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 丹沢の展望台のような、気分のいい山頂。しかも、今日は快晴・無風。ゆっくりしていきたいところだが、今日はまだ先がある。短い休憩にとどめ、私たちは靴底に滑り止めをつけて山道を進むことにする。

 経ヶ岳から先は引続き尾根筋の山道なのだが、舗装道路を横切る半原越という最低鞍部まで標高差150mほどを下ることになる。木々の間からずいぶん下の方に舗装道路が見えるから、こんなに下ってしまうのかと溜息が出るところだ。しかし、ロープを張った急な下りがあったり、左手に丹沢の眺めを楽しめる箇所があったり、振り返れば遠く相模湾がまぶしく輝いていたりと、変化に富んだ面白いコースである。
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 経ヶ岳から20分で半原越を通過。再び山道に入ると一度急登があり、山道の分岐が二箇所。その先にもう一度急登が待っていた。これがなかなかきつい。斜面を直登するような道で、丸太で階段が作られているのだが、その段差が大きくて、それに合わせて登ると結構しんどいのだ。今日は4人の山仲間と一緒に来ているからいいが、自分一人だけで来たら、この急登でメゲてしまっていたかもしれない。

 力をふりしぼって何とか登りつめると、「革篭石山(かわごいやま)、標高640m」という標識があった。だが、前方にはもう一つ小高いピークが見えている。しかし展望塔の姿が見えないから、それはまだ仏果山ではない。そのピークを目指して進むと、次第に尾根が痩せた地形になり、修験道の山らしい姿になってきた。積雪がまた少し深くなり、あたりはもう立派な冬山の姿である。それも、今日は上質のパウダー・スノーだ。
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(山道は冬の装い)

 左手の雑木の背が低くなる分だけ展望がきくようになり、谷の下に宮ヶ瀬湖が見え始めた。ロープを張った岩場が最後の最後まであって、ともかくこのコースは飽きることがない。経ヶ岳から1時間40分で、ようやく仏果山に着いた。ベンチに荷物を置いて、何はともあれ高さ13mの展望塔に上がってみよう。
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 360度の展望という言葉は、こういう眺めのためにあるのだろう。丹沢から時計回りに目を転じれば、大菩薩嶺と小金沢連嶺、そして奥多摩の山々がズラリと並んでいる。それも、主だったピークは昨日の雪を纏ったフレッシュな冬の姿である。風がないのに遠くまでがクリアーに見えているのは、雨の後で空気が澄み、しかも今冬一番の冷え込みになったからだろう。富士山は丹沢の陰にかくれてここからは見えないが、たまには丹沢に主役を演じてもらうのもいい。というよりも、ここから眺める丹沢は実に堂々としていて、奥の深い山域であることを改めて認識させられる。
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(宮ヶ瀬湖と丹沢核心部の眺め)
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(大菩薩嶺・小金沢連嶺方面)
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(奥多摩の山々)

 予定よりも20分ほど早く仏果山に着いたので、展望塔からの眺めを存分に楽しんだ後、私たちはベンチに戻って昼飯だ。テーブルの雪を払い、コンロで湯をわかす。今回はつい最近発売されたばかりの粉末の「たまご酒」を試しに持ってきたのだが、これが案外いけた。アルコール度数は1%未満だそうだから、「酒」というほどのものでもないが、ほのかに体が暖まるので、これからの冬の山歩きにはよさそうだ
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 仏果山での昼食休憩を楽しんだ後、私たちは下山にとりかかる。尾根伝いに宮ヶ瀬越、高取山を経て愛川ふれあいの村へ下山、というのが予定のコースだったのだが、私たちは仏果山の頂上から下り始める時に道を間違えてしまっていたらしい。丹沢や宮ヶ瀬湖の眺めからは遠ざかり、山道の先には下界の市街地を見下ろすようになった。そのことに、先頭を歩くT君が途中で気づいたのだが、仏果山から半原の町にまっすぐ下りる別の尾根道に入ってしまったようだ。だが、予定通りのコースでも最後は半原に出るのだから、まぁこのまま下ってもいいだろう。歩行時間も若干の短縮になるようだ。

 雪の残る尾根道を下る。今度は急傾斜の下りもなく、比較的歩きやすい道だ。途中で送電線をくぐるあたりでは、下界の町並みが手に取るように眺められた。
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 順調に下り、仏果山からちょうど1時間ほどで舗装林道に出た。そこから道標に従えば、20分ほどで半原のバス停である。私たちが着いたのは、13時50分発の本厚木駅行きのバスがちょうど出るところで、待ち時間なくすぐに発車。効率的に今日の山歩きを終えることができた。

 低山なれど侮れない、立派な山だった。コースが変化に富んでいる上に、アップダウンが大きいので、しっかりとした手応えがある。そして、今日は例年より少し早く、冬山の楽しさも堪能させてくれた。帰りは本厚木から駅三つで鶴巻温泉に寄れるから、私たちにはそれもありがたい。

 冬が来た。今年も残り三週間である。

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