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つかの間の春 [季節]

 目が覚めたら、時計は朝の7時半に近かった。土曜日の朝とはいえ、私にしては寝坊をした方だ。前夜は職場の同僚たちと前からの約束があって、案外飲んだ。帰って着たらバタンキューだった。

 窓の外では、未明に降った弱い雨が上がったようで、道を行く人々は傘をさしていない。そしてコートを着ずに歩いている。ベランダに出てみると、気象予報士が言っていた通り空気が暖かく、これまで続いていた厳しい冬が急にどこかへ行ってしまったかのようだ。

 前日の金曜日から、日本列島は次第に気圧の谷に入りつつあった。低気圧が朝鮮半島から日本海を渡って北海道の北を通過するパターンで、その低気圧の南西側に出来た停滞前線が、これから土曜日にかけて本州の南岸を、ちょうど海岸線に沿うようにして通過するとの予報だ。南風が吹き始めた前日の午後からは気温が上がり、夜の飲み会が終わった後は、コートを脱いで腕に抱えながら家路についたのだった。
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 朝の8時を過ぎて、家族との朝食が始まる。新潟で独り暮らしをしている息子が所用のために木曜日の夜遅くに帰って来ていて、日曜日の昼まで滞在予定だ。正月からちょうど一ヶ月ぶりだが、やはり家族が揃うのはいいものだ。向こうでの息子の暮らしぶりを話題の中心にしながら、四人でなごやかな一時を過ごすことになった。そして、その頃には外の気温は15度に近くなっていた。

 私はその後、昼前に外で一つだけ用事があった。気温は更に上がっている。出かける支度をして外に出ると、雨が上がった後の曇り空で、実に奇妙な暖かさだ。道を行く人々の薄着の度合いが私自身を含めて様々なのは、やはり突然の暖かさに誰もが戸惑っているからなのだろう。

 用事は二時間ほどで済み、帰り道に少々の買い物をして家に向かうと、外はもう青空が広がり始めていた。先週まで続いていた硬質ガラスのような冬の青空とは違って、今日の空は何とも柔らかい色をしている。木々はまだ裸のままだが、背後の空の色が違うだけで木々の様子までどこか春めいて見えるから不思議なものだ。
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 午後3時。その数字は後から知ることになったのだが、この時点で東京都心部の気温は20度を超えていた。東京で2月にこのような暖かさがやって来たのは、1969年の2月13日以来のことで、実に44年ぶりのことだという。そう聞いて、「そうだ、確かにそうだった。」と、私は一人で頷いた。それは私が小学校6年生で、中学を受験する直前のことだった。突然春が来たような、光あふれる暖かな一日。あと数日で受験も終わるというタイミングの中で、外へ遊びに出たい気持ちを封じ込めていたことを、ちょっぴり懐かしく思い出した。

 午後5時。二人仲良く散歩に出かけていた家内と娘が、ご機嫌で帰って来た。地下鉄で二駅ほど先まで行って、そこから歩いて戻ってきたらしい。暖かくて何だか嬉しかったという。そして、或る文献を探しに図書館へ行っていた息子も、そのうちに戻ってきた。再び四人が揃ったから、夕食を作り出しながらオツマミもして、賑やかに夜を過ごそうか。春の気分を少し先取りしようと、安物ではあるがロゼ・ワインを冷やしてあったから。

 後付けで気象データを眺めてみると、ちょうどその頃に東京は気圧の谷から抜けきって、また少しずつ気圧が上がり始めていたことがわかる。
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 翌日の日曜日は節分。朝は再び空気が冷たかったが、その後は案外と気温が上がり、穏やかな日曜日になった。正午を過ぎて、息子はこれから新潟に帰る。つかの間の春が通り過ぎて、向こうは今日から再び曇と雪のマークだ。東京駅まで一緒に出て、JRの改札口で息子を見送る。「それじゃ!」と言って、本人は人混みの中に消えて行った。実にあっさりとしたものだが、現地では楽しく、そして張り合いを持って過ごしているようで何よりだ。春の訪れはこちらより遅いのかもしれないが、頑張って暮らしていって欲しい。

 家内と私は、それから都心で美術展を見に行って、日曜日の午後をのんびりと楽しんだ。

 明日は立春だ。だが、水曜日は再び雪のおそれがあるという。そうした寒さはまだ続くのだが、それでも日時計は着実に春へと向かっていくことになる。実際に、日々の日射量は二月に入るとぐんと上がっていくから、「光の春」という言葉はまさに言い得て妙なのである。
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 一週間後には旧暦の春節がやって来る。そして、次の二十四節気は「雨水」だ。春に向かって、仕事も私生活もしっかりとやって行こう。

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