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北国の現場 [自分史]

 2月21日の午前6時少し前、出張先のホテルで目が覚めると、窓の外では北国の朝がゆっくりと始まろうとしていた。

 幹線国道は、仙台市の中心部に向かう側だけ車が走っている。だが、そうした車の通行がまだない側道は雪で真っ白だ。昨夜は強い冷え込みの中で雪がちらついていたが、それは日付がかわってからも続いていたのだろうか。

 ホテルの一階で朝食を済ませ、7時半にロビー集合。会社が回してくれた車に私と社員一名、そして外国から来てもらった技師二名が乗り込み、工場へと向かう。泉ICから乗った東北自動車道を北へと走る間、街中ではちらちらする程度だった雪はいつしか吹雪のようになり、葉の落ちた 雑木林が風に揺れている。その吹雪の彼方に浮かぶ、熱を持たない白い太陽は、いかにも北国のものだ。

 大衡(おおひら)ICで東北道を下りると、一般道には更に積雪があった。

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(工場への道)

 工場に着くと、総務課のFさんが駐車場の雪かきを始めている。

 「おはようございます。結構降りましたねえ。」
 「いやー、今年の冬はホンマに寒いですわ。」
 「これって、山形の方から飛んでくる雪なんですよね?」
 「そうです。今日みたいに風強い日は、あっちからようけ飛んで来よるんですわ。」
仙台に住むことになってもう久しいのに、関西人のFさんはお郷の訛りがそのまんまだ。

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 Fさんが指さす西の空は、雲に覆われて何も見えない。それに対して、私たちの頭の上は青空だ。仙台は太平洋側の気候だが、山形は日本海側の気候が支配している。工場のある大衡村は両者の接点のような所で、県境の山々の向こう側は湿った大量の雪。それが山々を越えて飛んで来ると乾いた雪になる。工場の敷地内に2~3センチ積もった雪を踏んでみると、確かにスキーでもやりたくなるようなキュッキュッとした雪である。

 東北地方から北は、昨日から強い寒気に見舞われている。北海道では列車が雪の中で立ち往生し、東北各地も日本海側を中心にかなりの積雪になっている。青森の酸ヶ湯(すかゆ)では積雪が515センチに達して国内最高記録を更新したという。大衡村でも、昨夜工場を出た頃には外気温がマイナス4度だった。天気予報によれば今日の日中も氷点下で、風の強い一日になるそうである。

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 工場で作業着に着替え、外国人技師たちと一緒に現場に向かう。私の役回りは現場の人たちと技師との間での言葉の橋渡しのようなものだが、事実に対する正しい理解の積み重ねは、モノ作りの現場には欠かせない。辛抱強く、それを続けていかねばならない。

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 今週の初めに出張でやって来て以来、朝から午後7時頃までは工場で現場に立ち会い、夜ホテルに戻って簡単に食事をした後は、海外からメールで届いていた資料の翻訳作業。それを夜の間に工場スタッフにメールで送り、翌日の日中にそれを工場内で議論してもらって、結果のレスポンスをその日の夜に海外に返すのは、再び私の役目だ。

 考えてみれば、以前に長く務めた会社でも、こうした海外と日本を繋ぐ役回りの仕事は結構長くやってきた。日本と欧州との間の8~9時間の時差を前提にして、仕事の効率的な段取りを決めていくことや、外国人のモノの考え方と「日本的特殊事情」との板挟みになることへの免疫のようなものは、いつの間にか自分の体に染みついてしまったようなところがある。

 海外を相手にビジネスの最前線に立っていた頃から比べれば、私も齢を重ねてしまった。それでも、昔お世話になった先輩方への恩返しのつもりで、自分の経験を活かして今の会社に少しでも貢献が出来ればと思う。それも、こうした北国の冬の風情の中でモノ作りの現場に係わることが出来るのなら、私にとっては嬉しいことだ。

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 夕方近くになって外の風はだいぶおさまり、青空が支配するようになった。そして夜の8時頃に工場を出る頃には、南の空に大きなオリオン座が輝いていた。

 明日は金曜日。今回の仕事も次第に大詰めを迎えようとしている。来週初までのやや長丁場になるが、引き続き頑張っていこう。

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