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花粉か塵か - 倉岳山・高畑山 [山歩き]


 3月10日の日曜日の早朝、登山用のシャツ一枚で私は新宿駅へと向かう。5月の連休の頃を思わせるような暖かさが前日から続いていた東京は、この日の明け方も気温が10度を超えている。冬の寒さに慣れた自分の体にとっては、「生暖かい」とも言えるような感覚である。

 新宿駅で7人の山仲間が集合。06:44発の中央特快で高尾に着くと、そこで更に3人のメンバーが加わって、全員が揃った。中学・高校同級生たちによる日曜日帰りの山歩きに、今回は高校山岳部のOB・OGから3人の先輩方がジョインをして下さることになった。総勢10人ともなれば、やはり賑やかである。

 高尾から河口湖行きの普通列車に乗り、三つ目の上野原で下りて駅前から路線バスに乗車。都内はずっと曇空だったが、このあたりではもう晴れている。天気の良い土日となると、上野原駅前のバス乗り場は数多くの登山者で混み合うものだが、今日はだいぶ静かだ。そういえば、ここまで乗ってきた中央線の電車の中にも、「晴時々曇」という天気予報のわりには登山者の姿が少なかった。

 私たちが乗った無生野行きのバスは、山また山の風景の中を走り続ける。3月の上旬だから、窓の外で彩りを見せているのは梅の木ぐらいのもので、他はまだ冬の眠りの中にあるかのようだ。それでも、そうした山野にたっぷりと降り注ぐ太陽の光は何とも眩しく、気温が上がってきたこともあって、遠くの眺めがぼんやりと霞んでいる。

 霞か雲か。印象派の点画のような世界だが、今日のそれは春霞というような雅やかなものではない。強い南風で舞い上がった土埃によって空が薄茶色に曇る「煙霧」の一種だ。中国からの黄砂ではない、ということが気休めになるかどうかはともかくとして、空気中に埃が漂っていることに違いはない。
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09:16 無生野バス停 → 10:11 立野峠 → 10:54 倉岳山

 終点の無生野の少し手前の、浜沢というバス停で私たちは下車。天気予報の通り、外は南風が強く吹いている。道路を渡り、道標に従って民家の間の道を進むと、すぐに倉岳山(990m)への登山道が始まった。
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 だがそこで、前方を見つめていたメンバーの間から悲鳴が上がる。私たちがこれから向かっていく谷の上部で、薄い黄緑色をした煙が風に吹き上げられているのだ。他でもない、大量のスギ花粉である。
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 メンバーの半分以上が、そこでマスクを着用。ゴーグル状の眼鏡を用意してきたメンバーもいた。そして、覚悟を決めて山道を進むと、そこからはいよいよスギの植林が続く。地面には既に相当な量の花粉が落ちているようで、私たちが足元の枯葉を踏むたびに黄緑色の煙が上がる。私自身は花粉症になったことがないが、それでもここまで大量にスギ花粉が飛散する中を歩くのは、気分のいいものではない。

 そうか。今日の山の景色が霞んでいるのは、土埃だけではなくて花粉のせいでもあるのかもしれない。好天なのに今朝の電車やバスで登山客がいつもより少なかったのは、もしかして、スギ花粉の多い場所を人々が避けたからだったのだろうか。その点、私たちは何とも能天気に来てしまったものである。

 やがて、ヒノキがところどころ伐採された箇所を山道は通る。切り株を見つめると、この場所では最も日当たりのよい南東方向に年輪が向かっており、その方向の成長が一番早い。それにしても、ヒノキの木は一年で随分と太くなるものだと、改めて思う。
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 谷の中をある程度の高度まで登っていくとヒノキの植林が終わり、落葉樹の明るい森の中をトラバース状に登る。尾根に取り付いたところで小休止を取り、その尾根に沿って歩みを続けると、程なく立野峠だ。ここまではほぼコースタイム通り。道標には「倉岳山へ35分」と書いてある。気温が上がり、早くも汗が出てきた。
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 立野峠では小休止を取らず、登りを続ける。樹林の中の稜線だが、今日の強い南風がまともに当り、木々がごうごうと音を立てている。その向こうに道志の山々の連なりが見えてはいるのだが、良く言えば春霞、ミもフタもない言い方をすれば花粉と塵によって、遠くの山々の姿はおぼろげである。倉岳山も、そうしてその先の高畑山(982m)も、山頂からの富士山の眺めが良い場所なのだが、今日のこの感じではそれもお預けになるのだろう。
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 10:54に倉岳山に到着。山頂に登山者は数人で、やはり今日は人が少ない。お目当ての富士はもちろん霞の中。北側も猿橋の方向を見下ろせるのだが、それもぼんやりとしている。休憩は短時間にして、先へ進もう。今日は高畑山の山頂でゆっくりと食事を楽しむ予定にしているから。
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11:05 倉岳山 → 12:03 高畑山

 倉岳山から西へ向かう山道は、最初の下りが結構急斜面である。日当たりがよく、このところ雨も降っていない様子なのと、前日からの季節外れの高温で夜間に霜が降りることもないようなので、乾いた斜面はザラザラとしていて滑りやすい。足元に用心しながら、標高差160mほどを下りきった所が穴路峠。その先を少し登り返して北側の展望が開けた所が天神山。遠くを眺めてみると、百蔵山や扇山の形はすぐにわかるが、それよりも遠くは霞の中だ。
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(遠景左が百蔵山、右が扇山、更に右奥に権現山)

 天神山から再び下ると、今度は高畑山への登りが始まる。気温は更に上がっていて、私たちはもう汗びっしょりだ。今日の日中に東京は25度まで上がる、つまり早くも今年初の夏日を記録するとの天気予報になっていが、このあたりでは何度ぐらいまで上がったのだろう。いずれにしても、3月のまだお彼岸前とも思えない陽気になった。
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 傾斜が緩くなり、風が強くなると、その先が高畑山の頂上だ。12:05に到着。ほぼ計画通りだ。ここでもまた、お目当ての富士の姿はない。プレートのある頂上周辺は風が強くて土埃が多いので、少し東側に戻った、雛鶴峠から上がってくる山道との分岐点のあたりに場所を取ることにして、私たちは昼食の準備に取りかかる。

 今日は、T君が具材を全て調達してくれた「鍋焼き風うどん」。かき揚げ、カボチャの天ぷら、油揚げ、シメジ、鶏つくね、ネギなどが入ったうどんである。総勢10人だから二つの鍋に分けて作り、これがなかなか美味しく仕上がった。そして、持ち寄ったフルーツなどを分け合い、約1時間の昼食休憩を楽しく過ごす。
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 「山へ行く」ということは、計画作りに始まって、無事に下山して家に帰って来るまで、その間に様々なプロセスがある。実際に山に入ってからは、そのプロセスの一つ一つが実に楽しいものだが、その中でも「山での食事」は最も重要度の高いものの一つだろう。特に今日は歩行距離も時間も比較的短いコースだから、そういう時には昼食に少し凝ってみて、せっかくなら美味しいメニューを楽しもう。そのことに対するT君のこだわりと企画力には、今回も改めて敬意を表することにしたい。
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13:05 高畑山 → 13:36 大桑山 → 14:04 林道出合 → 14:40 ゴルフ場下

 食事を終え、荷物をまとめた私たちは、高畑山の山頂で改めて記念撮影。下山を開始する。

 山頂から西へ、切り株の間に続く道をどんどん下り、少しだけナイフリッジのようになった箇所をやり過ごすと、南の方角に道志山系の赤鞍ヶ岳(1257m)や朝日山(1299m)の眺めが良い。
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 下った分だけ登り返すと、樹林の中に大桑山の頂上がある。高畑山からここまで30分ほどだ。倉岳山(990m)、高畑山(982m)、大桑山(980m)という、同じような標高の山三つを登ったり下りたりの繰り返し。今日のコースは、距離は短いながらもそれなりに歩き甲斐があるとも言える。
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 大桑山から先は少し道が頼りなくなるが、見失うというほどのものでもない。樹林の中を一本調子に下って行くと、20分ほどで舗装林道に出た。大桑山の西側の中腹にある中継無線所へと続くNTTドコモの専用道路なのだそうで、それをそのまま下っていくと、ほどなく県道の朝日小沢猿橋線に合流。その県道を南方向へ下っていけば、20分ほどでブリッティッシュガーデンクラブというゴルフ場の下に出る。
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 朝から吹き続けていた南風がいつしか北風に変わり、空には雲が湧いて雨がポツリポツリと落ち始めていたが、県道を歩きながら携帯電話で呼んでおいたタクシーがちょうどそこにやって来たので、私たちはタイミングよくそれに乗車。ドンピシャリ計画通りの14:40だった。

 そこから10分足らずで公営の「芭蕉月待ちの湯」に到着。ともかくも、今日一日のスギ花粉と埃を洗い落とそう。そこから後は、風呂上りの缶ビール → タクシーで富士急の都留市駅へ → 新宿直通のホリデー快速に乗車 といういつものパターン。先ほどの小雨も上がっていて、走り始めたホリデー快速の車窓には、夕焼けの空の向こうにやっと富士の高嶺が姿を見せていた。

 今回は3人の先輩方にもご参加いただいたので人数も10人になって、賑やかに日帰りの山歩きを楽しむことが出来た。花や緑の季節はまだ先で、遠くの展望は花粉と土埃に霞んでいたが、先輩方には、これに懲りずにまたお気軽にご参加いただければ幸いである。

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