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サンショウバラ 再び - 駿東・不老山 [山歩き]

 日曜の朝06:45に小田急の新宿駅を出て一時間と少し。左右二つのボックス席に座った私たち8人の間で話が弾むうちに、特急「あさぎり1号」は新松田駅の手前で速度をぐっと落とし、ポイントを渡って右カーブの連絡線へそろりそろりと入っていった。そして、JR松田駅の、普通列車が停まるのとは異なる小さなホームに停車し、そこで乗務員が入れ替わる。

 ここから先はJR御殿場線のルート。単線で、特に山北駅から先は山と谷の間を走るから、沿線の鮮やかな緑が電車の窓のすぐ両脇に迫り、ずいぶんと山奥までやって来たような気分になる。小さなトンネルを幾つも越え、東名高速道路を左手に見上げるようになると、間もなく駿河小山駅だ。ホームに降りて跨線橋を上がると、西の彼方に富士の高嶺が頭を出していた。
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(左後方に富士山のピーク)

 御殿場線は沼津・御殿場間でJR東海のTOICAが使えるそうだが、それより東の区間はICカードが使えない。だから、「あさぎり1号」に乗ってきた私たちは改札口に列を作り、新宿からの小田急線の乗車記録をSUICAから取り消してもらい、あらためてここまでの乗車料金を現金で支払うことになる。新宿からの直通運転という利便性を謳い文句にしていながら、この面倒臭さはいかがなものかと思ってしまうが、少なくともTOICAとSUICAが共用出来るようになるまでは、この状態が続くのだろう。御殿場線は神奈川県内に深く入り込んでいるのに、その管轄はJR東海なのである。

 改札を出るまでに思いのほか時間がかかってしまったが、駅前では頼んでおいた二台のタクシーが私たちを待っていてくれた。4人ずつそれに分乗し、私たちが目指すのは標高が約900mの明神峠。駿河小山の駅から約20分、料金は3,500円ほどだ。今日はいつもの同級生メンバー7人に、私たちの8年先輩のIさんがジョインしてくださった。この明神峠から不老山(927m)への山道を歩き、世界の中でも富士・箱根地区の山地だけに見られ、しかも開花時期は5月下旬から6月上旬の間だけという、レア物の極みのようなサンショウバラの花を楽しもう、というのが今日の私たちの魂胆である。
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08:45 明神峠 → 09:18 湯船山

 今は「富士箱根トレイル」と名付けられたこの登山道は、明神峠からの歩き始めが少し急だが、すぐに傾斜は緩やかになり、新緑のまぶしい広葉樹の森の中を行く歩きやすいコースだ。そして、歩き始めてからいくらも経たないうちに、最初のサンショウバラの樹に出会った。
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 サンショウバラは、花が開いたらその日のうちに散ってしまうのだそうだ。一つの樹にはたくさんの花が日を分けて次々に咲くので、一斉に散るわけではないのだが、ネット上には、5月末から6月初めの好天の日に不老山一帯を訪れた人たちの記録が幾つも載っていて、それらによれば、今年のサンショウバラはもう開花のピークに近い様子だったという。私たちの山行が遅過ぎはしないかと心配していたが、何とか間に合ったようだ。
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 今回出会った最初のサンショウバラの樹をしばし眺め、その先の道標に従って「樹齢42年」という大木のサンショウバラを眺めてから、私たちは新緑の輝く森の中の道を更に進む。緩やかに登り続けるうちに、明神峠から40分足らずで湯船山(1041m)の静かなピークに着いた。ここが今日のコースの最高地点である。

09:25 湯船山 → 白クラノ頭 → 10:13 峰坂峠 →10:38 樹下の二人

 湯船山から先も、広葉樹の森の中の穏やかな道が続く。途中、ひっそりと咲くヤマツツジやヤマフジが目を楽しませてくれる。遠くの展望はないが、フレッシュな緑に包まれた山道を歩くのが何と気分の良いことか、それを改めて教えてくれる愛すべき道である。新緑がこれほど素晴らしいのだから、紅葉の時期に訪れてみるのも、きっといいことだろう。
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 山道の緩やかなアップダウンを楽しみ、白クラノ頭という小さなピークを過ぎると、その先にはヒノキの森の伐採地を左に見ながら斜面を下りていくようになる。今日も一緒のT君と二人で以前にここへ来た時は、この伐採地でコースを外れてしまった経験がある。彼もそのことを覚えていたが、あれから3年で伐採地にもそれなりに下草が増えたような気がする。
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 斜面を下りきると左側から未舗装の林道が合流し、峰坂峠に到着。そこからは右側の展望が開けるようになり、この山域の南側に位置する箱根の山々が見える。今朝早い時間は一面の青空だったが、それから気温が上がったので雲がムクムクと湧き、「天下の険」もうっすらとした眺めだ。
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 それまでの深い森が終わり、ここから先は日当たりのよいなだらかな地形になる。いよいよサンショウバラの群生地が始まるのだ。

 緩やかな上り坂。山道の両側にサンショウバラの樹々が並ぶ。確かに開花期はもう終わりに近い様子だが、それでもまだ花は楽しめる。一年の中でこの時期だけ、しかも世界の中でこの山域にだけ姿を見せるなんて、本当に不思議だ。
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 一方で、サンショウバラに交じって、同じような形の葉を付けながら花の姿が全くない木も多い。実に紛らわしいことに、これは本当のサンショウだ。両方とも同じような生育環境を好むのだろうか。サンショウの樹は花がない代わりにお馴染みの緑色の実を結んでいて、その一粒を口の中でそっと噛んでみると、驚くほど鋭利な刺激があって舌先が痺れる。

 そんな風にして山道の両側の樹々を愛でているうちに上り坂が終わり、「樹下の二人」という道標のある広い場所に出た。10時38分。予定より一時間近く早いが、気分の良い場所だからここで昼食休憩にしよう。爽やかな風に吹かれ、目の前の不老山の大きな姿を眺めながら、私たちは山の昼食を楽しんだ。
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 尾根の北側に目を転じれば、神奈川県と山梨県の県境となる青々とした山並みが雲の中に続いていて、いかにもこの季節らしい眺めだ。そんな景色の中で、I先輩が担いできて下さった赤ワイン「グレイス茅ヶ岳」を一杯ずついただく。まさに至福の一時である。
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11;25 樹下の二人 → 11:57 不老山・西峰

 45分ほどゆっくりした私たちは、再び山道へ。ほんの数分だけ下ると世附峠で、今度はそこから登り返しだ。本日のコースで唯一といっていい登りらしい登りが昼食の直後というのはちょっと辛いが、時間にして30分ほど、標高差にして200mの登りだから、ここはガマンして行こう。この上り坂もあちこちでサンショウバラが咲いているので、退屈はしない。
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 そのうちに行く手の空が明るくなると、登山者たちの集まる不老山・西峰に着く。富士山は予想通り雲に隠れてしまったが、今日歩いてきた緑の尾根が木々の間から見えていた。
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12:07不老山・西峰 → 12:34 最初の送電線下 → 12:44 林道分岐 → 13:11 神縄断層前 → 13:56 駿河小山駅

 ここからは尾根筋を下る道だ。依然として「富士箱根トレイル」の一部だから、山道はよく整備されていて歩きやすい。順調に下って行くと、東富士変電所へと続く巨大な送電線をくぐる所で森が伐採されている場所に出た。前回来た時はこんなに伐採されていたのか記憶が残っていないが、西を向いているから秋などは富士山の眺めが素晴らしいことだろう。
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 そこから10分ほど下った所で、「半次郎」という名前のついた道標があり、そこで尾根筋の山道と、尾根を右に外れて林道に出る道とが分かれる。今日の私たちは、神縄断層の前を通る右の道を選んだ。案の定、未舗装の林道がすぐに現れて、そこから先は単調な下りだ。山道ではないから下りといっても膝が痛くなるような所はない。沢沿いに何度もカーブを切って、やがて沢の左岸に渡ると、その先に神縄断層の表示があった。かつて伊豆半島が南の海の彼方から本州に向かって移動を続け、その結果できたのがこの断層なのだそうだ。
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 林道はまだまだ続く。下り続けて標高もだいぶ下がったので、さすがに暑くなってきた。いずれは駿河小山駅に着くのだろうけれど、林道歩きは単調なだけに、私たちの頭の中に浮かんで来るのは、あの泡の多い炭酸飲料のことばかりだ・・・。

 それでも、ようやく国道246号の下をくぐり、酒匂川沿いの県道に出た。橋が限られているので駅まではいささか遠回りになるが、ともかくも14時少し前に駿河小山駅に到着。あと1~2分というところで上りの電車が出てしまったが、これでもコースタイムよりは1時間半ほど早く降りてきた。御殿場線はダイヤが少ないから、私たちはタクシーを呼んで山北駅へ。そして駅の南の温泉施設でいい汗を流すことが出来た。

 東京から近いようで案外遠い不老山。それでも仲間を誘ってやって来て、皆でサンショウバラの花を眺めることが出来たのは何よりだった。またいつか、今度は違う季節に再びこの山を訪れてみよう。その時は富士の高嶺も顔を出してくれるだろうか。

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