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一周10km (1) [自分史]

 真夏といってもまだ多少は涼しい風が吹く朝早く、近所の寺の境内では、もう夏休みに入った子供たちがラジオ体操に集まっている。土曜日の今朝は、お父さんたちの姿もちらほら。背後の小石川植物園の森では早くもミンミンゼミの合唱が始まっていて、今日も暑い一日になりそうだ。

 そんな様子を尻目に、私は自分のペースでその横を駆け抜ける。そこから御殿坂という幅の狭い坂道を登り、傾斜が緩くなった道をまっすぐに走り続けると、その先が白山下の交差点だ。

 始めてからもう7~8年になるだろうか。この白山下を起点にして時計回りにぐるっと一周10kmの道のりを週末ジョギングすることが、日頃の運動不足をいくらかでも解消するための、私にとって数少ない手段の一つになっている。最初はもっと短いコースから始め、それを少しずつ伸ばしていって今の形になったのだが、色々と変化があって私なりに気に入っているコースである。

 インドアで、ランニング・マシンの上をハツカネズミのように走るのは、どうも性に合わない。どうせならやはり外を走り、通り過ぎる街の様子や自然の地形を楽しめる方がいい。夏の暑さも真冬の冷え込みも、そのままの形で受け止めればいいではないか。そんな思いで細々と続けてきたことなのだが、こんなことでもいつの間にか習慣になってしまうのだから、不思議なものである。
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●白山下 → 巣鴨駅 → 庚申塚

 まずは道幅の広い白山通りを、巣鴨駅に向かってゆっくりと走る。週末の朝はクルマの通行量も少なくて静かだ。ごく軽い上り坂が、走り始めにはなかなかいい。道路沿いの建物が比較的高く、朝早くは日蔭も多いから、今頃の季節などは涼しくて助かる。
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 千石一丁目で不忍通りを横切り、なおもまっすぐに走り続けると巣鴨駅だ。スタートから10分ほどが経過するので体が温まり、冬でもこのあたりから汗をかくようになる。

 巣鴨駅前で山手線の線路をオーバークロスすると、その先に賑やかな商店街が見えてくる。「とげぬき地蔵商店街」、別名は「おばあちゃんの六本木」だ。そのお地蔵さんは通りの右側の高岩寺というお寺にある。元は湯島に開かれた寺で、明治になってからこの土地へ移転してきたそうだ。
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 ある家の女中が針を誤飲して苦しんでいたところ、たまたま居合わせた僧が、紙に書かれたこの延命地蔵の尊影を水と共に女中に飲ませた。すると、間もなく女中は腹の中のものを吐き出したので、よく見てみると針がお地蔵様の尊影を貫いていた・・・。「とげぬき地蔵」のご由緒はそういうことなのだという。私はいつも走って通り過ぎるだけなので、高岩寺の境内をぶらぶらしたことはないのだが、小さな和紙に書かれたお地蔵様の尊影は今でも授かることが出来るそうである。

 昔ながらの商店街が延々と続き、しかもその殆どが今も営業しているというのも今時珍しい。朝、私が走る時間帯にも、もうシャッターを開けて商品を並べ始めている店もあり、なかなか元気だ。そして、ここの名物はなぜか塩大福なので、どこかで小豆を炊く匂いが漂ってきたりもする。

 そして商店街の中の最初の信号が「庚申塚」だ。

●庚申塚→西ヶ原四丁目→飛鳥山

 「庚申塚」交差点の北東側の角には、猿田彦大神を祀る小さな巣鴨庚申塚がある。『江戸名所図会』にも描かれた場所で、中山道と王子飛鳥山方面への道の分岐点として、道標を兼ねた庚申塚が建てられていたそうである。これから私が向かうのは、まさにそのコースだ。

 「庚申塚」を右に曲がってまっすぐ行き、国道17号を渡ると、そこからしばらくは民家を挟んで都電荒川線と並行するように道が続いている。そしてこのあたり、航空写真で見るとよくわかるのだが、路地が碁盤の目のようになっていないので、家々の並び方が昔ながらの感じだ。
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 やがて、T字路を左に曲がるとすぐに都電の踏切だ。西ヶ原四丁目の電停がある場所で、どこか懐かしい風景である。何しろ荒川線は東京でただ一つ残った都電の路線なのだから。
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(Google Mapを拡大すると、ちょうど西ヶ原四丁目で二台の都電がすれ違おうとしていた)

 踏切を過ぎると、道路は軽い下り坂になる。ジョギングを続けてきたら、このあたりでスピードに乗りたいところだ。やがて明治通りに右から合流し、それが本郷通りとぶつかる飛鳥山の交差点に出るまで、その下り坂は続く。

●飛鳥山→西ヶ原駅

 飛鳥山は京浜東北線・王子駅の西側にある小高い丘である。日暮里の道灌山に始まる丘の地形が田端を超えてその北側にも続いており、その果てが飛鳥山だともいえる。
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 この丘を江戸の桜の名所にしたのは、八代将軍・吉宗なのだそうだ。社会政策の一環としてここを庶民のための花見の場所へと整備し、そこでは花見酒も許されたという。真夏の今は、朝早くからミンミンゼミが賑やかだ。
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(葛飾北斎 作 『王子稲荷飛鳥山の図』)

 ここからしばらくはちょっとした上り坂になる。といっても標高差にして4~5mほどなのだが、私にはそれなりの気合がいつも必要になる。10km走の前半戦の踏ん張り所だ。しかも、朝は道路の右側の陽当りが案外強いので、出来ることなら道路の左側へと本郷通りを渡りたいのだが、それは横断歩道の近くに差しかかったところでうまく信号が変わるかどうか、そのタイミング次第だ。一般の道路をジョギングする時はそれが制約条件で、大通りを渡る前に信号次第でロスタイムが生じることはやむを得ない。

 この上り坂には一段と汗が出るのだが、何とか頑張って滝野川警察署を過ぎると傾斜はなくなり、以前の大蔵省印刷局の広々とした工場の前に出る。その先には東京メトロ南北線・西ヶ原駅の入口。このあたりがスタート地点からちょうど5km。中間地点である。ここでのラップを計って、その日の10km走のペースをチェックすることになるのだが、今日は先週より若干遅い。このところ飲み会が続き、ちと体が重くなったか。

(To be continued)

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