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続・聖地巡礼 - 穂高・岳沢 (3) [山歩き]

 夜半の強い風で何度か目が覚めた。

 その風には息があり、強く吹く時はテントを揺らすほどだった。東京で見てきた予想天気図は等圧線の間隔が広く、そんな強風が吹くことは想像していなかったので、ちょっと不思議だった。

 この歳になると、一度何かで目が覚めると、そこからはなかなか寝つけないものだ。覚めているのか夢の続きを見ているのか、自分でも訳がわからないうちに、H氏が仕掛けた目覚ましが鳴った。午前3時20分だった。

 シュラフをたたみ、テントの外に頭を出すと、上空の星はまばらだが、岳沢を取り囲む山々の稜線ははっきりと見えている。天気はまずまずのようだ。南の彼方の乗鞍岳が雲にかくれていたのが少し気がかりではあったのだが。

 まだぐっすりと寝ていた隣のテントの二人を起こし、私たちは小屋の前で早速朝食の準備にかかる。小屋泊まりのメンバーも三々五々やってきて、石造りのテーブルを囲む。出来上がったのは、即席ラーメンとはいえ、味玉子や叉焼、メンマ、海苔などそれなりの具入りのものになった、

 出発予定時刻は4時半。私たち同級生メンバー5人に同い年のH氏、そして8年先輩のIさんと6年上のSさんが加わり、平均年齢58.8歳の8人パーティーで、今日はこれから前穂高岳を目指す。北アルプスの一般用登山道としては難易度が高いとされる重太郎新道の往復が今日のルートである。
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 草付の中をつづら折れに登り、左に扇沢、右に奥明神沢を眺め、ちょっとしたチムニー状の岩を越えると、かなり長い最初の梯子がある。その先も樹林の中を登って行くと、歩き始めから1時間ほどで「カモシカの立場」に着く。今朝起きた時は山の稜線はきれいに見えていて、今も頭の上は青空なのだが、この時間には山の稜線にもうガスが湧き始め、特に西穂高岳の方は幾つも連なっているはずのピークが全く見えない。だが、時刻はまだ6時前。昨日と同じパターンになるのなら、この後にガスが晴れてくれるはずなのだが・・・。
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 「カモシカの立場」からなおも山道を登って行くと、再び梯子があって、岳沢小屋がもうずいぶん下の方に見える。そして、コバイケイソウの群生地があったり、岩場にイワツメクサやイワギキョウが咲いていたり、そして背の高い木々に代わってハイマツがあたりを覆うなど、山道からの眺めがだいぶ高山らしくなってきた。
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 次の休憩場所である「岳沢パノラマ」から更に40~50分ほどで「雷鳥広場」。ここまで来ると、もう山道は岩とハイマツだけの世界だ。そして、スラブ状の岩に鎖が垂れた急な登りを足元に注意しながら登ると、「紀美子平」に着く。前穂高岳へ上がる登山道と奥穂高岳へのトラバース道の分岐点だ。
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 時計はもうとっくに8時を回っているが、昨日の朝とは違ってガスはいっこうに晴れてこない。それどころか、少し雨交じりにさえなってきた。どうも昨日とは天気のパターンが違うようだ。前穂高岳に向かって岩を登り始めた私たちは、そこで雨具の上衣だけを着ることにして再び出発。そこから先の岩場には結構険しい箇所もあって、学生時代は何とも身軽に岩を登っていたものだと痛感させられる。

 小雨交じりで視界はない。見えるのは足元に続く灰色の岩と、山を覆う白いガスだけだ。それでも、先頭を歩いて下さるI先輩の巧みなペース配分が奏功して、全員無理なくここまでやって来た。

 午前9時25分、標高3090mの前穂高岳の頂上に立つ。40年前の7月21日に、同期のT君らと共にここから眺めた涸沢や槍ヶ岳の眺めは、一昨年に続いてまたしてもお預けになってしまったが、ともかくも我がパーティー8人で登頂を喜び合った。
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 来た道を戻る。山は下りの事故が圧倒的に多いから、帰りこそ慎重に歩こう。
 
 「ゆっくりでいいからね。」

 引き続き先頭を行くI先輩は、我々同級生組の中にいる二人の女性に、とりわけ配慮をしてくださっている。時間をかけて降りるべき所では、他のパーティーに先に降りてもらったりしながら、私たちは私たちのペースで下山を続ける。そして、「雷鳥広場」まで降りて来た11時20分頃になって、俄かに視界が晴れて、前穂高岳のピーク周辺がはっきり見えるようになった、
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 行きに紀美子平で小雨が降り始めた時、そこで少し時間を待とうか、という話もあったのだが、その時点では待って天候が回復する確証もなかったので、私たちは山頂を目指した。結果的にはここまで降りてきたところで空が晴れたが、それもまた神様の思し召しなのだろう。再び姿を現した明神岳の主稜線では、主峰の手前のコルに登山者の姿も見える。
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 「雷鳥広場」から下は、まだ鎖場や梯子が残っている。今日のメンバーの中の女性たちは、前穂高岳も初めてなら、そもそも3000m峰も初めてだから、だいぶ疲れも出ていることだろう。トップを歩くI先輩は優しいから、そのあたりを十分考慮して安全第一でゆっくりと歩いて下さっている。
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 岳沢の谷を覆っていたガスも、少しずつ晴れて行く。岳沢小屋が近くなると、今日一日を小屋の周辺でゆっくり過ごされていた山岳部のOGの方々や、既に半日の行動を終えたOBたちが私たちを迎えに出ている様子が遠くに見える。山岳部の伝統だった方法でコールの声を張り上げると、下からはそれへの答えが谷にこだまする。
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 ゆっくり下りてきたので時刻は14時を過ぎていたが、私たち8人のパーティーは岳沢小屋前に無事に帰還。出迎えてくれたOB・OGたち全員と笑顔でハイタッチを交わす。やっぱりこれが「岳沢大集合」なんだと、その時あらためて思った。世代を超えた先輩方との絆は、何ともありがたいものである。

 小屋の前で一息入れた後、私たちは岳沢小屋名物の生ビールで乾杯!私たちのためにOGの皆さんが用意して下さった温かい昼食を楽しむことになった。前穂に登って降りてきたらトマトソース味のペンネが待っていたなんて、何と幸せなことだろう。H氏が瓶ごと担ぎ上げてくれたサントリーの「白州」もここで登場。(岳沢の冷たい水で割ると、これが実に美味なのである。) そんな風にして、私たちは至福の午後を賑やかに過ごした。
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 (To be continued)

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