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続・聖地巡礼 - 穂高・岳沢 (4) [山歩き]

 8/4(日)の夕方から降り出した雨は、夜中の間に何度が強くなって、その度にテントを叩いた。夜が明けるまでに降った総量はそれなりのものになったはずだが、幸いにもテント場の水はけは良くて、下から水浸しになることはなかった。

 下山日の今日は、朝の5時半を起床時刻に決めていたのだが、それ以前に目が覚めていた私は、朝食からテント撤収までの段取りをシュラフの中で考え続けていた。私たちの朝食は自炊の予定だが、雨がひどければ外では出来ない。といって、雨の降る中、狭いテントの中に6人が集まって食事をするもの大変だ。そして、食事を済ませたとしても、雨の中でテントの撤収はちょっとしんどい。

 何とかならないものかと思案していたが、幸いにして我々が起き出した頃から雨が上がり始めた。それならばと、傘をさして岳沢小屋に向かい、小屋の前の石のテーブルで湯を沸かす。アルファ米に温めたレトルト食品をかけて、ともかくも朝食になった。スマホで天気予報のサイトにアクセスし、雨雲の動きをチェックしていた先輩によると、この先も8時頃から次の雨になるという。それならば、雨が上がった今の間にテントの撤収を急ぐことにしよう。朝食を手短に済ませ、私たちはテント場に戻った。

 荷物のパッキングを何とかテントの外で行うことが出来たので、7時半過ぎには各自のパッキングとテントの撤収が完了。小屋の荷物置き場にそれを運び込む頃には、予報通り再び雨が降り始めた。それも本降りになろうとしている。上高地まで2時間ほどの下山。今からもう降りるか、雨脚が弱まるのを待つか、先輩方とも相談したが、昨夜からそれなりの量が降っているので、あまり時間が遅くなると、普段は水流のない岳沢の本流が増水して渡れなくなる可能性がある、という意見が出て、どうせ雨なのだから早く降りようということになった。

 雨具の上下を着用し、私たち6人のパーティーに先輩方が加わって、総勢15人で下山を開始。若い頃に岳沢には何度も来たが、本降りの雨の中で岳沢道を下るのは、考えてみれば私にとって初めての体験である。

 それでも、岳沢道はよく整備されていて、雨の中でも比較的歩きやすい。相応に足元に注意をしつつ、私たちはほぼ2時間で順調に河童橋まで下りることができた。
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(雨の中、上高地に到着)

 若い頃なら、それから風呂に入るとしても、小梨平のキャンプ場の風呂に入るのがせいぜいで、上高地からの帰りも公共交通機関を使い、バスや電車を乗り継いで東京まで半日をかけていた。そんな時代が懐かしくもあるのだが、50代も後半になった今の私たちは、タクシーに分乗して坂巻温泉旅館へ直行。その天然の温泉でゆっくり汗を流す。そして、そのまま坂巻温泉に宿泊される先輩の盛大なお見送りを受けながら、入山時に停めさせてもらったクルマで、私たち同級生パーティー6人は、一路東京を目指した。
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(坂巻温泉旅館)

 東京の実家に置いてあった昔のアルバム。この週末に寄った時にそれを探し当て、持ち帰ることになった。1973(昭和43)年の山岳部夏合宿。私が高校二年生の年で、初めて穂高の岳沢に来た時のことである。以前にも書いたように、それは伝統的に毎年の夏合宿が張られた場所で、歴代の山岳部員にとっての聖地であった。

 おそるおそるページを開くと、次の瞬間に目の中に飛び込んでくる40年前の世界。その合宿二日目の7月21日は快晴に恵まれて、初めて登った前穂高岳の山頂で撮った私たちの記念写真には、後方に槍ヶ岳がしっかり写っている。
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(1973年7月21日撮影)

 そう、その日は本当に天気が良くて、前穂高岳と奥穂高岳のそれぞれのピークからは、理論上見えるべき山はすべて見えたといっていいだろう。まだ7月だから、写真の中の涸沢をめぐる谷の雪渓も雪の量が多い。
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 あの時の私は、前穂の山頂から槍・穂のダイナミックな主稜線を眺めながら、どんなことを考えていたのだろう。何にせよ、あんなに素晴らしいものを見てしまったのだから、私の心はそれ以来もう山から離れなくなった。それは、今回も一緒に登ってくれた同期のT君もきっとそうだったはずだし、今回岳沢にお集まりいただいた先輩方も、きっと同じなのだろう。岳沢が私たちにとっての聖地となった所以である。

 とは言え、一昨年の岳沢巡礼に続き、今回もまた前穂の山頂はガスに覆われていたので、そこからの槍ヶ岳の眺めには、まだ再会できていない。若い頃にピッケルを持って登った天狗沢の眺めも、同様にお預けになった。とても心残りだが、それは、またいつか岳沢へ行くことの理由が出来たということなのかもしれない。

 今回の「岳沢大集合2013」にご一緒いただいた諸先輩の皆さん、そしてH氏を含む同い年の山仲間たちに心からの感謝を捧げつつ、今回の巡礼記を終えることにしたい。

 40年前のアルバムに残された、昔のテント場から見上げた天狗沢雪渓の写真。私たちにとっての山の神様は、あの天狗のコルのV字型の空におわすのかもしれないと、ふと思った。

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コメント 2

H氏

お疲れ様でした。
今回も計画の段階から足回りまで、全てお任せしてしまい申し訳ありませんでした。お陰さまで楽しい山行ができました。
一人だけ部外者であるにも関わらず皆様に温かく迎えていただきありがとうございました。山から下りてきて岳沢小屋横の河原まで諸先輩達が出迎えてくださった時はちょっと感激しました。気分は三浦雄一郎、エベレストからの帰還のようでした。嬉しかったですね。こういう縦のつながりはいいものだなぁ、と思いました。部の伝統なのでしょう。40年という月日の重みを感じました。なんか、その歴史を共有していたかのような錯覚を覚える程、自然に皆様に接していただいたような気がしています。
「弟校」ではありますが、機会があればまた「白州」を持って参加したいと思っていますのでよろしくお願いいたします。
by H氏 (2013-08-13 22:11) 

RK

コメントありがとうございました。そして、今回はこのようなOB会にご参加いただき、重ね重ねありがとうございました。
「一宿一飯の義理」ではないですが、岳沢で一度生活を共にすれば、もう我々全員が仲間です。
今後の「反省会」や次回の企画も含めて、また是非お越しください。
次回はまた、担いでいく酒の量が増えるかも。(汗)
by RK (2013-08-14 06:34) 

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