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雨が降る前に - 奥多摩・三ツドッケ [山歩き]

 台風がゆっくりと近づいている。

 それも、敬老の日の三連休の間に、狙いすましたように日本列島を縦断するコースをたどるという。9月15日(日)には明らかにその影響が出始め、16日(月)は台風上陸で最悪の天候になるようだ。いつもの週末日帰りの山歩きの約束も、これでは延期にせざるを得ない。8月の下旬から週末にかぎって雨というパターンが続いており、延期もこれで三度目。夏の終わりというのは、このように山へ行くタイミングを取るのが案外と難しい。
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 そんな中、金曜日の午後になって山仲間のH氏からメールが来た。
 「明日はどうされるのですか?」
 日・月は台風で雨だが、土曜日の東京近郊の予報はまだ「曇時々晴」程度のものだから、近場でサッと、なるべく早い時刻に帰って来られる山へ行きたいらしい。それも、彼が日頃ホームグラウンドにしている丹沢周辺とは別の山域がいいようだ。

 急に思い立って出かける山行とはいえ、行程表もなしに出かける訳にはいかない。過去に作ってあった行程表のストックの中から一つのプランを選び出し、H氏に送った。それが、奥多摩の東日原からヨコスズ尾根を登って三ツドッケ(1576m)を往復するコースである。上りが2時間50分、下りが1時間50分と、モノの本には書いてある。

 土曜日の朝8時30分にJR奥多摩駅に着く青梅線の電車は、通勤電車並みの混雑だ。ほぼ全員が登山客で、ドアが開くといっせいに改札口に向かい、駅前広場で待つバスへと走って行く。私たちの乗る東日原行のバスも一台の増便が出たが、三連休の登山客が今日一日に凝縮されたかのように、バスは全て満杯だ。

 定刻の8時35分に駅前を出たバスだが、途中の川苔橋でかなりの乗客が降りた。百尋の滝から川苔山を目指すコースは、急登の連続にもかかわらず人気があるようだ。そして8時57分に終点の東日原に到着。ここでもほぼ全ての乗客は鷹ノ巣山を目指す人々で、三ツドッケ方面を目指して歩き始めたのは、私たちの他にはもう一人だけだった。空は東の方が晴れていて、空気は蒸し暑い。
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09:05 東日原 → 10:10 アンテナのある伐採地
 バス停から道路を少し戻り、表示に従って舗装された坂道を登る。程なく、三ツドッケへの登山道が横に分かれるのだが、その道標は何とも素朴ななりで、これから歩くルートが奥多摩の中でも「ローカル線」であることを暗示していた。
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 東京都の最高峰、雲取山(2017m)を最深部とする奥多摩の山々。雲取山の東側には、多摩川の支流である日原川を挟んで南北二つの尾根が東に延びている。南の尾根は「石尾根」と呼ばれ、途中に七ツ石山(1757m)、鷹ノ巣山(1736m)、六ツ石山(1479m)などを擁している。稜線からの展望に恵まれ、歩きやすいので、奥多摩ではメジャーなルートの一つだ。

 それとは対照的に、「長沢背稜」と呼ばれる北側の尾根は(東京都と埼玉県の県境でもあるのだが)、山が深いところで、距離が長くて大変なわりには、樹林に覆われていて展望が少ないこともあり、訪れる人はずっと少ない。今日これから登るヨコスズ尾根と長沢背稜が合わさった所が、三ツドッケの山頂なのである。
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 山道を進むと、程なくつづら折れの登り坂になる。歩き始めだからしんどく感じるかもしれないが、それほどの急登ではない。そして30分ぐらいの我慢を続けると、山道が大きく右に曲がり、ヨコスズ尾根の下部に取りつくようになる。
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 山道の傾斜は緩やかになり、尾根を左手に見ながら、右下がりの斜面をトラバース上に上って行く。右手の谷側は針葉樹の植林、左手の上には広葉樹の雑木林だ。これといった特長のない、やや単調とも思える景色が続くのだが、この雑木林は新緑の季節や紅葉の時期に訪れれば見応えがあることだろう。せっせと登って1時間5分。標高1250mほどの、アンテナ設備のある伐採地で一休みすることにした。森の中だから太陽に直接照らされることはないのだが、蒸し暑くて二人とも既に大汗をかいている。
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10:15 アンテナのある伐採地 → 11:05 一杯水避難小屋
 先を急ぐ。右下がりの斜面を引き続き登っていくと、次第に右側の谷が急峻になり、やがて尾根の両側が痩せた、ちょっとした「馬の背」のような地形がしばらく続く。そして、今度は尾根の左斜面を上って行く道になった。あたりはブナやミズナラの森だ。これもまた紅葉の時期などは素晴らしいのだろうけれど、今日の私たちにとってはいささか単調な景色が続く。

 それでも、せっせと登ってきた甲斐があって、正面に横たわる長沢背稜が木の間越しに見え始めた。そして、そこから一登りで小屋の屋根が見えた。一杯水避難小屋である。東日原バス停から、途中5分の休憩を含めてちょうど二時間。いいペースだ。
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11:05 一杯水避難小屋 → 11:30 三ツドッケ
 事前にコースガイドを読んでいなかったら、 三ツドッケの山頂に上がる道を、私たちは見つけられなかったかもしれない。「酉谷山方面」という道標のある山道を離れ、一杯水避難小屋の出入り口の前に行ってみると、その先の木の根元に、小さな板に「三ツドッケ入口」と手書きされただけの、実にシンプルな道標があった。
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 それに従って登っていくと、尾根伝いに確かに山道が続いている。ひとしきり登ると尾根は次第に痩せてきて、登ったと思ったら下りが二ヶ所ほどある。最後になってそのあたりがしんどいのだが、我慢して登ると、樹林の中からそこだけ頭一つ抜け出した小さなピークに出た。今日の目的地、三ツドッケ(またの名を天目山)に到着である。
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 私たちの他に、先着の登山者が二人いるだけの静かな山頂。やはり長沢背稜はローカル線だけあって、この山頂もいたって地味なものだ。おまけに、ここまで登って来る間に朝の晴れ間はどこかへ行ってしまって、日原川の谷を隔てて見えるはずの石尾根も殆どが雲に隠れている。その更に向こうには富士山も見えるはずなのだが、今日は望むべくもない。
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 台風が近づいていて、早ければ今夜から雨になる。それがわかっていて、それでも雨が降る前に山を歩きたくて、今日の私たちは、ただでさえ登山者の少ない山域にやってきた。案の定、特筆すべき展望もなかったが、それでも、ここまで来られたことが嬉しかった。気心の知れた仲間と、ただシンプルに山を歩く。そのことが、今の私たちにとっては心の洗濯なのかもしれない。
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11:50 三ツドッケ → 13:25 東日原バス停
 計画上は、東日原発14:35のバスを目指して下山するはずだった。だが、朝から道中を頑張れば、一本早いバスに乗れるはずだと、H氏が言う。確かにその通りで、そのバスに乗れれば奥多摩駅近くで温泉に入る時間も十分に取れる。今日は天気が下り坂なのだから、山の中でのんびりする意味もあまりない。

 という訳で、山頂での昼食休憩を20分で済ませ、あたふたと支度をして、私たちは下山を開始した。一杯水避難小屋まで、来た道を戻るはずだったのだが、途中で登って来た登山者とすれ違う時に道を間違え、一杯水よりも東側の、蕎麦粒山に向かう登山道の途中に出てしまった。そこから山道を急いで避難小屋の前に着いたのが12:10。コースタイムが1時間40分の道を1時間20分で降りなければバスに間に合わない。まあ、やって出来ないこともないだろうと、私たちは小走りで山を下りた。

 少し前に三ツドッケの山頂にいた頃に比べても、雲は更に低くなってきたようで、山道の途中にもガスがかかり始めた。一瞬だが、雨がパラついた時もあった。ともかくも、急ごう。

 元々、楽しむべき景色もあまりないルートだったから、私たちは一目散に下る。途中、頑張り過ぎたのが祟って足がつりそうになり、不甲斐ないことにエアー・サロンパスのお世話になったりもしたのだが、頑張ったおかげでバスに間に合う見通しもついてきた。さすがに疲れが出てきたが、足元に姿を見せている様々なキノコの姿にはげまされながら、山道を下り続けた。もう汗だくだ。
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 東日原で予定のバスに乗った私たちは、終点奥多摩駅の一つ手前で下車。以前に山の帰りに寄ったことがある三河屋旅館の温泉に入り、汗を流す。他には誰もいない独占状態で、ゆっくりすることができた。そして、隣のコンビニで買い求めた缶ビールで乾杯。後は電車に揺られれば16:20には新宿に着き、いつもの「居酒屋で軽く一杯」が待っている。

 これだから、山はやめられない。

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コメント 1

H氏

遅くなってしまいましたが今回もアレンジ、ありがとうございました。お陰さまでいい汗をかきました(すぐに補充しましたが)。山頂が狭いのが難点ですが、それ程、混みそうもないのでまたみんなで行きたいですね。
今日、熊ベル買いました(笑)。
by H氏 (2013-09-23 22:52) 

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