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続・葡萄畑の中で [ワイン]

 日曜日の朝早く、北千住駅から乗った東武鉄道の特急「りょうもう号」が利根川の長い鉄橋を渡ると、その先は群馬県だ。車窓からの眺めは一段と広くなり、いかにも関東平野のど真ん中の景色である。11月後半の今は田畑の収穫も終わっているから、その眺めは一層広々としている。

 館林から先の伊勢崎線は単線なので、「りょうもう号」の走りはゆっくりになり、多々良という駅では対向列車二本との待ち合わせだ。外は今日もよく晴れていて、窓から差し込む朝日が暖かい。早起きの身にはそれが眠気を誘うのだが、再び走り始めた電車が小さな川を渡ると、栃木県だ。次の停車駅の足利市はもうすぐである。

 今朝は足利市駅で多くの人々が降りる。目的地は私たちと一緒だ。駅前には既に送迎バスが何台か並んでいたが、時間を節約するために私たちはタクシー乗り場へと向かう。会場までの路は幸いにしてまだ渋滞も発生しておらず、8時40分頃にはココ・ファーム・ワイナリーの入口に着くことが出来た。
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 毎年11月の第三土日に行われる、このワイナリーの収穫祭。家内と二人で出かけるようになって、今年が6回目になる。昨年からは娘も加わるようになった。葡萄畑の中で今年のワインを楽しむ、そんなピクニック気分が人気を集め、入場者は毎年増えている印象がある。音楽の演奏などのプログラムは10時30分からの開始なのに、朝の9時前からもう大勢の人々が畑の中に場所を取っている。

 早起きをして東京を出てきた甲斐あって、結構いい場所を確保できた私たちは、ロゼの新酒で朝から早速乾杯だ。まだ発酵の途上にあるのでアルコール度数は低いけれども、微発泡でフレッシュな味わいがいかにも新酒で、やはりこの時期の楽しみなのである。
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 私たちの隣では、広い場所を先に確保して、メンバーの到着を待ちながら同様に新酒を楽しんでいる人がいた。桐生市在住の方で、これから高崎市に住む知り合いが大勢やって来るという。この収穫祭は何年も前からの常連なのだそうで、色々と話が弾む。お隣同士、初対面ながらすぐに親しくなってしまうのも、この収穫祭が持つ底抜けにハッピーな雰囲気があってのことだろう。

 ある酒造メーカーのホームページを見ると、面白い統計が載っている。1970年から2010年までの、日本におけるワインの消費量の推移を表したものだ。(正確には、沖縄県を除いた統計であるそうだ。) そして、この酒造メーカーによる推計ながら、その消費が国産ワインか輸入ワインかという内訳も出ている。
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 私が大学生だった1970年代後半というと、ワインという飲物はおよそ日常には縁のないものだった。一般庶民にはまだ殆ど知られていなかったと言ってもいいのかもしれない。円高が急速に進んだ時期ではあったが、それによってワインの輸入が急に増えたという訳ではなかった。むしろ、円高のおかげで海外旅行がしやすくなり、多くの人々が欧米を訪れてまずはワイン文化に触れた、そんな時期だったのだろう。

 その後、’80年代半ばのプラザ合意による円高と、それに続く日本のバブル景気の時には当然のことながらワインの輸入量が増えて、日本のワイン市場が拡大していったのだが、実はこの市場が最も伸びたのは、こうしたバブルの時期ではない。それはグラフが示す通り、今から15年ほど前、1997年から98年頃にかけての時期だった。国内でも大手銀行や証券会社が破綻するなど、金融危機が深刻化して、景気は非常に悪かった頃だ。そして日本の外を見れば、タイ、インドネシア、韓国などが降って涌いたような通貨危機に見舞われていた。

 そんな時期に、日本の中でワインの消費量がかつてない伸びを見せたのだ。それは、とりわけ赤ワインに含まれるポリフェノールが持つ効果が注目されたという消費者の健康志向に加え、廉価盤のワインが市場に多く出回るようになった、そんな背景があったようだ。(私はこの時期に海外駐在をしていたので、日本でかつてないワイン・ブームが始まったことには、肌感覚を持っていない。)
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 もっとも、国産ワインか輸入ワインかという内訳の推移を見ると、要はこの40年間続いた長期的な円高トレンドの中で、輸入ワインのシェアが年々増加しており、’97年以降の日本のワイン・ブームの背景には、1ドル100円台前半の為替レートが定着したことが大きかったとも言えるのではないか。それに対して、国産ワインの消費量はこの10年ほど、最盛期の年間10万キロリットルに届かない状況が続いている。

 確かに、今はコンビニで一本500円の輸入ワインを売っていて、普段使いとしては何の問題もなく飲める時代になった。国産ワインとしては、単なる価格競争とは異なるフィールドで戦っていかねばならない。TPPによる関税撤廃の時代に突き進んでいけば、なおさらのことだ。

 だが、それは悪いことばかりではないのではないか。輸入ワインが比率を伸ばす形ではあったが、ともかくもワインを楽しむライフ・スタイルは、この15年ほどで日本の中にすっかり定着している。レストランで高級ワインを飲むということだけでなく、多くの人々が日常のカジュアルな場面で気軽にワインを楽しむようになった。人々がワインを知れば、日本の気候風土や食文化によくマッチした日本ならではのワインの良さをわかってもらえるチャンスも、確実に増えていくはずだ。輸入品との競争があるからこそ、国産品も努力によって輝けるのではないか。(事実、この何年かだけでも、国産ワインの水準は驚くほど高くなっている。)

 だからこそ、機会あるごとに日本のワイン作りを応援して行きたいと、私は思う。
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 気がつけば、お隣の大人数グループはメンバーが続々と集まってきて賑やかになっている。レストランの関係者の家族連れが中心なのだそうで、手作りのオツマミをたくさん持ち寄っている様子だ。話が弾むうちにいつの間にかそのお裾分けをいただいてしまったのだが、自家製のタプナードが素晴らしかった。黒オリーブ、アンチョビ、ニンニク、ケイパーなどを細かく刻んでオリーブ・オイルを加えたものだ。パンやソルト・クラッカーなどに載せて食べるのは言うまでもないが、タコのスライスなどに載せても美味しいという。実はそのタコのスライスまでいただいてしまって、トライしてみたのだが、いやはや、これは絶品である。

 晩秋の青空の下、葡萄畑の中にワイン好きが大勢集まり、「袖振り合うも他生の縁」でお隣さんとも仲良く賑やかに一日を過ごす。こうしたカジュアルなイベントが日本の中に根付いていけば、それがまた日本ならではのワイン文化を醸成していくことにもつながるのだろう。楽しみなことである。

 それにしても、今日は穏やかな秋晴れになった。朝から飲み始めれば、昼前にはもうみんないい気分になっている。ゲストによる演奏の数々で会場が盛り上がってきた頃に、毎年おなじみの勝俣州和の威勢のいい声が響きわたる。

 「皆さ~ん! 元気ですか~っ!」

 今年もまた家族と共にこの収穫祭に来ることができた。五穀豊穣の神様と酒の神様に、そのことへの感謝を捧げつつ、青空に向けてワイングラスを掲げ、大きな声で乾杯をしよう。

 「カ~ンパ~~イ!!!」

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