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晩秋の音色 - 奈良倉山・鶴寝山 [山歩き]

 11月の後半から、関東地方は晴れの日が続くようになった。週末に限って天気が悪いというパターンからやっと抜け出し、第三週の週末に続いて第四週の土日も快晴の予報である。それならば、終わりゆく山の紅葉を惜しみつつ、青空にすっきりと立つ富士山を眺めに行こうか。

 山歩きの好きな人々の考えることはみな同じようで、11/24(日)の朝の中央本線・上野原駅前では、多くの登山客がバス乗り場に行列していた。とりわけ、松姫峠行きのバスは列が長く、増便が一台出たほどだ。

 そのバスは上野原駅から北西方向へたっぷり1時間走り続け、鶴峠バス停に所定の時刻に着いた。私たちと共に大勢の登山客が下りる。標高が850mほどあるので、バスの中でウトウトと居眠りをしていた身には、吹く風が冷たい。それでも、頭の上はどこを向いても雲一つない見事な青空だ。今日の山道から眺める遠くの山々の姿が、早くも楽しみである。
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09:40 鶴峠 → 10:50 奈良倉山

 今日の私たちは総勢9名。いつもの同級生メンバー6名に、高校山岳部のOB・OGから3名が参加して下さった。今年の夏の穂高でも顔を合わせた間柄だから、朝早く高尾駅に全員が揃った時から、もう和気藹々とした雰囲気である。では、さっそく奈良倉山(1349m)を目指そう。

 「三頭山の西側の山って、行ったことがないので。」と言って参加して下さったE先輩。確かに、大岳山・御前山・三頭山まではメジャーなのだが、その三頭山と大菩薩嶺の間は、山々の起伏は続いているけれど、あまり注目されることがない。第一、この山域を何と呼べばいいのか、その名前にも困るぐらいだ。今日これから歩くのは、そうした目立たない山域の中の穏やかな尾根である。

 適度な傾斜で歩きやすく、よく整備された登山道を乗っていくと、20分ぐらいでちょっとした台地のような場所に出る。木々の葉が落ちて、遠くの山々の連なりが見え隠れしている。早くも汗をかき始めたメンバーがいて、衣服の調節のために小休止を取る間、私は彼方の山並みを眺め続ける。右から順に鷹ノ巣山、七ツ石山、雲取山、飛龍山、そして雁坂嶺を経て一番左の甲武信ヶ岳まで、奥多摩最深部から奥秩父にかけての標高2000m前後の稜線だ。
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(最初の小休止)
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(飛龍山)
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(甲武信ヶ岳(左端)から雁坂嶺(右端)までの稜線)

 鶴峠は風が冷たかったが、すっかり葉が落ちているのに森の中は風がなく、太陽の光で明るい。散り積もった落葉を踏みながら、晩秋の味わいを噛みしめるようにして歩くこの時期の山歩きは、私が最も好きなものの一つだ。
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 四駆車なら走れるような未舗装の林道と何度か出合いつつ、山道は高度を稼いでいく。特に急な箇所もなく登り続け、山道が南方向に大きくトラバースするようになると、もう奈良倉山の山頂は近い。といっても、その山頂自体はどこがピークなのかわからないほど、ただの森の中である。そして、左方向を示す「富士山天望所」という道標に導かれて南方向へ進むと、お目当ての富士の眺めが待っていてくれた。
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 山梨県下から南を向くと、時間が昼に近いほど富士山が逆光になってしまう。だから、写真を撮るなら午前中のなるべく早い時間帯を狙うべきなのだが、鶴峠に来るバスは今朝の一本しかないから、奈良倉山に着くのはどうしても11時頃になる。それでも、奈良倉山は山梨県下でも最も東の方で、この位置からの富士山頂の方位角と、11月24日の10:50時点での太陽の方位角との間には、37度ほどの開きがあるから、聳え立つ富士の姿は何とか立体感を保っていた。
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 それにしても、奈良倉山からの富士は誰もが思わず声を上げてしまう眺めである。

11:00 奈良倉山 → 11:35 松姫峠(5分休憩) → 12:05 鶴寝山

 後から大人数のパーティーがやってきたので、私たちは山頂での小休止を切り上げ、山道を進む。森の中を軽く下るとすぐに未舗装の林道に出て、そこから松姫峠までは殆ど高低差がなく、陽当りのよい林道歩きだ。左手は落葉松の黄葉の向こうに雁ヶ腹摺山から大菩薩嶺までの稜線が見え隠れしている。真っ青な空とあたりの紅葉、そして遠い山並み。今日は本当に素晴らしい晩秋の日曜日になった。
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(松姫峠からの小金沢連嶺)

 松姫峠からは明るい森の中の登りだ。これもいたって軽いもので、落葉を踏む感触を楽しんでいるうちに、いつしか鶴寝山(1368m)の山頂に着いてしまう。事前の計算通り、この山頂で一時間近く時間を取れることになったので、私たちは早速ガスコンロ3台を使って9人分の鍋焼きうどんの支度に取り掛かる。
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 うどんと共に煮込む具にもそれなりにこだわり、ちょうどこの時期だからボジョレー・ヌーボーも一杯ずつ分けて、楽しい昼食。雁ヶ腹摺山の稜線から頭を出した富士山を眺めながら、好天の日に山にやって来たことの喜びを、私たちは分かち合った。
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13:00 鶴寝山 → 13:20 山沢入りのヌタ → 13:50 分岐 → 14:45 小菅の湯

 再び山道を進む。鶴寝山から先は一段と落葉が深くなり、起伏の穏やかな尾根が続いている。まだ午後1時を回ったばかりなのに、太陽の光はずいぶんと傾いてきて、その色にも赤みがさしてきたような印象がある。冬至まであと一ヶ月足らず。秋の日は早い。

 晩秋の色に包まれた、緩やかな尾根道。そのしみじみとした味わいは、どこかチェロの音色のようだ。となると、思い浮かぶのはバッハの無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュード。平明なメロディながら、それがチェロで演奏されることによって、地味で抑制の効いた、それでいてどこかホッとするような暖かさのある音楽の世界が広がって行く。山奥深くでそんなことをふと思ったのは、山道に散り積もった枯葉の色とそこに差し込むかすかに赤い午後の光が、私の中で連想を呼んだからなのだろうか。
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 モノラル録音ながら心にずっしりと響くパブロ・カザルスの演奏を思い出しつつ、北の方角を眺めると、飛龍山の手前に横たわる尾根で、落葉松の林が黄金色に輝いていた。

 鶴寝山から約20分。山沢入りのヌタと呼ばれる場所で山道が分かれる。私たちと同じく、誰もがここで右へ折れ、小菅の湯へと下る道を選ぶのだろう。そうでない方の山道を歩く人はいないのか、そこは落葉に深く埋もれていた。

 そこからは山道が一本調子に高度を下げていき、沢に出たところで大きなブナの木を見上げながら、一度尾根道になり、更に沢へと下ると、後は渓流沿いの道が続く。ワサビ田が現れるようになると林道も近くなり、小菅の湯までは30分ほどである。
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 温泉で半日の汗を流し、15:38発の村営バスに乗ると、金風呂というバス停で奥多摩駅行のバスに接続している。途中、奥多摩湖畔の最後の紅葉を車窓から楽しみ、奥多摩駅に着くと20分の接続で16:58発のホリデー快速に乗れる。その電車が出る頃には、外もすっかり暗くなっていた。

 この次に週末の山を歩く時には、あたりの景色も殆ど冬の装いなのだろう。それを眺めながら、今度はどんな音楽が思い浮かぶだろうか。それを楽しみにしつつ、私もそろそろ冬支度を始めることにしよう。

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