SSブログ

57歳の修学旅行 [自分史]


 東海道新幹線の「のぞみ」を利用すると、今は東京から2時間18分で京都に着く。N700系は座席の足元が広々としていて、リクライニングも含めて座り心地は快適である。壁面や窓のしつらえは何だか航空機のようだ。無線LANによるインターネット接続サービスもあって、まさに現代の新幹線車両である。

 今から40年と2ヶ月前、つまり昭和48年の11月に高校の修学旅行で私たちが東京駅から乗ったのは、当然のことながらダンゴ鼻のO系新幹線車両だった。東京オリンピックに合わせた新幹線の開業から9年後のことだ。前年の春に新幹線は岡山まで延伸されていた。その当時のダイヤでは、東京から京都まで2時間53分を要していたが、まあそれでも高校生の修学旅行に新幹線を利用するようになっていたのだから、日本もそれなりに豊かな時代に入りつつあったのだろう。但し、その前月には第四次中東戦争が起こり、それを契機とする第一次石油危機が始まっており、私たちが修学旅行に出かけた頃は、トイレットペーパーの買い占め騒ぎが日本各地で起きていた。
excursion 00.jpg

 1月25日(土)の午前10時半。京都駅の新幹線八条口を出たところで、高校時代の級友である男女13人の笑顔が揃った。これから一泊二日で京都に滞在するために集まったメンバーだ。その中で一人だけ荷物が小さいのが、京都在住10年のK君。今回の旅行のキー・パーソンである。

 高校を卒業したのはもう39年も前のことだが、私たちは今もほぼ毎年1回のペースでクラス会を開いている。42人のクラスメートの内34人までは、少なくともEメールで連絡が取れる。実際に集まれるのはその内の半数ぐらいであることが多いのだが、まあ良く集まれている方だとは思う。

 もっとも、地方在住のメンバーにとっては、東京で開くクラス会への参加は簡単ではない。京都の大学に研究室を持つK君もその一人で、参加してくれる時はいつも公私にわたる用事をかなりやりくりしている様子だ。(彼自身、自宅は首都圏にあって、京都では単身なのである。)

 そうであれば、たまにはK君のスケジュールに合わせて私たちが京都に出向き、現地でクラス会をやってもいいのではないか。京都と言えば、高校時代の修学旅行で訪れた所でもあるし・・・。級友たちと集まるたびにそんな話が浮かんでは消えていたのだが、この冬にいよいよそれが実現することになった。高二の秋に修学旅行で奈良・京都へ行ったのが、ちょうど40年と2ヶ月前。復刻版の修学旅行を企画するにはいいタイミングなのである。

 京都駅八条口からは、借り上げのジャンボ・タクシーで移動。車内は誰もが57歳ながら、早くも高校時代に戻ったような雰囲気だ。堀川通りを北上し、左へ曲がって街中を通り抜けていくと、北野天満宮の前は多くの参詣者で賑わっている。そういえば受験シーズンもこれからが本番だ。そして、京福電鉄の北野白梅町の駅を左に眺めながら西大路通りを北上すると、やがて金閣寺の前に出る。
excursion 01.jpg

 当時、奈良に二泊、京都に三泊した私たちの修学旅行は、確か6人1組のグループを作り、毎日の行動計画はグループ毎に自由だった。(但し、事前に行動計画を提出する必要があった。) 何をするにも自由な学校だったので、京都といえども寺社仏閣巡りに限る必要もなかった。私のいたグループは、嵐山から保津川下りなんかに出かけた記憶がある。(11月の下旬で、川下りの船はとても寒かった。)

 そんな風に行動計画はグループによって違ったから、「復刻版の修学旅行」といっても、おそらく多くのグループが訪れたであろう代表的な寺院を、今回は訪れてみることにした。となれば、何はさておき、まずは金閣寺だろう。

 鹿苑寺金閣の「昭和大修復」が行われたのは1986~87年のことだから、高校時代に私たちが見たのは、その大修復より10年以上も前の金閣である。それは紅葉のきれいな時期だったのだが、どこも観光客で押すな押すなの大賑わいだったというような記憶はなく、どこへ行っても実にのんびりとしたものだった。それが、今は1月下旬の真冬だというのに、金閣には大勢の観光客が訪れている。それも外国人が非常に多い。飛び交う言葉も中、韓、英、露・・・実に様々である。
excursion 02.jpg

 金閣の次は、そこからほど近い龍安寺へ。今日は季節外れとも言うべき暖かさで、枯山水の石庭を眺める縁側には太陽がよく当り、そこに座っていても下が冷たくないのは幸いだ。
excursion 03.jpg

 石庭を見終わった後、私たちはこの龍安寺の境内の中にある西源院に予め席を取っておいたので、昼食に名物の湯豆腐をいただく。ここでも私たちは修学旅行の気分そのままなのだが、40年前のあの悪童たちが今こうして湯豆腐の鍋を囲んでいるなんて、何とも不思議だ。
excursion 04.jpg

 軽めの昼食を済ませると、午後は大徳寺を訪れ、平安神宮に近いホテルに一度荷物を預けると、再びジャンボ・タクシーで三十三間堂へ。千手観音立像がずらりと並ぶ国宝の本堂は、応仁の乱の戦火を逃れた稀有な建物で、これは何度訪れても圧倒されるのだが、外は季節外れの暖かさでも、この本堂の中だけは冷え切っていて寒い。そして、午後の日もだいぶ傾いてきたから、コートを着込んで、今日最後のスポットである清水寺へと向かう。
excursion 05.jpg

 清水寺の境内も真冬とは思えないほどの賑わいなのだが、その門前に続く商店街が、日暮時ながらこれまた大賑わいだ。産寧坂、二年坂と京都らしい風情の坂道をぶらぶらと下り、時刻は17時半に近くなった。
excursion 05-2.jpg

 夕食は、京都在住ならではのノウハウを使って、高台寺の近くにある素晴らしいイタリアンのお店をK君が用意していてくれた。緑深い敷地の中の和風建築と、そこで振る舞われる京都ならではの感性にあふれたイタリア料理の数々。今日一日の行動のフィナーレを飾る、実に素敵な時間だ。
excursion 06.jpg

 40年前の修学旅行で泊まった京都の旅館は、今も健在なのだそうだ。それは三条河原町に近い所にあって、学校の修学旅行用に長年使われているという。当時のことだったから、揃いも揃った悪童の私たちは、夜中に旅館を抜け出したりしたし、今はもう時効なのだろうが、煙やアルコールが全くなかった訳でもなかった。

 今でも時々話題になるのだが、私たちが宿泊していたある夜、その旅館の前を夜鳴きラーメンの屋台が通りかかった。それを二階の窓から見ていた誰かが冗談半分に屋台のオヤジさんに声をかけたら、何と二階の相手にも注文を取るという。ラーメンが出来上がると、オヤジさんは私たちめがけて縄を投げ、小さなポリバケツの中にラーメンの丼を入れる。私たちがその縄をたぐると、ポリバケツが屋台から宿の二階の私たちにロープウェイのようにして運ばれるのだった。その様子に私たちは拍手喝采。夜の夜中に大声をあげたので、周りの民家から「静かにしとくれやす!」とクレームが出たものだった。
excursion 07-1.jpg
(当時私たちが修学旅行で宿泊した旅館)

 そんな悪童たちが、この歳になって再び京都に集まり、神妙な顔をして龍安寺の石庭を眺め、三十三間堂の千手観音像と向き合い、そして夜はお洒落な場所でイタリア料理を楽しんでいる。それはやはり、40年という歳月の賜物なのだろう。そして、高校を卒業した後も、折にふれて集まり、お互いに感化されながら、友達の関係を今までずっと続けて来た、そのことのおかげであるのかもしれない。

 私たちもいよいよ還暦に近くなり、何年かのうちには仕事から離れていくことになるのだろう。お子さんが既に所帯を持つようになったメンバーもいるし、今回の中心人物のK君などは、もうお祖父ちゃんだ。人生の中で、これからまた新しいステージが皆にも始まろうとしている。そうであればこそ、これから先の人生では、皆との友達関係を一層大切にして行きたいものである。
excursion 07-2.jpg
(祇園の夜は更ける)

 素晴らしいディナーから一夜明けて、日曜日の午前中は南禅寺から銀閣までのコースを皆で散策。このコースも修学旅行の時に歩いた記憶がある。石川五右衛門の「絶景かな」で有名な南禅寺の山門に上がって記念撮影。あの時もこんな風にして写真を撮ったかな。
excursion 08.jpg

 そして、銀閣から1kmほど歩いた住宅地の中にある、まさに隠れ家といった感じのフレンチ・レストランで昼食をとり、私たちの「復刻版 修学旅行」も全プログラムを無事に終了することになった。アクシデントもなく、40年の歳月を行ったり来たりの一日半を皆で楽しむことができて、本当に良かった。そして、研究の仕事に忙しい中、三回の食事に素晴らしい場所を選んでくれたK君には、お礼の言葉がうまく見つからない。
excursion 09.jpg
(最後に皆で昼食をとったフレンチ・レストラン)

 和やかに昼食を終えて外に出ると、思わずコートの襟を立てる。昼前までは季節外れの暖かさが続いていた京都の街も、冷たい北風が吹き始めていた。これからまた、寒い冬に戻るのだろうか。

 ここから先は、もう少し京都に留まるメンバー、東京に戻るメンバーそれぞれになる。全員揃っての行動はここまでだ。私を含めた6人は、京都駅へ向かうためにタクシーをとめた。

 また会おう。みんな元気で!

 鴨川沿いに南下するタクシーの窓から西の空を眺めると、午後の陽を浴びた冬の雲が足早に流れて行った。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

八幡さま鬼は外 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。