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下界の花 - 棚横手山・甲州高尾山 [山歩き]


 4月第二週の週末。東京ではもうすっかり葉桜だが、大月で乗り換えた小淵沢行き普通列車の窓の外では、いたるところの桜が満開だ。東京よりも一週間から10日ほど遅い感じだろうか。

 「この間テレビで言ってたけど、標高が100m高いと桜の開花が3日遅いんだって。」

 隣に座っていた山仲間のT君が、初狩駅の南側のこぼれそうなほど満開の桜を眺めながら、そう教えてくれた。なるほど、大月駅の標高が360mほどだから、その計算でいくと、東京の我家の最寄駅(標高26m)とは10.02日の差になり、目で見た印象と確かに合っている。

 やがて列車は笹子トンネルを抜けて甲斐大和駅に停車。この駅もホームの桜がきれいだ。だが、何といっても圧巻はそれから5分後のことだった。新深沢第二トンネル、そして新大日影第二トンネルを抜けた次の瞬間、私たちの目の前に現れたのは、線路に沿って左の車窓に続く満開の桜並木。勝沼ぶどう郷駅に停車するために速度を落とした列車の窓からは、しばらくの間、桜の花以外は何も見えないほどだ。車内では女性たちの歓声が上がる。なるほど、これが勝沼名物の「甚六桜」なのか。私も満開の時にそれを見たのは初めてのことだ。今日は何とも絶妙のタイミングになった。
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(桜が満開の勝沼ぶどう郷駅)

 4月13日(日) 08:39 勝沼ぶどう郷駅に到着。丘の中腹にある駅前広場からは真西の方向の眺めがよく、だいぶ霞んではいるが雪を抱く南アルプスの山々が見えている。今日の山梨県地方はゆっくりと天気が下り坂に向かう予報だが、私たちがこれから登る山の上からも、南アや富士山を眺めることが出来るだろうか。
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(駅前広場からかすかに見えた南アルプス)

 頼んでおいた3台のタクシーに分乗し、私たち11人の山仲間は大滝不動尊の奥宮を目指す。棚横手山(1306m)・甲州高尾山(1106m)の登山口である。

09:15 大滝不動尊奥宮 → 09:35 展望台分岐 → 10:00 稜線出合
 
 林道の終点でタクシーを降りると、そのすぐ先が大滝不動尊奥宮の仁王門だ。門をくぐると、前滝を右手に見ながら急傾斜の石段が続く。それを登り切って本堂にお参りし、その先を右に行けば山道が始まる。
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 薄暗い森の中を登っていくと、倒壊したお堂が目の前に。今年二月の大雪の際に、柱がその重さに耐えられなかったのだろう。お堂の立派な屋根はそのままの形を残しているだけに、倒れた姿が余計に痛々しい。
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 緩やかな登りが終わると未舗装の林道に出る。右に行けばすぐ先が展望台だ。5年前に初めて訪れた時に比べると、周囲の木々が育ったようで、甲府盆地を見下ろすという謳い文句も今一つになったかな。ここで衣服を調整し、私たちは未舗装の林道を左の方へ進む。これが案外と上り坂だ。しかも、右手の斜面が北向きなので、二月のバレンタインのあの大雪から丸二ヶ月が経つのに、残雪が現れ始めた。それもまだ結構な深さだ。あたりは標高がちょうど1000mほどだから、周囲の木々もまだ冬の装いのままである。
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 今日これから目指す山道は、この林道から右へ分かれて山の中に入り込んでいくのだが、その登山道が始まる地点は雪に覆われていてわからない。それでも、斜面の上の方に山道が見えるので、私たちは斜面を無理やり登って登山道に取りつくことになった。

 森の中を緩やかに登っていくと、次第に頭上が明るくなり、棚横手山と甲州高尾山を結ぶ尾根が近いことがわかる。それから一登りで尾根に上がると、東から南にかけての展望が一気にひらけた。
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 何といっても目を引くのは、御坂の山々の背後に聳える大きな富士山だ。そして、いつもとは違った角度で眺める三ツ峠山が堂々としていて、その手前には笹子の山々が連なっている。
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10:10 稜線出合 → 10:32 棚横手山 → 11: 30 甲州高尾山
 
 眺めの良い場所での小休止を終えて、私たちは棚横手山を往復してくることにする。明るい尾根に沿って標高差100mほどを登ると、舗装林道を横切る。そして、コンクリートの法面上に作られた階段を上って更に尾根筋を登って行くと、南側の見晴しが一段と良くなってきた。そして、先ほどの休憩場所から20分ほどの登りで棚横手山のピークに到着。かなり霞んではいたが、南アルプスや八ヶ岳なども見えていた。
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 ここからの眺めで私の印象に一番残ったのは、勢揃いした御坂の山並みだったかもしれない。特に、笹子峠よりも西側に来ないと眺めることが出来ない山々を、今日は一つ一つ確認することが出来る。東京から日帰りで行こうとすると結構遠い山々なのだが、いつか機会を見つけて歩いてみたい所である。
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(棚横手山頂上からの富士・御坂方面の眺め)
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(棚横手山頂上からの笹子方面の眺め)
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 山頂での小休止を切り上げて、尾根を下る。今日の行程は、ここからは下りばかりだ。大滝不動尊から登って来た道との分岐を過ぎると、尾根を忠実にたどれば富士見平という小さなピークまで登ることになるのだが、遠くの山々は棚横手山から眺めてきたので、今日は左手の巻き道を進むことにする。ここはかつて何度も山火事が発生し、向かって左側の斜面の森が焼けてしまったために、結果として抜群に眺めのよい山道になった。山火事の跡は草地で、植林された木々もまだ幼木のような高さだ。
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 気分のよいトラバース道が終わり、左下に舗装林道を見下ろしながら尾根沿いに多少のアップダウンをやり過ごすと、眺めの良いピークに着いた。甲州高尾山には三つのピークがあって、私たちが下って来た方から見ると、一番遠いピークが剣ヶ峰(国土地理院の地図で1091.9mの三角点のあるピーク)。その手前が「甲州高尾山」という道標のある中央峰。そして今私たちが立っているのが、無名ながら一番標高の高いピークだ。遠くの山々の眺めはここが一番良さそうだから、私たちはここを昼食の場所に決めた。
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 今日は山の上で1時間ほどをかけて昼食を楽しもうという趣向だ。メニューはT君の十八番・山形の芋煮とタケノコ飯である。天気は非常にゆっくりとした下り坂で、富士山や南アルプスは朝よりも霞んできたが、風がなく、実に穏やかな空だ。私たちは赤ワインを開け、持ち寄った食べ物を分け合いながら料理の完成を待つ。そしてそれは今回も美味しく出来上がった。眼下の甲府盆地の春景色を眺めつつ、私たちは山の上で熱々の食事を共にすることの幸せを噛みしめていた。

13:00 甲州高尾山 → 14:00 送電鉄塔 → 14:35 大善寺

 山頂での居心地の良さに、ついのんびりしてしまった。下山を始めることにしよう。花の季節に誘われて、今日はこの山域にしては登山者が多いようで、色々なパーティーが棚横手山からの尾根を下り始めている。
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(これからの下山路)

 甲州高尾山の三つのピークを過ぎると、登山道はとんとん拍子に尾根を下って行く。高度が下がるにつれて下界の眺めも近くなり、右下に勝沼ぶどう郷駅が満開の桜に包まれているのがよく見える。その向こうの畑は一斉に咲いた桃の花で埋め尽くされている。今日の甲府盆地は、まさに桃源郷そのものだ。
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(尾根の上から勝沼ぶどう郷駅を見下ろす)

 甲州高尾山から1時間ほど下ると左手に送電鉄塔が現れる。登山道はそこから尾根を左にそれて、急傾斜の山腹を大善寺めがけて降りていく。前回ここを歩いた時はもっと夏に近く、蒸し暑い季節だったので、この下りは案外こたえた記憶があるのだが、今日は湿度も少なく快適な天候なので、我々の足取りも軽快だ。やがて山道が左手の畑に沿うようになると、もう下界は近い。前方には五所大神社の桜が見えてきた。
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 14:35 桜の名所・大善寺に到着。すぐに呼んだタクシーで「ぶどうの丘」に向かう間、窓の外はいたる所で桜と桃が満開だった。山に登り、下りてきて、里に咲き揃う満開の桜をこれほど堪能したことも他にはない。その桜や桃は、「ぶどうの丘」にある日帰り温泉「天空の湯」の露天風呂からもゆっくりと眺めることが出来た。
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(「ぶどうの丘」からは電車の駅がよく見える)

 16:28 駅のホームに上りの特急「かいじ」が滑り込んできた。これに乗れば、勝沼の桜ともお別れである。名残惜しいが、明日あたりには桜吹雪がもう始まるのだろう。その儚さが、春なのだ。
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 これ以上ないほどの満開の花を愛でつつ、仲間たちと山を歩いた一日。そのことはしっかりと、私の記憶にとどめておきたい。
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