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真夏の雪 - 鳥海山・月山 (1) [山歩き]


 8月2日(土)、午後2時の新宿南口は炎天下で暑いことこの上ない。真夏の暑さが一気にやって来た上に、私は登山用の30リットルのザックを担ぎ、手にも荷物があるから、少しの距離を歩いただけでもう汗まみれだ。

 南口から甲州街道を少し歩いて最初の信号を右に曲がった所で、旧友のT君がクルマを停めて待っていてくれた。荷物を積んで、早速出発。今日はこれから山形・秋田両県の県境まで、530kmの長い道のりを走らねばならない。月曜日に休暇を取り、土曜の午後発の二泊三日(但し初日は車中泊)で東北の鳥海山(2236m)と月山(1984m)に登って来ようという計画なのである。

 山手通りから首都高に入り、板橋、江北、川口の各ジャンクションを経由して東北自動車道へ。その後は宮城県の村田ジャンクションで山形自動車道に入り、月山インターまでは高速道路がつながっている。土曜の真昼と夕方の間を狙って出発したおかげで下り方面の道路は空いており、ハンドルを握るT君も快調に飛ばしていくので、NAVITIMEの計算よりも早いペースで我々は北上を続けた。
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 今回の山行を立案したのはT君だった。山の先輩たちを含めて他に何人かにも声をかけたようだが、かなり直前になってからの企画だったので、結果的にはT君と私の二人だけになった。彼と二人で東北の山へ行くのは、よく考えてみたら大学一年の夏に飯豊連峰に登った、その時以来のことだから実に37年ぶりということになる。あの時は上野発の夜行列車で磐越西線の山都駅まで行き、飯豊連峰を南から北へ抜ける山旅だった。もちろん、今よりも遥かに体力があった頃のことだ。

 あの時は飯豊の山々を歩いて雪渓を下り、最後は米坂線の小国駅へ出て山形へ向かった。T君の下宿に転がり込むためだった。彼は山形の大学に通っていたのだ。8月のお盆明けぐらいの頃で、大学はまだ長い夏休みの最中だったから、彼の下宿にはそれから何泊かさせてもらった覚えがある。二人で仙山線の電車にのって、山寺へも行ったかな。その頃の自分よりも、今の息子の方が年上になっているのだから、歳月は流れたものである。

 東京生まれ・東京育ちの人間にとって、初めて地方で暮らしたという経験はいつまでも記憶に残るものだ。ましてそれが雪国であれば、今でも体で覚えているようなことが少なくない。私にとって社会人としての最初の三年を過ごした北陸・富山がそうであるように、T君が大学時代を過ごした山形は、彼にとっての第二の故郷のようなものなのだろう。

 その彼が在学中にピークを踏み損ねていた山の一つが、鳥海山だという。今回の短い休みを使って東京からそこまで足を延ばすのはちょっと慌ただしいかなとも思ったが、月山と組み合わせた今回の計画について彼とメールのやり取りをしているうちに、山形に対するT君の並々ならぬ思い入れを感じた私は、彼のお奨めに従うことにした。鳥海山も、今回の登山口こそ秋田県内だが、山頂は完全に山形県内にある山なのである。

 山形自動車道が山形盆地を北上して寒河江に向かう頃、正面に穏やかな山容の月山のシルエットが見え始めた。
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 時計は午後6時を回り、黄昏時が始まろうとしていたが、傾いた夏の太陽はまだまだ元気で、山形県下も快晴が続いている。この先、月山ICと湯殿山ICの間は一般道を走ることになるので、暗くなる前になるべく先を急ごうと、私たちは寒河江SAでの休憩もそこそこに出発。そして、一般道区間を終えて再び山形自動車道に入り、トンネルを超えて車窓に庄内平野の夜景が広がり始めた頃、藍色の北の空の下に大きな山の形がまだ見えていることに気がついた。それが鳥海山だった。

 「やっぱりデカいなあ!」
 私たちは驚きと憧れを持って、その大きな山のシルエットを追った。日はとっくに暮れて、西の空の最後の残光もそろそろ消えようかというのに、鳥海山が頂上まで見えている。よほど天気がいいのだろう。明日もそれが続いてくれるといいな。

 鶴岡ICを過ぎて山形道は日本海東北自動車道と合流。最上川を渡って酒田みなとICに着くと、自動車専用道路はそこで終わりだ。今夜の目的地である鳥海山登山口の駐車場に着く前に、私たちはどこかで晩飯を済ませておかねばならない。酒田市内へ戻るようにして県道を進むと、ファミレスやコンビニの集まる一角があったので、そこに駐車。午後8時少し前だった。

 クルマの外に出ると、最上川に近い方角からパンパンと花火の音が響いてくる。たまたま近くにJR羽越本線をオーバーパスする道路があったので、そこまで上がってみると、その花火が見えた。事前には全く知らなかったのだが、8月2日(土)は「酒田花火ショー」の当日だったのだ。これはちょっとトクをした気分である。私たちにとっては、ちょうど明日の登山の前夜祭だ。
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 ファミレスで晩飯を済ませた後、再びクルマに乗って今日最後の一走り。あと30~40分というところだろう。殆ど信号もなく真っ暗な国道7号線を北上し、道路標識に「十六羅漢岩」の文字が見え始めると、間もなく鳥海山の山麓へと上がる県道(鳥海ブルーライン)との分岐になる。この県道をひたすら上がり、登り切ったところが鉾立駐車場だ。鳥海山に登る幾つものルートの中で最も一般的な象潟ルートの登山口になっていて、ビジターセンターなども置かれている。

 午後9時45分。その駐車場の一角にクルマを停めた。ここで夜を明かそうという登山者たちのクルマが他に何台も来ている。中にはテントを広げているパーティーもあった。海を見下ろす側に歩いて行ってみると、漆黒の闇の中に象潟あたりの町の灯りが輝いている。海の彼方にも灯りが幾つも見えるが、あれは漁船だろうか。松尾芭蕉が『奥の細道』で訪れた最北の地・象潟。今日の午後2時に東京・新宿を発って、思えば遠くへ来たものだ。
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 そして、頭の上はよく晴れた夜空で、文字通り満天の星だ。天の川もはっきりと見えている。風もなく、実に素晴らしい夏の星空。明日の朝は4時起きの予定だが、こんなに見事な星空にはめったに出会えないから、今夜はもう少しそれを楽しむことにしよう。T君と私は駐車場の地面の上に腰を下ろし、星空を見上げながら缶ビールで一杯やることにした。
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(北斗七星と北極星)

 明日も快晴が続くだろうか。
(To be continued)


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