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山の上のアジア食堂 - 小金沢山 [山歩き]


 日曜日の朝6時38分、新宿から乗ったJR中央線の各駅停車が立川駅に到着すると、向かい側のホームに6時43分立川始発の甲府行き普通列車が入線するところだった。

 私は二つのことに驚いた。一つは、その列車に乗るためにホームに並ぶ人々の数が非常に多いことだ。私たちのようにザックを担いだ登山者、もっと軽装でトレイル・ランナーのような人々、そしてそのようなアウトドア・スポーツとは特段関係のなさそうな人々・・・。各種入り混じっているが、とにかくホームの上は人で溢れている。

 もう一つは、入線してきた電車が普段見慣れないものだったことだ。中央本線の高尾以西を走る普通列車といえば、115系電車に決まっていたのだが、今朝やって来たのは「長野色」に塗られた211系電車なのだ。私たちが乗った先頭車は全てクロス・シートだった。いつの間にこの電車の運用が始まったのだろうか。確かに115系はいささかくたびれていたから、乗り心地はだいぶ改善されることだろう。

 定刻の6時43分、平日朝の通勤電車並みの混雑状態で、甲府行き普通列車は出発進行。途中駅で降りていく人々は極めて少なく、大月でもそれほど多くは降りなかった。結局、立川からずっと立席のまま私たちは甲斐大和で下車。他の車両からも登山者が次々に降りてきて、ホーム前方の階段を上がる。そして、小さな駅前広場には小型バスが並んでいて、登山者が列をなす。大菩薩嶺の登山口にあたる上日川峠行きのバスが、この日は結局2台の増発になった。

 そして、山の中へと入っていく道をバスに揺られて登ること30分。8時50分少し前に、私たち7人のメンバーは標高1600m弱の小屋平バス停に到着。落葉松の森の中の、いつもながら気分のいい場所だ。頭の上の紅葉に早くも見とれてしまう。
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 バス停の手前には山仲間のT君の車があった。彼を含めて5人のメンバーが私たちより一足早く着いて、もう既に行動を開始しているはずである。今回は私たちより11年先輩のHさんご夫妻もご参加されているのだが、私たちとはどうしてもペースが違う、そのあたりにT君が配慮してのことだ。

09:00 小屋平バス停 → 10:10 石丸峠
 小屋平バス停から石丸峠へと向かう登山口は、上の林道まで標高差180mほどの登りがいきなり始まる。歩き始めからこの登りは、体がまだ暖まっていない時は意外とこたえるのだが、今は秋。赤や黄に染まった木々の様子を楽しみながら、一歩ずつ登っていこう。

 20分ほどでこの登りを終えて未舗装の林道に出ると、250m先に新たな山道が待っている。西側の展望が開けていて、青空の下に南アルプスの峰々がズラリと勢揃いしていた。中でも目を引くのが甲斐駒ケ岳の尖ったピークだ。こんなに素晴らしい青空が、今日一日続いてくれるだろうか。
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(左から、北岳、鳳凰三山、甲斐駒ケ岳)

 北側に聳える大菩薩嶺を眺めながら、山道に入る。最初は尾根筋をつづら折れに登って行くのだが、標高差100mほどを登りきれば、後は緩やかな登りになる。落葉松のきれいな黄葉が続く、私の大好きな山道だ。
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 そして、右手には樹々の間に富士山の大きな姿があった。3日前の木曜日に今年の初冠雪を観測した富士山。胸から下に雲を纏っているが、私たちがこれから登る小金沢山の山頂からも、是非その姿を見せて欲しいものだ。
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 落葉松の森の中を緩やかに登り続け、その足元に苔むす場所を過ぎると、そこから一登りで今度は景色が一変して、見晴らしのよい笹原が続くようになる。大菩薩湖(上日川ダム)を見下ろし、その遥か彼方には再び南アルプスが勢揃いだ。
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 そして、南側には今日これから登る小金沢山へと続く稜線が続き、小金沢山のピークの右奥に富士山が再びその姿を見せている。
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 だが、富士の高嶺はこの場所を最後に、今回の山行では姿を隠してしまうことになった。天気図上では移動性高気圧に覆われてピーカンの青空になるはずだったのに、東の空から頻りに雲が沸いては西へと流れていく。赤や黄色に彩られた小金沢山の山肌も、流れていく雲のために日陰になって、錦秋の鮮やかさがくすんでいるのが、ちょっと残念だ。

 笹原の斜面をトラバース状に緩やかに下り、10時10分に石丸峠に着いた。

10:15 石丸峠 → 11:35 小金沢山
 先へ進もう。笹原の中の石丸峠から軽く登り、小菅村の山々に連なる稜線上の山道(いわゆる「牛の寝通り」を左に分けると、標高1957mのちょっとしたピークに上がることになる。ここから先、狼平と呼ばれる草原までの間は実に見晴らしが良く、地形も穏やかで、山にやって来たことの幸せをかみしめたくなるようなコースだ。右の彼方に南アルプス、正面には延々と南下を続ける小金沢連嶺のどっしりとした稜線。そして左の彼方には奥多摩の山々。四方八方を眺め回しながら、のんびりと歩きたい場所である。ここから尾根続きの大菩薩嶺とは違って、登山者がずっと少ないのもいい。
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(1957mピーク付近)
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(正面に小金沢山が聳える)
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(もう一度北岳と甲斐駒のクローズアップ)

 笹原を下りきって狼平を過ぎ、再び登りが始まると、今度は一転して深い森の中の道になる。それも、岩と岩の間にはびこる木の根を分け、両手も使って登って行くような道だ。一度下り、その先にまとまった登りがある。標高差は100m程度ながら、案外と手ごたえのある登りだ。それが間もなく終わろうとする頃に、私たちよりも先に行動を始めていたT君やHさんご夫妻ら5人のパーティーに追いつくことになった。
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 この登りが終われば、その先はアップダウンが殆どない稜線上の山道になり、小金沢山のピークまでそれほど時間はかからないはずだ。私たち7人のパーティーは先発隊の前へ行かせてもらうことにした。ピークで先輩をお待ちしよう。

 なおも登り続け、森の中の道ながら頭の上が少しずつ明るくなっていくと、山頂は近い。そして、11:35に小金沢山のピークに到着。お目当ての富士山は残念ながら雲の中に隠れてしまったが、西の空は引き続きよく晴れていて、八ヶ岳の主峰・赤岳がよく見えていた。
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(小金沢山の山頂から南方向の眺め。富士山は雲の中だった)
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(山頂からよく見えていた八ヶ岳の核心部)

 持ち寄ったフルーツなどを分け合いながら、山頂で過ごす一時。紅葉シーズンだからか、想像以上に登山者の数も多い。大きなザックを背負って、我々とは反対方向から登ってきた登山者たちは、昨夜は湯ノ沢峠にでも泊まっていたのだろうか。

 私達が追い越させていただく形になったHさんは、私の高校山岳部の先輩である。いや、11年も年上なのだから大先輩と言うべきである。彼のすぐ後ろの世代の人たちからすると、昔から怖い先輩であったそうだ。そのHさんは昨年に脳梗塞を患われた。そして、そのリハビリのために奥様と山を歩いておられる。今年の早春の頃にも、裏高尾の景信山から陣馬山への山道の途中で、ご夫妻にバッタリ遭遇したことがあった。

 何十年も前に高校山岳部で山登りのイロハを叩き込まれた人間に共通することなのだが、Hさんも歩行にはストックを使わない。二本の足だけでどっしりと大地を踏みしめながら、一生懸命に登っておられる。今日の行程も、笹原の中の緩やかな道ならともかく、木の根や岩につかまりながらのコースはご苦労が多いことだろう。それでも登るという強い意志。私が同じ境遇に立たされたら、Hさんと同じことが自分には出来るだろうか。

 私たちが山頂に着いてから10分ほどが経過した頃、木々の間からそのHさんご夫妻が現れた。とうとう登られたのだ。よかった!私たちは歓声を上げてお迎えし、全員での記念写真にも入っていただいた。
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11:50 小金沢山 → 11:40 狼平
 山を降りよう。お昼にさしかかり、腹も減ってきた。ここから狼平まで戻る山道でのHさんご夫妻のサポートはI先輩に任せることにして、T君が今度は一人で先に駆け下り、狼平で昼食の用意を始めているという。私たちもT君に続いて、登って来た山道を戻る。

 狼平は一面の笹原の中にポツンと一本の木が立った、何とも牧歌的な風景が印象的な場所だ。前回来た時にもそこで昼食にしたのだが、今回は小屋平から帰りのバスを一本遅らせて、この狼平でゆっくり過ごせる時間を確保することにしていた。せっかくなら、広々とした場所で皆一緒に暖かいものを食べよう。
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 そんな趣向で、今回も湯を沸かしてアルファ米からご飯を作り、既に調理して冷凍保存してきた料理を鍋で温めてご飯にかけることにした。タイ料理のガパオに、茄子のスウィート・チリ・ソース炒め、手羽中の黒酢煮。そして、ガパオに付き物の目玉焼きの代わりに味玉子。本当はガパオを暖める時にスウィート・バジルの葉を加えたかったのだが、それだけは持って来るのを忘れてしまった。

 日本の山の秋景色の中で食べるメニューとしてはちょっと場違いのような気がしなくもないが、ともかくも「山の上のアジア食堂」をメンバーにも楽しんでもらえたのは何よりだった。
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13:30 狼平 → 石丸峠 → 14:40 小屋平バス停

 昼食を楽しんだ狼平を後に、今朝歩いてきた山道を戻る。一登りで1957mピークに上がり、石丸峠を過ぎると、展望の良いトラバース道を10分も歩けば、小金沢山や狼平一帯の秋景色ともお別れだ。名残り惜しいが、しっかりと自分の胸の中に焼き付けておこう。秋色に染まった景色を前に、私の頭の中には少し前から、ヨハネス・ブラームスの第3シンフォニーの穏やかな第二楽章が流れ続けていた。
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 半日山を歩いた疲れが少し出たのか、下りはメンバーの歩みもゆっくりしたものになる。そして、落葉松の森を下り、もうすぐ未舗装林道に出ようかという地点で、何とH先輩ご夫妻が私たちのパーティーに追い着いた。比較的歩きやすい道では、女性を含めた私たちのスピード以上で歩いて来られたのだ。これには驚いた。

 それから更に山道を下り、ともかくも私たちは小屋平バス停に帰り着いて、T君の車と路線バスの二手に分かれて、やまと天目山温泉へ向かった。

 とても言葉にはできない秋の山の美しさと、それを仲間たちと共有することのありがたさ。リハビリに懸命に取り組むH先輩の見事な歩きぶりと、そのHさんのサポート役をすっと引き受けたT君の心優しさ。色々なことに心を洗われた一日だった。

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